「うわっ」



何度目かの場外ホームラン。

の撃ったボールは相手の頭上を飛び越え、フェンスへと当たった。

は顔をしかめる。



「なんだぁ?」

「またかよ」

「おいおい、しっかりしろよっ」



コートの外から声が響く。



「…ごめん、杏ちゃん」



「気にしない気にしない。ね」

あっけらかん、と笑う杏には小さくため息をついた。



ボールはラケットに当たるのだが、ボールはいつもはるか上方へと飛んでいく。

どうも感覚がつかめない。

首を捻りつつ、ラケットを素振りする。



「…やっぱ難しいなぁ」

小さく呟く。



「おーい、いくぞ」

相手コートから声をかけられ、は慌てて位置についた。















記念すべき初試合、ストレート負け。





「だーっ何やってんだよっお前」

コートから戻ってきたに神尾の檄が飛ぶ。



「えっあっうっ、ご、ごめん、なさい…」

神尾の剣幕に押される



「だいたい力みすぎなんだよ。ボールに追いついてもあれじゃ飛びすぎるに決まってんじゃんかっ」

「あっ…はい」



「神尾君…」

後ずさるを見てたしなめようとした杏の声は神尾の耳には届いていないらしい。



「ラケットの振り方はこうだ、こうっ」

自分のラケットを振る。



「神尾、熱すぎ」

やれやれ、と肩をすくめる伊武。



「ほら、ボケっとしてないで振ってみろよ」

神尾はの方を睨む。



「は、はい」

神尾のまねをしてラケットを振る



「もっと肩の力を抜いて腕を振りぬけっ」

神尾が再び叫ぶ。



「はいっ」

神尾に言われるままにラケットを振る



「…ラケットの面の角度、もう少し下げて」

ぼそっと横から伊武が口を挟む。



「はい」

言われるままに手首を動かし面の角度を下げる。



「ボールをしっかり見ながら、打ったボールを落としたい方向を意識して」

優しく杏が言う。



「はい」

飛んでくるボールをイメージする。



「そうそう。いい感じじゃん」

にっとに笑う神尾。



「…さっきと比べればだいぶマシって程度だけどね」

伊武も口元にだけ笑みを浮かべている。



「あ、ありがとうございます」

はラケットを振る腕を止め、礼を言った。



「へへっお前、ボールに追いつけるぐらいリズムに乗ってるくせにもったいねぇんだよ」

嬉しそうに笑う神尾。



『リズム…って何?』



聞きなれない単語に内心首を傾げる



「じゃ、もう一回行ってみようか」

の肩を軽く叩き微笑む杏。



「あっでも…」

また、足を引っ張る…。



「大丈夫。今度はいい試合できるわよ。楽しく、楽しく、ね」

杏の笑顔に負け、はこくん、と頷いた。



「ありがとう、杏ちゃん」

杏とは再びコートへと入った。

位置につくとはふぅっと短く息を吐き出した。



「肩の力を抜け〜」

コートの外から神尾の声が飛んできた。



「リラックス、リラックス」

後ろから杏の声が聞こえた。



「うん」



先ほど言われたことを心の中で反芻する。

肩の力を抜いて、ラケットは腕全体で振りぬく。

それからラケットの面の角度はなるべく押さえて…。

きたボールをよく見て、最後まで目をそらさず、コートを狙う。

振った腕に重みを感じ、次にバシッという小気味いい音が響いた。



「15―0」



「あっ」

小さくの声が漏れる。

どかっと背中に衝撃を感じた。



「やった、入ったじゃない」

杏が後ろから方に飛びついていた。



「うん」

杏の笑顔につられ、の顔にも満面の笑みが浮かぶ。



「あぁ〜っ杏ちゃん」

神尾の悲鳴が聞こえた気がしたが、はそれはひとまず聞かなかったことにし、杏と手を取り合って2人でぴょんぴょんとはねる。



「今のすごくよかったわよ」

「うん、ありがとう。杏ちゃん」

「…これぐらいのことではしゃぎすきなんじゃない」

ため息交じりの伊武の声が聞こえが気がしたが、それも右から左へと流した。



かわりに、



「神尾さんも伊武さんもありがとうございます」

コート外の2人にもはラケットを振った。

コートの外の2人は顔をお互い見合わせ、口元に笑みを浮かべると小さく肩をすくめた。



「…試合、続けていいか?」

相手コンビからそう言われ、杏とは顔を見合わせ、ふっと微笑み合うと再び位置についた。





20040303










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