「よう、っ!」
廊下を歩いていたは突然頭を叩かれた。
「痛っ!?」
痛みを感じるとほぼ同時には後ろを振り返る。
「よっ」
「…桃ち…城先輩」
が振り向いた先にはにっと満面の笑みを浮かべた桃城が立っていた。
桃城武――昔はよく遊んだが、1つ上の彼が先に中学に行ってしまったことで疎遠になってしまった幼馴染。
「何だぁ?昔みたく、桃ちゃんでいいよ。お前に桃城先輩なんて言われたら寒気がする」
はっはっはっと豪快に笑う桃城。
変わらないなぁ〜とは苦笑を浮かべる。
「久しぶりだな。何か、突出した頭が見えたと思ったら、やっぱお前だった」
が背が高いことを気にしているのを知っているのに、彼は時々こういう冗談を言う。
嫌なところも変わってない…。
しっしっしっと楽しそうに笑う桃城には頭をさすりつつ恨めしげに視線を向ける。
「…お久しぶりです。で、何ですか?突然」
久々の再会で頭を叩くなっとは内心毒づきつつ、通常より低めの声で桃城に訪ねる。
「あ、あぁ用って用はないんだけどな…お前、明日、暇か?」
何の前振りもなくにそう尋ねる桃城。
「へっ…?」
予想外の桃城の言葉に戸惑う。
「だからぁ、明日暇かって」
の反応にやや不満顔の桃城。
「あ〜…別に予定はない、ですけど…」
戸惑いつつ答える。
暇だし、ストリートテニス場に行こうと思ってるけど。
でも、大会だからって布川さんや泉さんも明日は来ないって言ってたなぁ〜。
…当然、杏ちゃんも神尾さんも伊武さんも来れないだろうし。
…仕方ないけど。
ちょっぴり気持ちがブルーになる。
「だろうな」
の心中も知らず、お前は万年暇人だからなぁ〜と楽しそうに、にしししっと笑う桃城。
桃城の物言いにむっとする。
「何なの、一体…」
頭にきて桃城に対して敬語を忘れる。
「明日、テニス部試合なんだよ」
にっと笑う桃城。
大会らしいからねぇ〜。
おかげで明日はストリートテニス場はガラガラですよ。
桃城に対して八つ当たりにも似た気持ちがの中でむくむくと湧き上がる。
「へぇ…頑張ってね」
「おうっじゃなくてっ。…あのよぉ、暇ならさ、お前明日、応援に来てくれねぇ?」
歯切れ悪く、不貞腐れたように上方に視線をそらし、鼻の頭をぽりぽりとかきながら桃城が言った。
「…おう、えん?」
オウエン。
おうえん。
応援。
テニスの大会の応援。
テニス部の大会の応援。
テニス部の大会。
と、言うことは当然…。
「い、嫌ならいいだけどよ」
急に黙り込んでしまったの態度を桃城は自分の申し出の拒否と受け取ったらしい。
「…行く」
が小さく呟く。
「へっ?」
桃城が聞き直す。
「行く。応援行くよ。桃ちゃん。行きたい。応援、行きたい」
ひしっと桃城の制服のすそを掴む。
興奮しすぎてか、その顔はほんの少し赤く染まっている。
事態の変化についていけないのか、桃城はぽかーんっとの顔を見返す。
「行くってば、応援」
反応を返さない桃城に再びが言う。
「え、あ、」
「だから場所と時間教えてよ」
ねぇねぇ、と桃城の制服のすそをくいくいっと引っ張る。
「あ…、あぁ」
桃城の顔にようやく笑みが浮かんだ。
桃城はに場所と時間を口早に告げる。
の顔が嬉しそうに、瞳がきらきらと輝く。
「お前が応援に来てくれりゃ、百人力だぜ。絶対勝つからさ。寝坊したりして遅れるんじゃねぇぞ」
桃城はわしわしっと乱暴にの頭を撫でた。
「ん、桃ちゃんも頑張ってね。応援するから。じゃあね〜」
…も?
首を傾げる桃城。
「おい…」
桃城がそれについて訊ねようとしたときには、はすでに足取り軽く廊下を去っていっていた。
そんなの後姿に桃城は小さく息をつく。
「…ま、応援に来てくれるってだけで上等、だよな?」
小さく肩をすくめ、そう小さく呟くととは反対方向、自分の教室へと歩き出した。
一方、嬉しさに、スキップもどきで教室に着いたはそのドアを開けようとしてぴたり、とその動きを止めた。
「…いけない。敬語使うの忘れてた。一応先輩なのに」
小さくぼそっと呟いた。
■戻■