波に乗った2人はその後5試合勝ち抜きを果たし、6試合目で敗れた。
「あ〜楽しかった〜」
へたっとベンチに座り込む。
「よかった。すごい一気に上達した感じだよ」
汗を拭きつつ杏はの隣に腰を下ろした。
も持ってきていたハンドタオルを取り出し汗を拭く。
「本当ですか?嬉しいです。これも皆さんのおかげですね」
へへっと笑みをこぼす。
帽子を取り、それで仰ぐ。
帽子の下からお団子出現。
何束か乱れてしまった髪が首筋に落ちる。
「えっ…」
「あっ…」
小さく声が漏れる。
「ふぇ?」
声の方を振り返る。
あんぐりと口を開けている神尾と伊武。
それを見ては苦笑する。
やっぱり普通は勘違いするよねぇ〜。
「女なんですよ、気づきませんでした?」
なんて名前そうそう男ではいないと思うんですけど…と自嘲気味に言葉を続ける。
「あ、そうだよな。わるい」
謝罪を口にする神尾と居心地悪そうに視線をそらす伊武。
やっぱり、男だと思ってたんだ。
分かっていたこととはいえ、少しショックを受ける。
「あ〜あまり気にしないでくださいね。格好が格好だし、その…慣れてますから」
「ごめんね、この2人鈍いから」
「一発でわかった杏ちゃんがすごいんですよ」
困ったように笑う杏に、は、はは、と乾いた笑みをこぼした。
「あっ敬語」
悪戯っぽく笑う杏に指摘され、はあっと小さく声を漏らした。
「あの、でも…杏ちゃんってテニス教えてもらった先生みたいな方ですし、それに…たぶん私の方が杏ちゃんより年下だと思うんですよねぇ〜」
ずっと運動部できたんで先輩相手にタメ口ってのは…と苦笑しつつ、息を整える。
「えっ?」
ん〜…と思案顔になる杏。
「ちゃんて今いくつなの?」
顎に人差し指を当て、尋ねる杏。
「あっ12歳です」
杏の問いにのほほ〜んと応える。
「「「12歳っ!?」」」
杏、神尾、伊武の声がハもる。
「はぁ…まだ誕生日来てませんから」
「ってことはお前中1かよ」
引きつった笑みを浮かべる神尾。
「てっきり同い年か、それより上だと…」
呆然と言葉をつむぐ杏。
「あ〜身長あるせいかよく年上に見られるんですよねぇ〜」
小学校のときに、中3、高校生と間違えられたこともあるんですよねぇ、と困ったように笑う。
「ちゃん、背高いもんねぇ〜、身長いくつあるの?」
「173です」
杏の問いに自嘲気味な笑みを浮かべ応える。
神尾と伊武の目がきらん、と光りやや鋭くなる。
それを見て、はヤバッと2人が何か言い出す前に慌てて口を開く。
成長期前の男というのは、伸び悩む身長に過大に反応する。
相手が女で自分より身長が高かったとすれば…いろいろ言われることはすでに経験済み。
「成長期がみんなより先に来ちゃったみたいで…女だてら背、高いといろいろ不便もあるんですけど、部活でバスケやってるんで、これも1つの自分の武器なんだって開き直ってます」
成長止まっちゃってるんでコレからどんどん抜かされてくんでしょうけどねぇ〜と笑う。
「そう?背高いとカッコイイと思うけどなぁ〜」
の身長と自分の身長を比べるようにして杏が言った。
2人の…特に神尾の目が光ったのをみて、はあわてて言葉を続ける。
「あぁ〜…そう言っていただけると嬉しいんですけどねぇ。でも女の子は背がそんなにないほうがいいと思いますよ」
小さい方が可愛い、と力説する。
「そうかなぁ〜」
「そうですよっ」
首を傾げる杏には力いっぱい頷いた。
「まぁ、隣りの芝は何とやらってことかしら」
あまりに力説するに苦笑する杏。
「だいだい、背高いと体育のとき必ず用具準備に回されるし、重い荷物はまわってくるし、好きな人できてもデカイって敬遠されるし」
頬に手を当てふぅっと息をつく。
「あら、ちゃん好きな人いるの?」
杏の目がきらんと光る。
「いや、今はいないんですけどね」
昔…と苦笑する。
あの時はそれを知った幼馴染が怒って相手の男の子を懲らしめてくれたっけ。
アイツもあの時は年上なのに私より背が低かったんだよなぁ。
…今は抜かされちゃったけど。
そんなことを考えて、はっと意識を現実に意識を戻すと目の前には、楽しそうにの顔を覗き込んでいる杏の顔があった。
興味津々と言う杏の目を見て、は言い知れぬ危機感を抱き、何とか話題をすり替えようと再び口を開く。
「杏さんは…」
「あっ杏ちゃんのままでいいわよ」
年上、と言うことがわかり、さんづけにしたが、途中で言葉さえぎられる形で訂正された。
「そうですか?…杏ちゃんたちはおいくつなんですか?」
とりあえず思い浮かんだことを口にしてみる。
「中2。あっ私たち3人とも不動峰中の2年生なの」
「そうなんですか。ここにいる人、あっみんな不動峰の方なんですか?」
他の人との親しそうだったし、だったら他校生の自分が紛れ込んで迷惑だったんじゃないか、と言葉を続ける。
「ううん、不動峰で来てるのは私たちくらい。たまに他の部活のメンバーも来るんだけど、あまり来ないわね」
ここにいる人達はみんな学校はばらばらよ、そんなこと心配しなくても大丈夫、と杏は笑う。
「で、」
再び杏は悪戯っぽい笑みを浮かべ、の顔を覗き込んできた。
「本当にちゃん今好きな人いないの?」
「いないですってばっ!」
「本当〜?さっき黙り込んで好きな人のことでも考えてたんじゃないの?」
力いっぱい否定するに杏はまだ疑わしげに視線を向けてくる。
「あ〜も〜…そんな人いませんってば」
「残念」
苦笑するしかないとは反対に楽しそうにくすくすと笑う杏。
肩の力がすとん、と抜けた。
ふぅ〜っとは大きく息を吐き出す。
何だか、さっきの試合より疲れた気がした。
「もぉ〜ちょっとした冗談だったのに〜」
杏は楽しそうにの肩をぽんぽんと叩いた。
次の瞬間、杏の顔がぱっと明るくなった。
「あっそうだ。コレを機に神尾君や伊武君はどう?お勧めよ」
にっこり笑う杏。
「はっ!?」
固まる。
「杏ちゃ〜ん」
「…」
その後ろで神尾は泣きそうな声を上げ、伊武は無言のまま眉間にしわを寄せた。
「あ〜え〜っと…私にはあまりにもったいないお話ですんで、謹んでご遠慮申し上げます…」
力のない言葉をつむぐ。
「そう?残念ね」
本当に残念そうに首を傾げる杏。
だが、杏はぱんと両手をたたき、すぐ明るい表情に戻る。
「じゃ、うちのお兄ちゃんなんてどうかしら?ちょっと表情乏しくて何考えてるかわかんないトコあるけど、優しいし、料理上手だし、身内のよく目を除いても結構いいせんいってると思うわよ」
「「杏ちゃ〜ん」」
泣きそうな声を上げる神尾と。
伊武は大きくため息をついた。
大方息が整うとはラケットを杏に差し出した。
「あっ杏ちゃん。ラケット貸してくれてありがとうございました」
ベンチから立ち上がる。
「えっもう帰るの?」
「えぇ…私の家、ここから結構距離あるもんですから。そろそろ帰らないと暗くなっちゃいます」
ベンチに座り自分を見上げる杏には笑みを向ける。
「そっかぁ。まだまだ一緒に打ちたかったんだけど、残念ね。…またおいでよ。一緒に打ちましょう」
杏はラケットをから受け取った。
「ん、ぜひぜひ。あっもしよかったら携番教えてもらってもいいですか?」
「えぇ。私も教えてもらっていい?」
2人はそれぞれ自分の携帯を取り出した。
は杏に続き、神尾と伊武にも教えてもらう。
「メールするからね」
そう言ってひらひらと手を振ってくれる杏にお辞儀をして、は足取り軽く階段を降りはじめた。
20040303
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