パァーンッ。
耳に残る高い音。
試合終了のコール。
仰ぎ見た空がいやに青さが濃かった。
相手がかぶっていた帽子が取り、そこから長い髪が滑り落ちた。
それを見て立ち尽くす俺にアイツは言った。
「なめんな」
ご丁寧に舌を出し、口元に笑みを浮かべたままアイツはコートから出て行きやがった。
「おもしれぇじゃねぇか」
俺の中に残った悔しさと高揚感、そして…。
氷帝学園男子テニス部部室。
中からかすかに少女の声が漏れてきている。
「ねぇいいの景吾?あの娘と付き合ってるんでしょ?」
くすくすと笑いながら跡部の首に手を回す少女。
「あぁん?」
少女の行動に顔をしかめる跡部。
「いいの?私とこんなことしてさ」
跡部に自分の顔を寄せ、うっすらと笑みを浮かべる少女。
「いいも何も、あっちが勝手にほざいてるだけで、俺はあいつと恋愛関係になった覚えなんかねぇよ」
跡部は少女から顔を背ける。
「そうなの?」
少女は面白そうに跡部の顔を覗き込む。
「だいたい、なんで俺があの程度の女にで満足する必要があるんだ?…俺は俺がやりたいようにやるさ」
跡部は先ほどのそっけない態度とは打って変わって口元にだけ笑みを浮かべ、少女に答えるように少女の背中にゆっくりと手を回した。
「もちろん、お前のもんになる気もねぇぞ」
少女の耳元で低く跡部は囁いた。
「そういう誰のものにもならないとこ、好きなんだよねぇ」
跡部のその呟きを聞き、少女からふっと笑みが漏れた。
2人の距離が徐々に縮まっていく。
ガタンッ。
突然部室の扉が開いた。
「ねぇっ景吾っ。終わりってどういう意味!?」
部室に入ってきた少女が叫んだ。
「あぁん?今取り込み中なんだよ」
そう言って跡部は横にいる少女の顔を自分のほうに引き寄せる。
引き寄せられた少女はあざ笑うかのように入ってきた少女に冷たい笑みを向ける。
「景吾っ」
それを見て少女が再びヒステリックな声を上げた。
その顔は怒りからか強張り紅潮している。
「そのまんまの意味だろ?うせな」
そう言って跡部は引き寄せた少女の唇を見せ付けるようにゆっくりとふさぐ。
それを見た少女は逆上して、跡部に向かって手を振り上げた。
しかし、それは振り下ろされる前に力強い彼の手によって動きを止められた。
「気の強いのは嫌いじゃねぇ…が、この俺を殴ろうなんていい度胸してんじゃねぇか。ああん?」
跡部はふっと目を細め、少女を正面から見据えた。
少女の体がびくっと大きく跳ね上がった。
跡部の目に怪しい光を帯びる。
「…そのくらいにしとき、跡部」
跡部は声のほうに顔を向け、そこに立っている人物を見て不機嫌そうに顔をゆがませた。
いつの間にやら忍足が部室のドアのところに立っていた。
「…」
無言で忍足を睨み付ける跡部。
「そんな目で見るなや。そろそろ監督が来る頃やから呼びに来ただけやん」
忍足は苦笑しながらそういった。
その言葉に跡部は不機嫌そうに少女の手を解放した。
少女はぱっと跡部から距離をとる。
「ほれほれ、修羅場は終わりや。今日のところは2人とも大人しく帰りぃ。大好きな跡部に迷惑がかかんで」
そう言って忍足が外に手を示すと少女たちは大人しく部室から出て行った。
忍足は笑顔でそれを見送りひらひらと少女たちに向かって手を振る。
「どないしたん?」
少女達の姿が見えなくなったのを確認して忍足は跡部の方を向き直る。
顔から先ほどの笑みは消えていた。
「あぁん?何がだよ?」
跡部は忍足の視線を正面から受け止める。
「女癖悪いんは今始まったことやないけど、最近激し過ぎへんか?」
「んなこと、てめぇにゃ関係ねぇだろが?」
2人は言葉を発せずただお互いを見据える。
しばしの沈黙が空間を支配した。
忍足がふと思い出したように口を開いた。
「そいや、去年も今の時期お前おかしかったなぁ…」
忍足のその言葉に跡部の眉間のしわが濃くなった。
忍足はそんな跡部の表情の変化を静かに見ている。
「…ま、ほどほどにしとき」
いまだ不機嫌そうに忍足を見ている跡部に忍足はそれ以上追求せず、笑顔を跡部に向けるとコートのほうへと戻っていった。
「チッ」
跡部は小さく舌打ちをするとジャージを羽織り、ラケットをもって部室を出て行った。
コートには他の部員たちがすでにアップを始めていた。
■戻■