「そうだな、今回はこれを加えて…いや、それよりも…」



乾はブツブツと小さく呟きながらノートになにやら書き込んでいく。

時折、くいっと眼鏡の位置を直す乾。

は乾をじっと見つめる。

乾はそれを気にすることなく乾汁の改良のため精を出していた、のだが。



、よければお前の意見を…どうした?」



ノートから顔を上げる乾。

その時、じぃ〜と見てくるの視線に乾はようやく気づき、その理由を尋ねた。



「乾先輩っていつも眼鏡かけてますよね」



そう、ぽつり、と言う



「あ?あぁ。そうだな。結構視力が悪いからね、俺は」



いつもの元気がないな、と思いつつ答える乾。



「どれくらい目悪いんですか?」



「どうした?突然」



「いえ…何か眼鏡の度結構きつそうだなぁ〜と思って。パソコンにしょっちゅう向かってますし」



「んー…そうだな、きつい、かもしれないな」



「先輩いつも眼鏡で…とりませんもんね」



「さっきも言ったな。眼鏡がどうかしたのか?」



「…キスするときもあんまり外しませんもんね」



「そうだな。なんだ?眼鏡が気になるのか?邪魔にならないよう気をつけていたつもりだが」



はきゅっと口を噤んだ。

きっと一度乾を睨みつけた後、乾から顔を背けるようにして頭をテーブルに伏せた。



「何も言わずにそういう態度をとられると気になるんだけど?」



乾の言葉にもは無言のまま体勢を変えない。



「言いたいことがあるなら言ってくれないとわからないだろ?」



「…」



無言のまま顔を背けているに乾は小さくため息をつくと、再び乾汁の改良案を考えるためノートへと向き直った。

しばらく、部屋はカリカリという乾の書き込みの音だけ。

その間もは体勢を崩さない。

5分程度だっただろうが、それはいやに長いもののように思われた。

乾はぱたん、とノートを閉じると再びに声をかけた。



「…いい加減不機嫌なわけを教えてくれないか?俺は何かしたのか?考えてみたけど分からないんだ」



「眼鏡」



ポツリとが言う。



「眼鏡?」



分からず聞き返す乾。



「眼鏡、取ってください。乾先輩」



「は?」



突然何を言い出すのか、と聞き返す乾。

はじぃっと乾の顔を見上げている。



「…これをとってしまうとほとんど何も見えないんだが」



「取ってくださいっ」



は強く言う。

乾は小さく肩をすくめると眼鏡をはずした。



「これでいいかな?」



「えいっ」



!?」



乾は驚いたようにを呼ぶ。

乾が眼鏡を取った瞬間、がヒョイッと乾の手から眼鏡を奪ったからだ。



「やったぁ。へへ〜成功」



楽しそうなの声。

その声の調子からどうやら機嫌は直ったらしい。



「あっ」



小さく漏れたの声。

しかしそれはしっかりと乾の耳に届く。

視覚がはっきりしないせいか、音にはいつも以上に敏感になっているらしい。



「どうした?」



「乾先輩って本当に眼鏡取るとカッコイイですね」



乾は苦笑する。



「…それは普段の俺はそうではないということかな?」



「違いますよっいつもかっこいいけどさらに…っ何言ってるんだろ、私ってば」



慌てて弁解するの声に乾は先ほどとは違った笑みをこぼした。

眼鏡をかけていたら、顔を真っ赤にさせワタワタとあわてる彼女が見えていただろう。



。さ、もういいだろう?返してくれ。見えない」



乾はそう言ってのほうへと手を出す。



「いやです。もうちょっと貸してくださいよ」



はぱっと席から立ち上がり乾の手が届かないところへ逃げる。



「おい」



乾も慌てて立ち上がる。

ぼんやり見えるを追いかけ…ようとしたのだが、慌てたせいか、視界がはっきりしないせいか、小指を机にぶつけその場でうずくまった。



「もうちょっとだけ。いいじゃないですか。たまには」



その間にもは乾から離れていく。

その声はどこか楽しげだ。

普段だったらそんな彼女の声をもっと聞いていたいとおもうのだが、今は別だ。

…楽しげに笑う彼女の姿が見られない。







それを追いかけようとして乾はまた何かにつまずいた。

今度は椅子…らしく音を立ててそれは倒れた。



「乾先輩って本当に眼が悪いんですね」



呆れたような、それでいて楽しそうなの声。



「そう言ってるじゃないか」



乾は立ち上がりながら声の方を向き、のぼんやりしたシルエットを確認する。

再びを追うのだがはひらりひらりと乾の手から逃れていく。



追う乾。



逃げる



追う乾。



逃げる



追う…。



教室中を走り回る2人。



普段ならを捕まえることなど乾にとっては造作もないことなのだが、見えない視界のせいでしばしば躓いたり、ぶつかったりするためそれをなかなかたたすことができず、その表情には少し焦りの色が見え始める。

いつもとは表情を崩さない乾の違う顔にの顔がほころぶ。



もう少しだけ。



もうちょっとだけ。



は眼鏡を持って逃げる。





ガタッ。





本日何度目かの乾の躓き。

は音の方を振り返る。

なかなか起き上がらない乾。

の表情が戸惑いを帯びる。



「…乾先輩?」



名前を呼ぶ。

返事がない。



「乾先輩」



先ほどより強く名前を呼ぶ。

やはり返事がない。

次第にの顔がこわばっていく。



「乾先輩?」



もう一度、名前を呼ぶ。

かすかに震えた声で。

それでも返事はなかった。

さっと乾に駆け寄る



「乾先輩っ!?」



乾に駆け寄った瞬間腕をつかまれぐいっと引き寄せられた。

そのまま乾の上に倒れこむ



「…捕まえた」



耳元で呟かれた声。

はほっと息を漏らし、それから自分を捕らえている人物を睨みつけた。



「ずるいですよ、こんなの」



非難めいた声。

くるっと身体を返された。

の背中に床の感触。

上には…。



「乾先輩…?」



口元に笑みを浮かべる乾。



「な、何してるんですか?」



戸惑いと驚きが入り混じった声。



「さぁ?…分からないな、見えないから」



乾はそう言ってに顔を近づける。



「せ、先輩!?」



はあせって乾の腕から逃れようとするのだが、上手くいかない。



「見えないだろ?近づかないと」



乾は楽しそうに笑う。



「う、嘘つき〜」



じたばたと暴れる



「ひどいな、ついてないよ嘘なんて。本当に見えないんだ」



その間にもどんどん乾の顔は近づいてくる。



「も、もう眼鏡返しますから離れてください」



間近に見える乾の顔は眼鏡がないせいか、どこかやはりいつもとは違って見える。

いつもより強く感じるを真っ直ぐに見つめる目。



「眼鏡がどこにあるのか分からない」



乾はそのままの唇に自分の唇を落とす。



「…ンッんん〜」



じたばたするを抑え、乾は何度も角度を変えて口付ける。

呼吸もままならなくなり、次第にの体から力が抜けていく。

しばらくしてようやく乾が唇を離した。



「どうした?。呼吸が乱れているようだぞ」



息を整えるに乾が尋ねる。



「せ、せんぱ…」



「どうした?眼鏡がなくて見えないんでね。言ってくれないとわからないよ」



その声はどこか楽しげだ。



「…意地、悪」



「何を言ってるのか分からないな…見えないから」



再びに顔を近づける。

乾との唇が重なるまであと数ミリというところで乾は一度そこで動きを止めた。

ぎゅっと目を閉じているがぼんやりと見える。



「これくらい近づかないと、の顔が見れないんだよ」



そう言うと乾は再びに深く口付けた。















(Fin.)















反省文

いかがだったでしょうか?
罠。
罠にはめたつもりが罠にはまってしまった
当初不二予定だったにもかかわらず、何故か乾夢…。
一説によると朋ちゃんとも掛け合いが書きたかっただけ当節もあります。
そこのところは削ってもいいお話でしょうが、あえて、あえて、このままにさせてくださいませぇ〜。
笹間は女の子キャラも大好きです。
このままアダルティーに突入しそうなのをストップ。
Hは…描写がもろ経験入るので恥ずかしい照れくさい。
読んでいただきありがとうございました
感想などいただけると嬉しいです。

追記:彼女に上を向かせてキスする男がむっつりかどうかは知りません。
身長差を強調したいばかりにそう表記しただけで…。
優しく振ってくるようなキスって感じですか?
はは…。

20040308
加筆20040327










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