昼休み。
お弁当を食べる者がポツリポツリといる中庭。
「あ〜ぁ、もう」
杏はため息をついた。
背を反らし、空を見上げる。
「ん?キャッ」
杏の顔に影がかかり、杏がそれを認識するとほぼ同時に、冷たい何かを額に当てられ、杏は小さく悲鳴を上げた。
慌てて体勢を元に戻し、影のほうを振りかえる。
「ほら」
橘が杏に苦笑しなら缶ジュースを差し出していた。
「ありがとう」
杏はからそれを受け取り、缶を頬に当てた。
「冷たい〜気持ちいい〜」
「温くなるぞ、ジュース」
「は〜い」
杏はくすくすと笑いながら頬から缶を放した。
橘は杏の横に腰を下ろす。
「お兄ちゃん達って予想以上に評判悪いのね…噂って怖いわぁ」
杏がジュースを口に運びつつ言った。
杏の言葉に橘はただ苦笑するしかない。
あの事件については尾びれ背びれが付きまくって噂されている。
噂どおりに信じるなら確かに自分たちに近寄ろうとは決して思わないだろう。
「大体部長のお兄ちゃんからして表情が乏しいのよね。それじゃ周りはなに考えてるのかわかんなくって不安になるのも無理ないわよねぇ〜。そんなんだからむっつりなんて言われるのよ」
「…」
「根は優しいんだからそれを表に出してけばお兄ちゃんって結構モテるとおもうのにそうならないのはきっとそのせいよ。大体お兄ちゃんがもてれば、こっちから誘わなくたってミクスドメンバーに名乗りを上げる子たくさんいると思うし、彼女だってすぐできるわ。絶対損してるわよ、お兄ちゃんって」
「…」
杏の言葉にただ黙り飲むしかできない橘。
こういうときの彼女には逆らってはいけない。
特に今回の件に関しては、困難なことを彼女に押し付ける形になってしまったせいでストレスがたまっているのだから。
後輩の前ではそんなこと微塵も見せずに笑顔でいる彼女のちょっとした八つ当たりに、兄である自分が付き合うのは当然なのかもしれない、と橘は自分に言い聞かせる。
中体連からミクスドの正式通達が着てから2週間ちょっと経とうとしていた。
色々当たってはいるが、色よい返事は返ってきていない。
いまだ不発だ。
「何とかなりそうか?」
他人事のような橘の言葉に杏は眉をひそめる。
「今説得してる子が何とか受けてくれそうなの。1年生だけど結構上手いしパートナー次第でいい試合できると思うのよね。1人は何とかかるだろうけど…もう1人、となると難しいわねぇ」
「そうか」
頬に手を当て首を傾げる杏を眺めながら、橘は缶に口をつける。
「でも神尾君達も知り合いに当たってくれてるんでしょ?きっと見つかるわよ」
杏が励ますように声をかける。
あと1人。
流石の橘も少し焦りを感じていた。
もちろん表には出さないけれど。
「あれ?杏ちゃんじゃないのぉ〜」
突然声が降ってきた。
杏が声のほうを振り返った。
橘声のほうに視線を向ける。
みつあみに眼鏡の少女がすぐそばの窓からこちらを見てひらひらと手を振っていた。
橘はその顔には見覚えがある気がしたが、名前までは思い出せない。
もしかしたら、校内ですれ違っただけで、元々名前名の知らないのかもしれない。
むしろそちらの可能性のほうが高い。
チラッと学年章が見え、橘は彼女が自分と同じ学年であることを知る。
「先輩どうしたんですかぁ?」
橘の思考はは杏の声によって中断された。
杏はいつの間にか橘の横から彼女のほうに駆けよっていた。
「生徒会のアンケート結果回収中。1年終わったから次2年」
窓から橘たちを見下ろしている少女――はくすっと笑みをこぼし紙の束をかざす。
おそらく各クラスで出されたアンケート結果の集計用紙だろう。
「大変そうですね…あっあたし手伝いますよ。すぐそっち行きますからそこでちょっと待っててくださいね」
杏はにっこり笑ってそう言うとスカートを翻し駆け出す。
「ちょ、杏ちゃん、いいよ、私の仕事だし…ってもう遅いか」
後者の角を曲がってしまった杏の姿はもう見えない。
軽く肩をすくめる。
は橘のほうを振り返った。
「この間はどうも…新男子テニス部部長のタチバナキッペイ君」
口元にだけ笑みを浮かべてはそういった。
その笑みは先ほどまで杏に向けていた人のいい先輩というものではなく、どこか挑発的なものだった。
「お前…」
その物言いに橘ははっとし、彼女の顔を見返す。
「もしかしてこの間の…」
「もしかして気づいてなかった?」
くすくすと笑う。
橘がほんの少し眉を寄せると、はますます面白そうに笑った。
「ミクスドのメンバーはもう見つかった?」
の問いに橘の目は大きく見開かれた。
なぜそのことを知っている?
「杏から聞いたのか?」
「いいえ」
橘の問いは静かに否定された。
「では、どうして…」
「先輩、お待たせしました」
橘の言葉は戻ってきた杏によってさえぎられた。
「あ、杏ちゃん」
もう橘を見ることなくは杏とだけ会話を進める。
「せっかく靴は着替えてきてくれたんだけど大丈夫だから」
「でも…」
杏はちらっとが持っている紙の束に視線をやる。
「私の仕事だしね。それに可愛い杏ちゃんにこんな雑用させられないわ」
いたずらっぽく笑っては杏の頭を優しくなでる。
杏はどうしていいのか分からず困った顔をしている。
「ありがとう。…その代わりといってはなんだけど今度また片付けのとき手伝ってもらえる?」
あそこ片付けるの大変なのよ〜ッとたは〜と苦笑を浮かべるを見て、杏の顔にようやく笑みが戻る。
「はい」
元気な杏の返事には満足げに笑顔を向ける。
「そのときはまた一緒にお茶しようね。じゃ、行くわ。あんまり遅いと会長怒りそうだし…それじゃ、タチバナ君頑張ってね」
は橘の方に微笑むとと歩き出した。
「杏、アイツは?」
呟くように杏に訊ねる橘。
「えっお兄ちゃん、知り合いじゃないの!?」
橘の眉間にかすかにしわがよる。
杏は大きく息を吐き出した。
「先輩。生徒会の副会長。生徒朝会とか総会とか進行やってるじゃない。女に人だけどカッコいいし結構人気あるんだよ。本当に知らないの?さっき名前呼ばれてたじゃない」
「…」
杏の質問に橘は無言のままだった。
の背中を睨むように見つめている。
「お兄ちゃん…?」
いつもの橘らしからぬ行動に杏は小さく首をかしげた。
「で、何でお前はその生徒会の副会長と知り合いなんだ?」
の姿が完全に消えてから、橘は杏に訊ねた。
「転校したての頃特別教室が分からなくてうろうろしてたらナンパされたの」
にっこりと笑顔で言う案。
「…ナンパ?」
眉をひそめる橘。
「そ。可愛いねぇ〜何年生?困ったことがあるならお姉さんに言ってご覧って」
「…」
「生徒会室でお茶ご馳走になっちゃった」
橘は軽く頭痛を覚えた。
数日後。
「橘さん」
神尾は満面の笑みで橘の元へ駆け寄った。
「ミクスドの3人目連れてきました」
「…あぁ」
神尾の言葉に振り向く橘。
「お前…」
「よろしく、タチバナ君」
そこにはにっこりと笑顔を浮かべる彼女が立っていた。
反省文
いかがだったでしょう…?
ほぼ名前変換意味なし。
夢というより峰小説もどきです。
さてはて、T&Sをおやりの方はお分かりでしょう。
S&Tの舞台が峰だったら…という設定でやってます。
2ではヒロインバージョンの場合、峰戦前ミクスド3で出るかかミクスド1で出るか選択してますよね。
ということは杏ちゃんのほかに女の子2名いる、はずなんですよ。
ミクスド組み込まれたら他のところはともかくぎりぎり7人の峰は無理なんじゃ…と思いつつ、それは考えてはいけないと自分に言い聞かせてます。
…他にも部員いるの?
それともミクスドとシングルス掛け持ちとか…?
ルール的に無理そうですねぇ。
13.3年の貫禄がこの話の再度ストリートなってますので呼んでいただけたらもう少しわかりやすかもかもです。
さてはて、読んでいただきありがとうございました。
感想などいただけると嬉しいです。
200402
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