「いってきまーす」
「車に気をつけるのよ」
「はーい…ほら、いくよ、ジョン」
はいつもようにジョン――飼っている犬の散歩に出かけた。
ランニングがてらの散歩。
「…ジョン、ちょっと休憩しよう」
はそう言って公園へと入る。
もちろんジョンも一緒だ。
「ふぅ〜」
日陰のベンチを選んで腰を下ろす。
ポーン、ポーン…
何か音が聞こえた。
は何の音かと、あたりをキョロキョロと見回した。
音はすれども姿は見えず…周囲は木々に囲まれてその音が何なのかは見えない。
身体を伏せていたジョンが立ち上がりぐいっと を引っ張られた。
「わぁっ」
そばの茂みの中に引きずり込まれる。
「ちょ、じょ、ジョンっ!?」
一瞬視界が木の葉によって遮られ、反射的に は目をぎゅっと閉じた。
閉じた瞼の先に光を感じ、ジョンが立ち止まった。
ジョンを叱ろうと がゆっくりと目をあける。
その目に映ったのは、揺れる長い髪。
その人は一定のリズムでボールを打ち返していた。
左右にすばやく動くその姿は羽が生えてるみたいに軽やかで。
目を奪われた。
パシッ。
小気味よい音をたててボールを受け止め、こちらの方を見る。
あまりにじっと観察していたせいだろうか。
無言でその人はこちらを睨みつけていた。
真っ直ぐなその目にも目を奪われる。
綺麗。
それがその時 の素直な感想だった。
「ワン」
ジョンが前に飛び出す。
「わぁっ」
再びジョンに引っ張られる 。
「なっ」
ジョンは長い髪の人に飛びついた。
長い髪の人は突然の事に対応しきれず、後ろへとバランスを崩した。
ジョンに引っぱられた もその人の上に圧し掛かる形となってしまった。
ジョンは嬉しそうにパタパタと振りきれんばかりに尻尾を振っている。
「ててっ…オ、オイ」
必死にジョンから顔を背ける長い髪の人。
「す、すいません」
は謝りながら、立ち上がろうとしてピタッと動きを止めた。
「…」
の視線の先、の手元は相手の胸元に置かれている。
「…」
ペタペタ。
胸元に置かれた手を動かす。
「!」
さわられた方は何がなんだかわからず固まっている。
ペタペタペタペタ。
先程より動きが速くなる。
「…」
「なっ」
黒い髪の人は を突き飛ばす形で後方へと飛び去った。
は不思議そうに先ほど胸元を触っていた手を見つめている。
「何すんだってめぇはっ!?」
怒鳴る長い髪の人。
は自分の耳を疑った。
綺麗な風貌とは似合わないきつい物言い。
「…」
は驚いたように目を見開いてその顔を見る。
「んっだよ、アホ面、激ダサだな」
低い声。
「あんた、男かっ!?」
彼を力一杯指差して叫ぶ 。
叫ぶのと同時に、今度は が後ろに飛びのく。
「ッたり前だ。なに馬鹿なこと言ってやがるっ!何処からどう見たって俺は男だろうがっ!!」
怒鳴る黒髪の人。
「だって、だって、だってぇ〜髪長いし、綺麗だし、女の人だと思ったんだもん!!」
力一杯大声を出す 。
「な、俺は男だぁっ!」
負けじと長い髪の人は怒鳴った。
その顔はやや赤らんでいた。
それは怒りのせいか、それ以外の理由があったのかはその時の には分からなかったが。
「ワン」
再び、彼に飛びつくジョン。
「わぁっ」
「こら、ジョン」
の静止もきかずにジョンは彼に飛び掛ると嬉しそうにぺろぺろと彼の顔を舐めていた。
「お、おい…こいつ、早くどかせ」
焦って に怒鳴る彼。
「…もしかして、犬苦手?」
そんな彼の様子を見て頭に浮かんだ疑問をそのまま口にする 。
「そ、そんな訳ねぇだろ」
強がってはいるが顔は心なし引きつっているように には見えた。
「ぷっ…くっくっくっく…あははは」
は彼のそんな様子を見てふきだした。
最初は相手が気にするだろうと、堪えようと思ったのだが、もはや声を消す事ができないほど大笑いとなる。
「おい、てめぇ、笑ってないでこいつをどけろっ」
叫ぶ彼。
それを見てふっとが何かを思いつき、口元に笑みを浮かべる。
「てめぇじゃないよ、あたし。 って名前があるんだから」
「はぁ!?何言ってんだ、お前?そんな事どうでもいいからさ」
「それが人に頼む態度?」
を睨みつける彼。
そして、その時初めて気付く。
が子どものように楽しそうな笑みを浮かべている事に。
「くっ…」
言葉に詰まる彼。
が、そうしているうちも楽しそうにジョンが彼の顔を舐めている。
「…こいつをどかしてくれ」
悔しそうに を睨みつける彼。
「お願いしますは?」
ふっと笑う 。
「……」
「ほらほら、どうしたのかな?」
「…………お願いします」
彼は小さい声でだが、確かにそう言った。
「どうしよっかなぁ〜」
「 っ」
そう叫ばれ、 は反射的にジョンのリードを引っ張った。
ジョンは彼から離れる。
「ふぅ…」
彼はようやく息をつき、文句を言うために に再び鋭い視線を向けた。
が、それは不思議そうに大きく開かれた。
「……お前、熱、あるんじゃないのか?」
の顔は真っ赤だった。
「おいっ」
「…名前」
の突然の異変に心配そうに声をかける彼の言葉は遮られた。
「はっ?」
「名前、なんて言うの?」
悔しそうに は彼を睨みつける。
「宍戸、宍戸亮だ」
低いその声で彼はそう言った。
「ジョン、待て…待て…まだだぞ…よし、食べていいぞ」
目の前に置かれた餌をおいしそうに食べるジョン。
「よしよし、えらいぞ」
そんなジョンの横で宍戸が嬉しそうにジョンの頭を撫でている。
「…」
そんな様子を見て は呆れ顔。
「んっだよ?」
そんな の視線に気付く宍戸。
「…前はジョンに触れもしなかったのにねぇ…犬嫌い治ったんじゃない?」
「…ジョンはかまないって分かってるからいいんだよっ」
ふいっと視線を逸らす宍戸。
「はいはい、そうですか。私はてっきりあの後輩君が犬っぽいから犬になれたんだと思ったわよ」
「そう言えば、あいつってジョンに似てるかも」
納得する宍戸を見て は彼の後輩の顔を思い浮かべて苦笑した。
「アイツの事なんかどうでもいいだろ…いくぞ、ほら」
宍戸は左手にジョンのリードを持って右手を に差し出した。
はその手を取る。
「テニスばっかじゃなくて少しは彼女にも時間割いてもらいたいなぁ〜…最近ダブルスの練習とかでずっとあってもくれなかったし」
歩きながらため息をつく 。
「…」
横には不貞腐れたような宍戸の顔。
そんな宍戸を見て からふっと笑みがこぼれた。
「…お詫びは駅前の喫茶店のケーキセットでいいから。よかったね、優しい彼女で」
はそう言って空いている手で宍戸の頭を軽く叩いた。
あの時とは違う短く切られたその頭を。
(Fin.)
反省文
他校もの☆初・宍戸夢いかがだったでしょうか?
こう書くと他校もの少ない事を実感します。
これ長編でやってみたかったかも…。
いいなぁ〜宍戸♪
今回の宍戸夢を書くにあたり個人的にやりたいこととして…テニスに取り組む宍戸様の一場面と「あんた、男かっ!?」とヒロインに言わせる事、というのがありました。
これらは宍戸夢で元気なヒロインというのを考えた時、真っ先に私の頭に浮かんだ事で…。
某サイト様の小説読んで以来、宍戸はとっても綺麗…というのが私のイメージです。
でもって純粋で一途でテレ屋で意地っ張りで、それらに加えて跡部様とは違った意味で俺様法律主義…なのに何故かやられ。
かなり夢入ってますね。
読んでいただきありがとうございました。
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