「よう、海堂聞いたぜ」

ニヤニヤと笑みを浮かべてがしっと海堂の肩に腕を回す桃城。



「…」

海堂は無言のまま桃城の腕を振り払う。

そのまま海堂はいつものように桃城を睨みつけた。

が、相手にするだけ時間の無駄だとでも言うように再び着替え始める。



「おぉ怖ぇ。そんなんじゃ嫌われちゃうぜ」

そんな海堂の様子を気にすることなく、茶化すように桃城は言葉を続ける。



「あぁ?」

着替える手をいったん止めて不機嫌そうに桃城の方を振り返る海堂。

その目は険しい。



「彼女、できたんだってな」

にやり、と笑みを浮かべたまま桃城がいう。



「なっ」

言葉に詰まる海堂。

その頬が赤く染まる。



「へぇ〜」

「えっそうなの?マジで?」

「隅に置けないっすね」

周りでそんな状況を見守っていた部員からも声が発せられる。

海堂は頬を赤く染めたまま、ふしゅ〜っ吐息を吐き出し再び桃城に背を向けて、いつもより早く着替えを終える。



「照れんな、照れんな」

桃城は再び海堂の方に腕を回す。

今度は海堂はその腕を振りほどかない。

ただ居心地が悪そうに視線をそらすだけだ。



「で、どんな人なんだ?年上なんだろ?」

ニヤニヤと笑いながら桃城が海堂をからかう。



「へぇ〜じゃ、3年?俺知ってるかも?」

桃城の悪乗りに便乗して菊丸が尋ねる。

2人で何とか名前を聞き出そうとする。

しかし、海堂は照れているのか、なかなか口を割ろうとはしない。



「ねぇねぇ、乾データとってない?」

なかなか口を割ろうとしない海堂に痺れを切らせたのか、菊丸は乾に訪ねた。



「…データ収集は怠っていないよ」

めがねがきらんと光る。



「ってことは…乾、海堂の彼女が誰だか知ってんの?」

きらきらと菊丸の目が輝きだす。



「まぁね」

ふっと笑みをこぼす乾。



「え〜誰?誰?」

標的を乾へと変更する菊丸。

海堂は無言のまま乾を睨みつけている。



「しかし、こういうのは本人の了承もなくいうわけには…なぁ」

そんな海堂の鋭い視線を正面から受け止めて、いつもの思わせぶりな笑みを浮かべる乾。



「え〜乾そこまで言っていわない気ぃ〜ケチケチ」

ぷぅっと頬を膨らませる菊丸。

乾は菊丸の方に一瞬視線を移したが、自分のロッカーのほうへと向き直った。

菊丸は乾に負ぶさるように飛び掛る。



「ぐっ」

乾の口から声にならない音が漏れた。

乾の首には菊丸の腕が回され、身長差から菊丸の足がぷらぷらと揺れている。



「なぁなぁ〜もったいつけないで教えろよぉ〜乾ぃ〜」

にゃははんと笑いながら、菊丸は乾にせがむ。



「……っ」

海堂が菊丸に鋭い視線を向け続けているが、菊丸はそんなこと気にも留めていない。



「……」

乾はロッカーのドアに手を置いたまま無言だ。



「なぁ乾ってば〜」

菊丸は乾にさらに体重をかけた。

が、彼女の名を口にしたのは乾ではなかった。



「へっへっ。それが さんらしいんすよ。あの人結構人気あるのになんでコイツなんすかねぇ」

桃城が再び海堂の方に腕を回しながら、“彼女”のことを口にした。



一瞬にして部室内の空気が変わる。



「えっそれって…」

菊丸は静かに乾の首から腕をほどき、すとんと地面に足を下ろした。



彼女は乾が1年のとき付き合ってた彼女だったんじゃない?と菊丸は思ったが言葉は続けられない。



菊丸と同じことを思い一瞬固まる3年レギュラー。



「どうしたんすか、先輩達?何か変っすよ」

そんな3年の雰囲気を察し、越前が怪訝そうにたずねた。



「ね、ねぇ、それってさぁ…」

戸惑いながら口を開く菊丸。



「菊丸っ」

菊丸が言いかけた言葉を手塚が強い口調でさえぎった。

戒めるような厳しい視線を手塚は菊丸に向ける。

無言のまま視線が交差する。



大石が無言のまま菊丸の肩に手を置いた。

菊丸が泣き出しそうな顔で大石を見上げる。

大石の顔も険しい。



1,2年の面々は何が起きているかわからず、ただいつもとは違う3年の雰囲気に戸惑うばかりだ。



「どう、したんすか?」

海堂がどうにか口を開く。

はっとして大石は1,2年のほうへ顔を向ける。

こわばった表情がいつもの柔和な表情へと戻った。



「あぁ、すまん。何でもないよ…何でもない」

苦笑する大石。

いつもの穏やかな雰囲気をまとって入るものの、先ほどのことを質問することは許さない、そんな感じを匂わせる。



「…そろそろ、コートに出ようか」

そんな雰囲気を察して不二が声をかける。

にっこりといつもの笑顔を浮かべて。

不二は1,2年を促すように部室から出て行った。



部室に出るとき、不二はちらっと手塚に視線を向けた。

それを見て、手塚は静かに眼を閉じ小さく息を吐き出した。

それを見てほかの3年も部室から出て行く。

手塚と乾を除いて。



「いいのか?」

手塚はほかに誰もいなくなった部室で乾に尋ねる。



「…質問の意味がわからないな」

乾は淡々と自分の準備を進めている。



「…」

手塚は眉間にしわを寄せ、乾から視線をそらさない。

そんな手塚を察したのか、一瞬、乾の口角が上がる。



「俺がどうこう言う問題じゃないだろ…彼女と俺はとっくに終わってるんだから」

表面上はいつもと変わらず答える乾。



「…」

手塚は物井言いたげに乾に視線を送る。



「…大丈夫だろ、海堂ならちゃんと彼女を守るさ。俺と違って強いからな、あいつは」

そんな乾に手塚は大きくため息をついた。



「…厄介な性格だな」

「それを手塚に言われるとはね」

乾は静かに窓の外へと視線を移した。



「…海堂は知らないほうがいいだろう?割り切れるような性格してないからな、アイツは」

乾の呟きに手塚は目を閉じ、大きく息を吐き出した。

乾はふっと眼鏡の奥で目を細めるとラケットを手に部室から出て行った。










■戻■