「「あ…」」
呟かれた言葉がハモる。
お互い見つけあった後、どちらからとも視線を相手からそらした。
俯き耳まで赤く染まる2人。
「…あ、あの…お疲れ様です…」
「あ…あぁ…」
「…」
「…」
「えっと…じゃ…」
「…あぁ」
視線をそらしたまま歯切れ悪く言葉を交わしお互いそそくさとその場を離れていく。
パタンと部室のドアが閉まり、1人はドアの向こうに姿を消した。
おそらく閉めたドアに寄りかかるようにして緩む口元を隠しながら熱を持ってしまった頬を冷やしていることだろう。
かく言うもう一方も両手で頬を押さえつつ、ぽふぇっとなんとも幸せそうな笑みを浮かべている。
そんな2人を遠めに眺めていた人物が呆れたようにため息をつきながら口を開いた。
「…ねぇ不二」
「なに?英二」
「あの2人って本当にまだ付き合ってないのかなぁ〜?」
「みたいだね」
スポーツドリンクに口をつけながらどこか疲れた表情で尋ねる菊丸とそれに対して笑顔で淡々と答える不二。
「…見てるほうが恥ずかしくなるくらいハート撒き散らしてるのにね」
「そうだね」
「あの2人っていつまでこんな状態続ける気なのかなぁ?さっさと付き合っちゃえばいいのに」
「ん〜…でもまぁ、あの2人らしいんじゃない」
「見ててこう…イライラしない?」
「そう?僕は面白いけど」
「…」
「海堂があんな顔するの彼女の前でだけだし」
「…」
「付き合うんなら自然とくっつくし、そうでないならお互い他の人と付き合うんじゃない?」
「…不二冷たいっ。先輩として後輩のために一肌脱ごうって思わないのかよぉ〜」
ぷぅっと頬を膨らませる菊丸。
不二はそれには苦笑するのみで何も返さなかった。
「もういいっ。俺はちゃんに協力するかんね」
菊丸はそういうとの方にかけていった。
「ちゃんっ!!」
「ひゃっ!!」
勢いのままの後ろから抱きつく菊丸。
「き、菊丸先輩!?あ、あの離してくださいっ」
「俺はちゃんの味方だかんねっ。だから頑張るんだよ」
会話の成り立たない2人。
「あの、よくわかりませんけど、頑張りますからとりあえず離してください」
「そう、勇気を持って一歩踏み出すことが大切なんだよ。大丈夫絶対上手くいくからね」
は菊丸の腕から何とか逃れようとするが、菊丸は自分の意志を伝えるのに夢中でそれに気づいてはいない。
ぐいっ。
突然菊丸の身体が後ろに強く引かれた。
どさっ。
と共にしりもちをつく菊丸。
「痛ぁ〜」
菊丸の顔に影がかかる。
ぐいっ。
菊丸の腕の中からが消える。
「…何、してんすか」
低い声がの耳元でした。
「か、海堂先輩」
一気に紅潮するの顔。
の身体はすっぽりと海堂の腕の中に納まっていた。
「…大丈夫か?」
「えっあっはい。だ、大丈夫です」
「行くぞ」
そう言って海堂はの手を掴み歩き出す。
「え…あの…でも…えっ…」
は一度菊丸のほうに視線を向けたが、混乱したまま海堂に腕をひかれてその場を後にした。
「えっと、あ、お、お疲れ様でした〜…」
挨拶は忘れずに。
海堂が自然と早足となってを連れている。
は海堂について行くのに一苦労。
「あ、あの!!海堂先輩!!!」
が、一生懸命に海堂を呼ぶと
海堂はようやく我に返る。
「あ、…わ、悪いっ!!」
かぁっと頬を染め慌てての手を離す。
「い、いえ…」
開放された手を胸の前でもう片方の手で包み込むようにし俯く
そして再び2人の間に沈黙がおりた。
だが、その沈黙はいつもより短いものだった。
「…悪ぃ。その、痛かったか?」
「?」
「だからっ!…きつく掴んじまっただろ、腕」
「いえ、あの…」
「悪かった…」
頭を下げる海堂。
はそれを見て慌てる。
「海堂先輩、あ、頭を上げてください〜っ」
「…悪ぃ」
「い、いえ!!あの…嬉しかったです」
「え?」
「だから、その…私、海堂先輩に、その、海堂先輩と、手…繋げて」
の声は次第に小さくなっていく。
「…そう、か」
お互い赤面し向かい合ってたたずむ2人。
「あ〜…行くか?」
しばらくそうしていたがここでこうしているわけにも行かない、と海堂は口を開いた。
「…はい」
も小さく頷く。
2人は並んで歩き出した。
海堂の手が隣を歩くの手にかすかに触れた。
の手が一瞬ピクリと動く。
海堂の手がそっとの手を包み込んだ。
「…こんなんでよけりゃ、またしてやる」
「は、はい!!!」
「…他の奴がいないところでならな」
「はい」
2人は顔を真っ赤にさせ並んで歩いていった。
一方。
「なんだよぉ海堂の奴せっかく協力してやろうって言うのにぃ〜」
ご機嫌斜めな菊丸。
「英二、人の恋路に首を突っ込むと馬に蹴られちゃうよ」
不二がぽつりと呟いた。
(Fin.)
20040606
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