「はぁ〜…」

大きくため息をつき、肩を落とす。

周りの面々はいつもは周りまで元気にするほどの彼の焦燥ぶりに、ある者は呆然とし、ある者は眉をひそめた。

「も、桃…どうかしたのか?」

戸惑いつつも、心配そうに大石が声をかける。



「へっ?いや、別にどうもしませんよ」

大石の声に自分が何処にいるかを認識したらしい。

はっとしてからにっといつものどこかいたずら好きな子どもっぽさの残る笑顔を大石へ向けた。

「そ、そうか…?」

先ほどの彼との変貌振りに大石は頷くしかなかった。

背中に菊丸の『もっと突っ込んで聞けよ、大石』という視線を感じるが、大石はそれ以上は桃城を問いたださない。



元々大石は頼られれば全面的に協力するが、相手が言いたくなるまでそのことについて問い詰めるタイプではない。

もちろん、問い詰めないと何も表にさえ出さず自分の内側だけにとどめがちな人間達――その筆頭たるは手塚なのだが――に対してはやや強引な手段に出ざるをえないこともあるが、桃城はそうではない。

自分の力量をしっかり把握しその限界を見極め可能な限り自分自身で課題を乗り越える、それは部員誰にでも言えることなのだが。桃城の場合それが自分のみではどうあがいても不可能ようなら他者に助力を願える人物である、というのが大石の桃城への見方だ。

自分の力量を見極め、無意識の最適な解決方法を見つけ出せる、自分が弱い人間であると認められる彼はある意味では部で一番大人びているのかもしれない。

その彼が『どうもしない』と答えたのだから、彼が今抱えている問題というのは彼自身の力で解決すべきこと、もしくは、大石には助力できないことなのだろう。

後者であるなら少し寂しさを感じるが…彼がそう判断したのなら彼がそれを乗り越えるまで温かく見守ってやろうと大石は思う。



「何かあるなら相談に乗るからな」

大石はそう言って自分の着替えへと戻った。

「っす」

桃城は大石に心のうちで感謝を述べつつ、自分のロッカーへと向き直る。

「じゃ、お先に」

桃城はそう言うと笑顔で部室を出て行った。

パタンとドアが閉まる。



「はぁ〜…」

ドアが閉まるのとほぼ同時に外から大きなため息が聞こえた。

大石を睨みつける菊丸と、そんな視線を感じ背中に冷や汗をかきつつ苦笑する大石。

窓から見えるコートの向かう哀愁漂う背中は何故か小さく見え、いつもの頼りがいのある大きなものと同じには見えない。

「大石〜どうしてもっと突っ込んで聞かないんだよ〜。桃のこと心配じゃないわけ〜?」

頬を膨らませたパートナーに詰め寄られ、『やっぱり、さっきの選択間違ってたかなぁ〜』などと思い、大石は苦笑を浮かべた。










練習中。

コートでの桃城は元気だった。

人を食ったような笑みを浮かべてコートを駆け回り、海堂と喧嘩をして手塚にグラウンドを走らされる。



ただ――しいていえば、今日の桃城は元気すぎた。



「で、どうしたのかな?」

不二が横に立って尋ねたのは桃城――ではなく越前、だった。

「…」

気まずげに視線をそらす越前。



「越前?」

「…何で俺に聞くんスか」

にっこり微笑む不二に越前が憮然として尋ねる。



「昨日の帰り偶然さんに会ってね」



『彼女、桃と君が教室でキスしてたって言うんだよねぇ』



ふふっと笑みを浮かべる不二。

青ざめる越前。



「で、どうなのかな?」

「し、してないっスよっそんなことッ!」

慌てて言う越前。

「そうなの?」

「そうっスよっ」

意外そうに言う不二に越前は口調を強めてそういった。

「ふ〜ん…そうなんだ」

『なんだ、つまらない』と続ける不二に越前は脱力する。



「で?」

急に不二の声色が変わり、越前はびくっと身体を震わせた。



「どうして彼女がそんなことを思ったのかな?」



恐る恐る不二の顔を見上げた越前の顔が引きつる。

うっすらと目を明けて口元に笑みを浮かべる不二に越前は彼の知る限りの事の顛末を全て話させられた。



「ふーん…なるほど、ね。それはちょっと荒療治が必要かな…もちろん、協力してくれるよね、越前?」

思案顔の不二の横には微かに震える越前がいた。










「お〜い越前帰るぞ〜」

先に部室にいったであろう越前の名前を呼びながら桃城は部室に入った。

「あれ?」

部室には誰もいなかった。

「…?」

怪訝な顔をする桃城。



部活終了直後。

1年の片付けを手伝って、水道で頭から水を被って、すぐに部室に来た。

水道場にいたのは数分。

その間に一緒に片付けをしていた1年が全て帰ったとも思えない。

いつも仕事をしながら残っている手塚と大石の姿もない。



おかしい。



とりあえずコートに戻ってみるか…誰かいるかもしれないし、と桃城は振り返る。

と、ほぼ同時に部室のドアが開いた。



「やぁ桃。ちょっといいかな」

にっこりと微笑む不二。

笑顔を浮かべているが彼がまとうのはいつもの穏やかな空気ではない。

試合の前の彼の雰囲気と似ている、それ。



「いいっスけど…どうしたんスか?」

戸惑っている桃城をよそに、不二は部室のドアを閉めた。



「回りくどいこと言ってても仕方ないから単刀直入に聞くけどね…桃、越前とキスしたんだって?」

「なっ…そんなことする訳ないじゃないですか」

男同士ですよっと叫ぶ桃城。



「でも、彼女キスしてるとこ見たって泣いてたよね」



「えっ…」



桃城の目が大きく見開かれる。



「自分は、越前との事を隠すための隠れ蓑なんかじゃないかって」



「ち、ちが…俺は…」



「違うなら、何ですぐ彼女を追いかけなかったの?」



桃城の言葉をさえぎるように不二が言葉を続ける。

桃城は何かを続けようとしたが、言葉が出てこず、ぎゅっと口をへの字に結ぶ。

不二はそれを見て小さく息を吐き出した。



「ねぇ、桃。僕結構彼女のこと気に入ってるんだよ」

だから、と不二は真っ直ぐ桃城に視線を向ける。



「君が彼女を悲しませるなら」



桃城はゆっくりと顔を上げた。



「僕が貰うから」



その言葉に戸惑うだけだった桃城の目が鋭く変わる。



「…悪いけどそれで、はいそうですか、と譲れるもんじゃないんスよ。例え、不二先輩相手でもこれだけはひく気はないんで」



「…でも選ぶのは彼女だよね」



「そうっすね」



でも…、と言葉を続ける桃城。



「俺があいつを好きだから、あいつを離す気はないっス」



「だってさ」





ガチャ。





不二が部室のドアが開ける。



「桃先輩」



そこに立っていたのは







彼女。



「なっ」



桃城の目が大きく見開かれた。



「ほら、さん」

不二が優しく彼女の背中を押した。



「お、お前、い、いつから…」

『そこに…?』と裏返った声で尋ねる桃城。



「えっと…不二先輩がドアの前で待っててって中に入っていった時からかなぁ〜」

俯く彼女。

その耳は微かに赤い。

それを見た桃城の顔もかぁぁっと赤く染まる。



沈黙する2人。



「あの…ごめんなさい」

先に口を開いたのは、彼女。

ぺこんっと深々と頭を下げる。



「えっ…いや…」

戸惑う桃城。

「越前君から、事情聞いて…あの、私、勝手に誤解しちゃって…最低って言って…先輩から逃げて」

「俺の方こそ…悪かった。変な誤解させちまって」



俯く2人。



「その…俺は、お前のこと好きだからな」

顔をそらし頭をかきながら桃城は言う。

態度とはうらはらにその声はとても優しい。



「…はい」



嬉しそうに微笑むを見て不二はそっと部室から出る。

すぐそばの木に越前が寄りかかって立っていた。



「ちゃんと呼んできてくれたみたいだね、越前」

「っス」

低く返事をする越前。

目深に帽子の下に微かに見える越前の片頬だけ不自然に赤い。

「よかったね、それくらいですんで」

「…なかなか話聞こうとしなくて大変だったんスよ」

越前は目を閉じ、ふぅっと息を吐き出した。



「…不二先輩ってに対して過保護っスよね」

『さっきの言葉本気じゃないんですか』と言葉の裏に含ませつつ優しく微笑んで2人を見る不二に尋ねる越前が尋ねる。

「そんなことないよ…今回は僕にも責任があるみたいだしね、だから特別」

そう言ってにっこりと微笑み歩き出す不二。

その背中は『それ以上聞くことを許さないよ』と言っている。

越前はもう一度小さく息を吐き出すと木から身体を離し、不二の後に続きこの場を後にした。





(Fin.)










反省文

桃城夢いかがだったでしょうか?
第3弾でようやく完結(…か?)
今回は特にキャラ偽者多し…。
不二最強・王子へたれ…主キャラな桃城までへたれ…。
どうして笹間の書く桃城はこうへたれてしまうのでしょう…もっと男気あふれるキャラを描きたいです。
…はっ。
笹間の雑文は主キャラへたれ傾向があるのでしょうか!?
…精進精進ですねぇ。
読んでいただきありがとうございました。
感想などいただけたら嬉しいです。

20040213










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