某所・カラオケBOX。





新体制になった青学テニス部が初の学内イベントである文化祭を無事終え、打ち上げの真っ最中である。

そんな中、騒ぎ・盛り上がる周囲を余所に苦虫を噛み潰したような顔で不機嫌な雰囲気を全身からかもし出す人物――海堂薫。



彼は本来ならばこんなところにくるつもりはなかったのだ。

元々彼はこのような騒がしい場所は好まないし、こんな暇があるならトレーニングをしていたい、というのが彼の正直な意見だ。

だが、『いいのか?は参加するって言ってたぞ』という彼の天敵の言葉によって彼はここに連れ出された。



少し前から付き合いだした愛しい少女の名前を出され、海堂も、『ならば…』と思ったのだ。

しかし、今海堂の横に彼女の姿はない。



約束していたわけではないし、束縛したい、というわけではないが、こういう場合は普通…。

『隣りにいるもんじゃねぇのか?』

海堂は小さく息を吐き出した。



「よぉマムシ」

その声に主を海堂はにらみつけた。



「何か用か?」

一際低い声で威嚇するが、声の主――桃城はそれに動じる様子はない。

だいたい、こいつが余計なことを言わなければ…それ以前にコイツにアイツとのことが知られたのが一生の不覚だ。



「そんな顔すんなって」

そう言って桃城は海堂の隣りの腰を下ろした。

海堂は心底嫌そうな顔をしたが桃城は気にする様子はない。



「ほらよ」

そう言って桃城は炭酸系の飲み物を海堂に差し出す。

海堂の眉間にしわがよった。



「んっ」

桃城はもう一度それを海堂に突き出した。



「…いらねぇ」

そう言ってふいっと横を向く海堂。

桃城は一瞬むっとした表情を浮かべたが、すぐに、にやりと小馬鹿にするような笑みを浮かべた。



「もしかして海堂、飲めねぇのか」

「んなわけねぇだろッ」

明らかにからかいを含んだ桃城の口調に海堂は食って掛かる。



「ん、じゃ一丁飲み比べといこうぜ」

桃城は海堂の目の前にコップを突き出した。

反対の手にはすでに海堂に突き出しているコップの中身と同じような飲み物の入ったコップが握られていた。



「望むところだ」

コップを受け取る海堂。

それを一気に飲み干した。

くらっと一瞬目眩がした気がしたが、それを桃城に気づかれないように鋭い目を相手に向けた。



「へぇ〜」

桃城もコップの中身を一気に飲み干した。



「追加、だな」

そう言って桃城は電話で注文を入れた。















「おっ次俺じゃ〜ん」

「って堀尾君連続で入れないでしょ」

「何だよ、いいじゃ〜んかよ」



そう言ってマイクを離さない堀尾。

1年生部屋と化したこの部屋。

のどかに親睦を深める1年生達。



「おっ楽しそうじゃん」

そう言って入ってきた数人の2年生達。



「あっ…」

1年の間から不安げな声が漏れる。

部内でもあまり評判がよくない面々。



「何だよ、俺らが来ちゃ迷惑か?」

「そ、そんなことは…」

凄みをつける先輩たちに小さくなる1年生達。



「そうかよ」

にやり、という笑みが先輩たちの顔に浮かぶ。

そのうちの1人がと堀尾の間の席に割り込み、はの腕を掴む。



「お前ら出てろよ」

彼と一緒に入ってきた何人かの先輩とともに堀尾達は外へと出された。



結果、は彼と部屋に2人っきり。

何度かしつこく言い寄られた2年の吉沢先輩。



『マズイ』



は口元が引きつらせ、ここにはいない“彼”の名を心の中で呼んだ。















「おい、海堂。お前そろそろ止めとけよ」

「五月蝿ぇ。テメーには負けねぇぞ。もう1杯…」

どこか目の据わった海堂とそれをなだめる桃城。



桃城が海堂に飲ませていたのはお酒。

アルコールに免疫がなかったであろう海堂は酔いが回るのが早かった。

徐々にできあがってしまい、今や完全な酔っ払い。

最初は面白がっていた桃城もそろそろやばくなってきた、と感じ始めたらしい。



「早くしろ」

そう言って桃城が手にしていたコップまでも奪い、海堂はそれを一気に飲み干した。



「海堂のヤツ、こんなに酒癖が悪かったとはなぁ〜」

もはや、苦笑するしかない桃城。



「何やってんだ、桃城。テメーも飲め」

「分かった分かった」

逆らうとますます事態が悪化しそうなので桃城は大人しくそれに頷く。



「どう、思うよ?」

がしっと桃城の肩を抱き、海堂が訪ねる。



「…何がだよ?」

海堂の行動に顔をしかめる桃城。

周りの面々も意外な光景にぽかん、とそれを見ている。



酔っているとはいえ、天敵である海堂とのスキンシップは桃城としては断固として遠慮したいものである。

本当なら肩に回っている手を今すぐ振りほどいてしまいたいのだがそれをすれば海堂は間違いなく不機嫌になるだろうし…今回こうなっている原因が自分にあるのは桃城自身も分かっているので何とかそれを我慢する。

普段の海堂なら、絶対こんなことはしないのだから。



「普通、こういうときはそばにいるもんじゃねぇのか?」

「何がだよ?って痛ッ」

不機嫌そうに尋ね返す桃城の頭をそれ以上に不機嫌な顔で海堂が殴った。



だ」

海堂が呟いたその名前に桃城は一瞬ポカーンとしたが、すぐ、新しいおもちゃを見つけたようないたずら好きな子どものようなそれへと変わる。

海堂は普段彼女のことを苗字で呼ぶ、それが今名前で呼んでいると言うことは…。



相当酔ってる。



イコール、普段なら言わないことも暴露するに違いない。

にやにや、と笑みを浮かべたまま桃城が尋ねる。



が横にいてくれた方がよかったか?」

「当然だろ」

先ほどよりも小さな呟き。



「テメェみたいのよりアイツが横にいた方がいいに決まってんだろうが」

『ケッ俺もお前の横なんざ願い下げだ』と桃城は毒づきながらも、表面上は笑顔を浮かべる。



「仲いいもんなぁ〜お前ら」

おだてるように桃城が言う。



「…」

海堂が顔を背ける。

その頬が先ほどより赤く見えるのは桃城の気のせいではないだろう。

桃城はずずいっと海堂に詰め寄る。



「で、どこまでいったんだ?」

海堂は顔を背けたままだ。



「キスはもうしたのか?それとも最後までやったったとか?」

にやり、と笑みを浮かべる桃城。



「…」

海堂の顔が見る見るうちに染まっていく。



「マジかよ。最後までやっちまったのか?」

「五月蝿ぇ」

そう言って海堂は立ち上がり桃城の胸倉を掴む。



「へ〜、ほ〜、ふ〜ん、案外、手早かったんだな、お前」

桃城はニヤニヤと言う笑みを浮かべる。



「チッ」

舌打ちをして桃城を離す海堂。



「照れるな、照れるな」

海堂の肩をバンバンと叩きながら言う桃城。

突然海堂の肩がびくっと震え、海堂は勢いよく椅子から立ち上がった。



「な、どうしたんだよ?」

海堂の表情が見る見るうちに険しくなっていき、海堂は部屋から飛び出していった。



「何だ、アイツ…」

突然部屋を飛び出した海堂の行動の意味が分からず、桃城は戸惑いながらもグラスに手を伸ばした。





カチャ。





とドアが開く。



「桃先輩、ちょっといいっスか」

そこにはラケットを手にした越前が立っていた。















部屋を出て海堂の目に飛び込んできたのは見慣れた2年の面々に囲まれている小さな影。

その中に彼女の姿はないかと小さな影に素早く目を走らせたが、の姿はその中にはないようだ。

ふっと安堵の息を吐き出したが、すぐにあることに気づく。

囲まれている面々は、確か、彼女と一緒にいるはずの面子。

彼らがいるのになぜ、がここにいないのか。



海堂の顔に怒気が帯びる。

海堂は足早に彼らに近づくと、取り囲んでいるうちの1人の肩に手をかけた。



「テメェら、何してんだ?」

突然背後から現れた海堂に取り囲んでいた面々は驚きをあらわにするが、すぐにそれは彼らの顔から消えた。



「何でもねぇよ」

「お前には関係ないことだろ」

ニヤニヤと笑みを浮かべる面々に海堂の怒気は膨らむ。





ゲシッ。





海堂は左手を壁へと打ち付けた。

青ざめる面々。



「な、なんだよ」

取り繕うとする面々を海堂は鋭い目で睨みつける。



「行け」

海堂が低くそう言うと、面々は蜘蛛の子を散らすようにその場から駆け去っていった。



「アイツ、は?」

いまだ青ざめている1年達に海堂は尋ねる。

先ほどの連中に向けたものほどではないが、いまだ、海堂からはピリピリとしたオーラが出ている。



「あのっ先輩っさんが吉沢先輩と部屋に」

海堂はその言葉を最後まで聞かずにその部屋へと飛び込んだ。





20040220










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