その日、裕太は突然そんな事を言い出した。
「…俺、学校辞める」
俯きがちに顔を伏せて、いつもよりやや低い声で裕太は言った。
「えっ?」
目を見開いて裕太を見つめる。
「学校辞めるよ」
戸惑うに再び裕太はそう言った。
「突然、何、言ってんの、裕太」
動揺を隠せない。
「ここじゃ、オレはオレでいられねぇ。…だから青学辞める」
絞り出すような声で裕太は言った。
「青学辞めるって…学校辞めてどうするの、裕太」
は裕太の制服の裾を掴む。
「聖ルドルフに編入するよ」
裕太はキッパリとの目を見ていった。
「そんな…急に…」
握っていた裕太の制服の裾がするりとの手から滑り落ちた。
「もう決めたんだ。親の了承はもう貰ってる。オレはちゃんとオレ自身を見てくれる場所に行く。もう兄貴のおまけでいるのは嫌なんだ」
後半はから視線をそらし、俯く裕太。
「そんな…周助さんは周助さんで、裕太は裕太じゃない」
訴えるように言う。
「…でも他の奴はそうは見てくれない。ここじゃオレは天才不二の弟君だ…ここじゃお前だけなんだよ、ちゃんとオレを見てくれるのは。他の奴等はどうしたってそうは見てくれないんだ」
「…あたしだけじゃ駄目、なの?」
「…もう決めたんだ。オレは聖ルドルフに行く」
「…」
「…ごめん、ごめんな」
黙り込んでしまったを裕太は優しく抱きしめた。
と同様、裕太の顔も辛そうに歪んでいた。
そこで目が覚めた。
「…何であんな夢見たんだろう」
裕太が転校していく前の夢。
あれから裕太は聖ルドルフに行って寮生活をしている。
部活が忙しいとかで家の方にはめったに帰ってこない。
もちろん、あたしともほとんど会ってくれない。
…毎日メールはしてるけど、やっぱり逢いたいなぁと思う。
メールの内容もほとんど先輩の観月さんって人の事か、打倒周助さんって事…たまに越前の事も話題に出るけど。
やっぱりテニスの事ばかりだし。
裕太のテニス馬鹿はあたしとつきあい始めて1年以上経つと言うのに相変わらずで。
裕太らしいけど…それがたまにちょっともどかしくなる。
「いっけない、もうこんな時間」
あたしは慌ててベットから起き上がり、部活に行く準備を始めた。
――青春学園中等部。
コートの中に人だかりが出来ている。
理由は大体の推測がつく。
"私の可愛い後輩をまた困らせてないわよね"
そう思いながらはその人だかりに近づく。
案の定、人と人の間からかろうじてではあるが、小柄な少女を中心に周囲にいる部員たちの間で火花が飛び交っているのが見えた。
"やっぱり…こりないなぁ、みんな。悠里ちゃんが越前と付き合うって決めたんだから、これからは温かく見守ってやろうって気持ちはないのかな、この人たちは"
本当、世話が焼ける人達なんだから…そう思って は小さくため息をついた。
"仕方ない、可愛い後輩のため、ここは一肌脱ぎますか…"
そう決意して、は部員たちをかきわけて人だかりの中心を目指す。
「ごめん、ちょっと、通して」
ようやく中心に辿り着く。
「あっ 先輩おはようございます」
そんなにいち早く気付いて中心にいた1年マネの悠里ちゃんがにっこりと微笑んで挨拶してきた。
「おはよう悠里ちゃん。今日も可愛いわぁ」
「きゃ」
は悠里の傍に行くと勢いよくきゅっと悠里を抱きしめた。
すると悠里が赤くなって小さく声を上げた。
そんな様子を羨ましそうに見ている面々から悠里を隠すようにしてはにっこりと笑みを向ける。
「早く、練習の準備をしてください。もう時間ないですよ」
その笑顔に周りにいた部員達は散っていく。
「…よし、行ったか」
ボソッとそう言う。
そして悠里ににっこりと微笑む。
「突然ごめんね、悠里ちゃん」
「あ、いえ、ありがとうございます」
顔を赤くしたままお礼を言う悠里。
その仕草がとても可愛い。
"みんなの気持ちも分かるかも…"
そう思い、自分に対して苦笑する。
「…先輩、それ俺のなんですけど」
いまだ悠里を抱きしめたままにやや拗ねたようにそう言ってくるのは越前。
「あっ越前いたんだ。おはよう」
傍にいる存在にようやく気付いた。
「…おはようございます」
むすっとしたまま一応先輩だから…と自分に言い聞かせて挨拶をする越前と、そんな越前を見て苦笑する。
「…いい加減返してくださいよ」
「いいじゃない、あの状況から助けてあげたんだし。それにあたし達仲良しさんだもんね、悠里ちゃん」
不機嫌いっぱいの越前を挑発するようには悠里にますます密着してみせる。
のその行動にますます顔を赤くする悠里と、ますますむっと顔をしかめる越前。
「…ごめんごめん。でも女のあたしにまでヤキモチやいてたら身が持たないよ」
そんな2人の様子を見比べてくすくすと笑う。
「たまには貸してくれたっていいのにね…まぁ、2人とも可愛い後輩さんだから今日の所は邪魔者は退散してあげる。悠里ちゃん、今日来るの遅くなっちゃったし、後はあたしがやっとくから。…しっかり捕まえときなさいよね、越前」
そう言っては悠里をようやく開放し、そっと越前の方に背中を押してあげる。
「…先輩?」
そんなを不安そうに見上げる悠里。
そんな悠里にひらひらと手を振っては今日の分のスポーツドリンクを作りにその場から去って行った。
「…ねぇリョーマ君、今日の先輩どこかいつもと違うよね?どうしたのかな?」
心配そうにが去って行った方を見つめる悠里。
「…さぁ」
そんな悠里を見て憮然と答える越前。
「心配だなぁ、先輩」
俯いてそう呟いた悠里の方を見て小さくため息をつく越前。
「…本当、世話が焼けるよね」
そう言って越前は、コートの方へ歩き出した。
「えっリョーマ君」
慌てて越前の後を追う悠里。
「…今回だけだよ」
そう言って、越前は悠里の方を振り向いて優しく微笑んだ。
――放課後。
「先輩、待ってください。あの、宿題見て欲しいんですけど…」
「あっうん」
どうしても宿題を見てほしいと言う悠里の申し出には学校に残っていた。
「…この公式を使って…こうなるの」
「あっはい」
宿題をやっているのに、いやにそわそわしてドアの方ばかり気にしている悠里。
そんな悠里には尋ねてみる。
「せっかく部活ないのにいいの?越前と一緒に帰らなくて」
「えっあっいえ…」
途端に慌て出す悠里には微笑む。
「解き方分かったみたいだし、後はやり方一緒だから大丈夫だよ。今日はもう終わりにしよう」
そう言って立ち上がる。
「あぁ、先輩まだ駄目です」
ひしっとの腕を掴む悠里。
「ちょ、悠里ちゃん??」
そんな悠里の行動に戸惑う。
「どうしたの、悠里ちゃんなんか変よ」
そう言っては心配そうに悠里の顔を覗き込んだ。
――と、その時。
「っ!!」
突然教室の扉が開いて、一人の男子生徒が飛び込んできた。
「裕太ッ!!」
それはそこにいるはずのない人物。
「大丈夫かお前…心配したぞ、倒れたって聞いて」
傍に悠里がいる事も気付かずを抱き寄せる裕太。
「えっ」
「えって…違うのか?」
そう訊き返す裕太。
こくんと頷く。
「なんだ、そうか…あ」
ようやく傍で赤くなっている悠里に気付く裕太。
固まる。
「だーっ!!」
そして、勢いよくから離れた。
「あっつわ…だ、誰だ、お前」
裕太動揺。
「あっ、し、椎名悠里です」
裕太の声に驚いて名乗る悠里。
「…あたしの後輩。可愛いでしょ?今宿題見てたの」
「…そ、そうか」
気まずい雰囲気が流れる。
「…ねぇ、まだ終わんないの?そろそろ帰りたいんだけど」
そんな時、ドアから越前がひょいっと顔を出した。
「あ、うん。じゃ、先輩ありがとうございました」
ペこんとお辞儀をして越前の元へ走っていく悠里。
「おい、待て。越前っお前、騙したな」
叫ぶ裕太。
「…何の事?」
しらっとそう言う越前。
「てめぇ」
わなわなと震える裕太。
「…これで貸し借りなしっすからね、先輩」
そう言って越前は悠里の手を取って去って行った。
「…」
「何なんだよあいつは」
呆然とすると、怒り心頭の裕太。
「ぷっ」
突然噴出す。
「な、何だよ突然」
そんなにたじろぐ裕太。
「何か、やられたなぁって感じ」
くすくすと笑うを見ていて、裕太の顔も穏やかになっていく。
「あーあ、部活勝手に抜けてきたからなぁ。後で観月さん怖いだろうな」
「…練習抜けてきてくれたの?」
裕太のぼやきに驚く。
「まあな」
そう言ってぷいっとそっぽを向く裕太。
そんな裕太を見ては優しく微笑んだ。
「ありがとう、裕太」
「…別に、俺が勝手に騙されただけ出し」
ぶっきらぼうにそう言う裕太。
「でもなんか嬉しかった。来てくれて」
そう微笑む。
「そっか」
そう言って裕太はそっと目を閉じた。
が、すぐに。
「いくぞ」
顔を背けたままの方へ手を伸ばす裕太。
「部活中だったしすぐ戻んないとな。兄貴にあったりしたら面倒だし。途中までだったら一緒にいてもいいぞ…嫌ならいいけど」
は微笑んでその手を取る。
「途中まで一緒に行こう」
「ああ…なぁちょっと遠回りしてかないか?」
そう言う裕太は耳まで真っ赤だ。
「いいの?部活途中なんでしょ?」
そんな裕太を見てくすくすと笑う。
「いいんだよ、どうせ怒られるんだから」
視線を逸らしたままぶっきらぼうに言う裕太。
「嬉しいけど無理しなくてもいいよ」
「無理なんかしてねぇよ」
2人は手を繋いで教室から出て行った。
(Fin.)
反省文
初の他校メンバー夢いかがだったでしょうか?
予想以上に越前&悠里ちゃんが出てきて書いててびっくりです。
先輩思いの彼らが一肌脱いだ…そんなお話です。
一番最初の転校前のやりとりはいらないかなぁ…とも思ったのですが気にいたので残留。
これを機に他校メンバーまた挑戦してみたいです。
いつになるかは分かりませんが…。
…にしても裕太君勝手に他校に入ってよかったのかしら。
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