ざわっ。
それまでのコートの空気が変わる。
一瞬のざわめきの後、コートがしーんと静まり返った。
人の波がモーセの海の如く綺麗に左右に割れていく。
割れた人並みから榊が姿を現す。
榊はそれが当然であるようにコート端のベンチへと向かった。
ただ、その日はいつもとは違い、彼の後ろにはぴったりと深めに帽子をかぶった少年がつきしたがっていた。
「誰?」
日向が忍足の服のすそを引っ張りながら声を潜め尋ねる。
忍足は声を発せず軽く肩をすくめた。
「あっ」
鳳の口から小さく漏れた声。
「知ってんのか?」
宍戸が鳳に尋ねる。
「今日うちのクラスに来た転校生なんですよ。帽子をあんなに深くかぶってるから最初わかんなかったんですけどね」
鳳はにっこりと宍戸のほうに笑いかけた。
レギュラー陣は再び榊と少年へと視線を戻す。
他の部員たちの目も榊と少年へと集中する。
少年はその視線が気になるのか、その視線から避けるように榊の影へと身を隠す。
そんな少年に榊は2,3言葉をかける。
「跡部っ」
榊は少年から視線をはずし、跡部の名を呼んだ。
「何ですか、先生?」
榊の元へと駆け寄る跡部。
「新入部員だ。準レギュラーに入れる。それだけの実力は持っていると判断した」
榊は跡部からちらっと少年へと視線を移す。
「…よろしくお願いします」
少年は榊の視線を受けて跡部のほうへと軽く一礼する。
ただ形式だけの礼。
少年の顔は深くかぶられた帽子によって跡部からは見えない。
「…分かりました」
跡部は少年に鋭い視線を向けたままで答えた。
「しかし、実力の程を示してもらわなければ納得はできません」
跡部の言葉に少年は少し顔を上げ、跡部のほうを見る。
跡部と少年の視線が合う。
跡部は少年の目を見て、理由はわからないが、胸騒ぎを感じた。
「…そうか。ではこれから誰かと打たせるか? 」
榊がふっと笑みを漏らす。
その間も2人はにらみ合ったまま、お互い視線をはずさない。
「日吉っ」
榊が日吉の名前を呼ぶ。
日吉が集団の中からラケットを持って前に出た。
「打ってやれ」
「はい」
日吉は返事をすると少年へと視線を移した。
少年は日吉のほうを見ることなく、いまだ跡部とにらみ合っている。
日吉の目が鋭くなった。
「 」
榊が少年の名前を呼ぶ。
その名を聞いて跡部の目が見開かれた。
そのまま固まる跡部。
は跡部から視線を外し、榊のほうを向き直る。
「打て」
榊の口元に笑みが浮かぶ。
「…はい」
は素直にそう返事をすると自分のラケットを取り出しコートに入りようやく日吉のほうへと視線を向けた。
ふっと小さく息を吐き出す 。
日吉の目がますます鋭くなった。
短く一言二言2人で言葉を交わす。
お世辞にも穏やかとは言えない空気が2人の間には流れている。
そして、それぞれのコートに分かれていった。
が大きく息を吐き出しながら空を仰ぐ。
日吉はコートにひざをついた。
「なめんな」
小さな声であったが、周囲がしんっと静まり返っていたこともあって跡部の耳にはしっかりその言葉は届いた。
はそれをチラッと一瞥し、コートを後にした。
そのままわき目を振らず、真っ直ぐに榊の元に戻っていく。
「…何?あいつ」
向日が愕然としたように口を開いた。
「…」
みな、驚きから日向の言葉を返すことはできない。
は榊に一礼をしてラケットをしまった。
周囲が呆然としている中、跡部だけが に鋭い視線を向けていた。
「どうだ?」
榊は跡部へと視線を移す。
「納得、できそうか」
その言葉の端端で嘲笑かと思える笑いが含まれている。
「…」
跡部は無言のまま榊に対して軽く会釈をした。
その眉間には深くしわが刻まれていた。
「よぉ」
部活後。
最後までコートで打ち、部室の自分のロッカーを開こうと手をかけた時、 は声をかけられた。
はゆっくりと声のほうへ視線だけ移す。
「…お前、何でそんな格好してんだ?」
逆光で立っている1人の人物。
その人物を確認し の視線がやや険しくなった。
部長・跡部景吾。
「…意味がわかりませんが」
低く答える 。
跡部はドアを閉め、 に近づく。
「俺の目をごまかせると思うなよ、」
その目は挑発を帯びている。
「女のお前がなぜここにいる?」
跡部のほうに向き直る 。
は跡部の言葉を肯定するでも否定するでもなくただ跡部を見ている。
結果2人は真正面からにらみ合う形となった。
「…まぁいいさ。他のやつには言わずにおいてやる。お前がいたほうが面白くなりそうだからな」
跡部は小さく呟き、ふっと笑みを漏らした。
は静かに跡部を見据えている。
どこか挑戦的なその目。
「変わってねぇな」
「?」
楽しそうに笑みを浮かべている跡部に、 はいかぶしげな顔をする。
「上がってこいよ。お前ならすぐだ」
「…」
は静かに跡部の言葉を聞いている。
表情は崩さない。
跡部はそんな を見てふっと目を細めた。
ガンッと音を立てて の体を押し付ける。
「なっ!?」
突然のことに、 は跡部の行動に対応しきれない。
「!?」
2人の身体が離れる。
は大きく目を見開き、何が起こったか分からず呆然としている。
「口止め料ってやつだ」
跡部は の反応に満足したのか、クックッと肩を震わせて笑っている。
は力いっぱい口をぬぐった。
跡部はそれを見て満足そうに部室から出て行った。
(fin.)
反省文
氷帝レギュラーようやく出演です。
どうも氷帝だと文が硬くなります。
小学生時代の唯一の黒星の相手がヒロイン、という設定なのですがわかりにくいですね。
跡部キス連発してるし。
…キス魔?
跡部になら唇を奪われたい方は多いだろうなぁ。
イメージ崩された方ごめんなさい。
…中学生なのに女をあしらうさまが…将来が心配です。
読んでいただきありがとうございました。
感想などいただけるとうれしいです。
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