朝日が射し始め、周囲が大変眩しく目の奥が痛くなるような感覚に襲われるような時刻。

その日の朝も、河村はいつものように店の仕込みの手伝いをしていた。

車から魚の入った発泡スチロールを下ろしていると、1人の少女が河村の傍を通り過ぎた。

こんな早朝に人が通る事は珍しいため、河村はそちらに視線を向けた。



白いTシャツに長い黒髪が映えている。

そんな少女の後ろ姿に河村は目を奪われる。



「おい、何やってんだ、早くしろ」

「すぐ行くよ」

父親の声に店の方を振り返る。



そして、再び少女がいた方を振り向いたが、そこにはすでに少女の姿はなかった。

どこに行ったのかと道の方に身体を乗り出してみるが、彼女はいない。



「早くしろ」

父親の声にせかされて、河村は名残惜しそうに店の中へと消えていった。















それから数日たっても、河村の脳裏からはあの少女の後ろ姿が離れなかった。

まぶしい光の中を黒髪をなびかせて、毅然と歩いていったあの少女のことが、



「…さん、タカさん、タカさんてば」

呼ばれる声にはっと気付くと、目の前には心配そうに顔を覗き込んでくる不二の姿があった。



「うわぁ」

驚いて河村は後ろに後ずさり、そのまま尻餅をついた。



「あっ…ごめん、驚かせた?…でも何度も呼んでるのに返事しないから…どうしたの?何か悩み事?」

心配そうに、でもちょっと微笑んで、不二が河村に尋ねる。



「あっ、ごめん不二。ちょっとボーっとしてて…大丈夫。何でもないよ。ありがとう」

慌てて不二にそう言って河村も微笑む。



「そう?」

納得できないような顔の不二。



「うん、ごめん」

不二のプレッシャーに負けて少々押されつつ、河村は引きつった笑顔を不二に向ける。



「…タカさんがそう言うならこれ以上聞かないけど、無理しないでね」

そう言って不二はコートの方へ戻っていった。



そんな不二の後ろ姿を見送って河村はほっと安堵の息を漏らす。

だが、その後すぐに



「…心配かけちゃったかな」

と呟いて苦笑した。















その日の帰り。



河村は帰り道ある公園の前で足を止めた。



「あっ」

公園のベンチにはあの少女が1人ポツンと座っていた。

俯いていて顔は見えないが、河村にはすぐに分かった。



あの娘だ。



河村は少女をじっと見詰める。

しばらくして少女が顔を上げた。

ふっと河村の方に顔を向けた。



「…隆、君?」

「えっ」

確かに少女は、河村の名前を呼んだ。



「…河村隆君だよね?」

控えめに静かにそう言う少女。



「そうだけど…君は…?」

見知らぬ少女に名前を呼ばれ戸惑う河村。

そんな河村にクスクスと笑う少女。



「あたし、。小学校一緒だった。覚えてる?」

そう言っていたずらっぽい表情を見せる少女。



「えっ って、あの一緒に空手やってた…?」

「そ、しょっちゅう河村君を突き飛ばしてた

ニッと笑う。



「…」

固まる河村。



「分からなかった?私はすぐわかったけど…まぁ私が転校してから結構立ってるからね」

「…」

「こっち来て座れば?そんな所に立ってないで」

「…うん」

言われるままに河村はの隣りに腰をかける。



まともにの顔を見れずやや俯き加減の河村。

はそんな様子を気にすることなく河村に笑顔を向けて話し始める。



「久しぶりだね」

「うん」

「今学校の帰り?」

「うん」

「うん、ばっかりだね」

「うん…あ、ごめん」

慌てて顔をあげる河村を見てはまたクスッと笑った。



「昔と全然変わらないね」

日が沈みかけている空を見上げる



は…何か変わったかも…」

戸惑いながら口を開く河村。



「そう?」

「うん、何か大人っぽくなった」

「隆君は口上手くなったね」

「そ、そんな事ないよ」

ほんのり頬を染める河村を見て、の表情が突然暗くなった。

河村はそんなの様子には気付かない。



「…ねぇ、今何やっての?」

「?」

突然何のことかと首を傾げる河村。



「部活帰りなんでしょ?空手、続けてるの?」

「あっいや。今は青学でテニスやってる」

「…そうなんだ。青学かぁ。すっごいじゃん、隆君」

は?」

「あたし?あたしは引っ越した所の近くの中学に行ってるよ」

河村から視線を逸らす



「…そっか」

そんなの様子に気付き、それ以上聞けなくなる河村。



沈黙。



夕方の涼しい心地よい風が二人の間を通り抜けていく。



「…ねぇ、隆君の将来の夢は?やりたい事、あの頃と変わった?」

前を向いたまま河村に視線を向けることなくはそう尋ねた。



「え?」



「あの頃はいつも言ってたじゃない。大人になったらお父さんのようなお寿司屋さんになるんだって」

「ああ」

その事か、と頷く河村。



「今も一緒?それとも変わっちゃった?」

「一緒だよ。中学を卒業したら修行を始める…高校に行きながらだけどね」

そう言って微笑む河村。



「…そっか。何かよかった」

「そう?」

「うん」

やはりの表情はどこか暗い。



「…どうして、ここに来たの?学校まだ休みじゃないよね?」

そんなの様子に、河村は意を決してそう尋ねてみた。



「…」

「言いたくないなら無理に言えとは言えないけど…」

だが、俯いてしまったを見て河村は強くは聞けない。



「…探しに来たの」

「?」

「やりたいこと探しに来たの…やりたかった事があったあの頃の思い出がたくさんあるここに来れば答えが見つかると思ったから…だからここに来たの」

溜まったいたものを一気に吐き出すようには話し出した。



「…?」

河村はそんなの態度に戸惑う。



「可笑しいでしょ?何言ってるかわかんないよね?」

「…」

「今行ってる学校がね、一応地元では進学校ってことになってるの。毎日毎日教科書の勉強ばっかりで。ただ毎日勉強勉強…進路希望を出せって言われたんだけど、私何が本当にやりたいのかわからないから進路決められなくて…だから、やりたい事思い出しに来たの」

顔を伏せ泣きそうな顔をする

河村はベンチから立ちあがり、の正面に移動するとしゃがみこんでの顔を見上げる。



「俺、上手く言えないけどさ、…無理に探さなくてもいいと思うよ」

「え?」

戸惑いがちに河村の顔を見る

そんなに河村はにっこりと笑いかける。



「僕達まだ未成年だし、まだこれって決めなきゃいけないわけじゃないんじゃないかな。探す時間をえるために進路考えてもいいと思うし」

「…隆君は将来の目標決まってるからそんな事いえるんだよ」

「そうでもないよ。僕も迷ってる。このまま親父の店継ぐだけでいいのかなって…もっと他にも経験したりしなきゃいけないのかなって」

「…」

「だから、高校に行く。ずるいかもしれないけど、僕もまだ探している途中だから、もう少し時間を貰いたいと思ってるし」

「…」

「目標があったほうが張り合いが出来たりするから、あった方が楽だよ。それに向かっていけばいいんだから。でもね、それだけに固執しちゃいけないんだ。他に本当にやりたい事があるかもしれないのに、それを見落としちゃうよ。今は、目標を探してる途中。焦る必要ないんだよ、適度に息抜きして余裕を持って自分と周りを見ていこう、 ちゃん」

河村の言葉を聞いて、は上を向いた。

紫ががってきた空を見つめる。



「…ちゃんって今でも呼んでくれるんだ……ありがとう。隆君」

河村は優しく微笑むと、立ち上がった。



「弱いけど、強いな、相変わらず」

はボソッと言った。



「何だよ、それ」

「そのまんまの意味でしょ?」

にっこりと微笑む



「そういうところは変わってないんだね、

そんなを見て苦笑する河村。



「名前で呼んでくれていいのに…ねぇ隆君、今度、一緒に息抜き付き合ってくれる?」

「えっ、あっ、うん、俺でよければ」



「…そう言うところも変わってないよね」

「え?何か言った?」

「ううん、じゃよろしくね」

にっこりとは河村に微笑んだ。





(Fin.)










反省文

初の河村夢です。   
進路決定の直前に不安を感じて昔好きだった男の子の元へ…みたいな話のはずだったのですが…これは一体何だしょう? 
まぁ、友情以上恋人未満って事で。      
中学3年生って進路とか悩んだりもすると思うんですよね。      
高校受験。      
今までの環境とは違った場所に行くという事に不安になったりすると思うんですよ。      
そんな葛藤を描いてみたかったんです。    
河村はお店の後を継ぐって夢があると思うのですが、そう決めていても不安になったり悩んだりするのでは無いかなぁと。      
思春期ですから…。  










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