彼女―― が転校してきてから早1ヶ月が経っていた。  

相変わらず彼女はクラスになじまない。    

転校生熱も冷めて、クラスメートもいつも憮然としている彼女に自分から近寄ろうという者はいなくなっていた。    



ただ1人を除いては…。



ちゃ〜ん」 

がしっと背中にのしかかる重み。       



「…菊丸君、重い」  

やや不機嫌にそう言う。     



「いいじゃん、ちょっと位」         

満面の笑みを浮かべてそう言い、にじゃれつく菊丸。    

自分を捕らえている腕を強引に振り解き、は椅子からがたっと立ち上がる。



「…うざい。いい加減構わないでよ」     

きっと菊丸を睨みつけては菊丸は言葉のナイフを突きつけた。

そして、固まる菊丸をその場に残し、は教室から出て行った。



「…」        

その後ろ姿を静かに見送る菊丸。       



「相変わらず手厳しいみたいだね、彼女」   

そう菊丸の後ろから声がした。        

菊丸は嬉しそうに振り返る。         

くすくすと笑いながら現れたのは不二。    



「不二ぃ〜」     



がしっ。       



菊丸は新しいおもちゃを見つけたネコの如く不二に飛びつく。     



「今日もちゃんに振られちったよぉ」

不二に圧し掛かりながら大げさに泣きまねをする菊丸。        

不二はそんな菊丸をよしよしと言う様に頭を優しく撫でてやる。    



「また?…いい加減諦めればいいのに」    

「嫌だよ。だって俺 ちゃんの事好きだもん」

キッパリと不二を見つめ言う菊丸。      

顔は笑顔だが目の奥は真剣だ。        



「絶対、俺がちゃんを笑顔にしてあげるんだから」

「じゃ、めげずに頑張んなよ」        

「もっちろん」    

やれやれ、と言う様に小さくため息をつく不二に菊丸は笑顔を向け、そう言った。















は教室を出るとその足で図書室へと向かった。     



図書室には人気がなく、カウンターに図書委員が1人いるだけだった。 

は図書室に入ると周囲からは死角となる奥の本棚の所に向かう。



古ぼけた背表紙が並んでいる一角。      



余程の本好きの生徒でなければここにはこない。

本に囲まれたこの場所は普通の生徒にとっては近寄りがたい雰囲気を持った場所だ。

だから は1人になりたくなった時によく来る。

閉鎖的空間に身を置くとは小さくほっと息をついた。



目を閉じて本棚に寄りかかる。        



窓から微かに流れてくる風がとても心地よい。 

は風を感じつつ、遠くで生徒達が騒ぐ声を聞いていた。

静寂に包まれた図書室とその外では全く違う世界であるのような錯覚に陥る。         



「ねぇちょっと退いてくんない」       

そんな1人の空間に浸っていたに下からの声がかけられた。

は目を開けると、そこには先程カウンターにいた図書委員の少年が1冊の本を持って立っている。



「本、しまいたいんだけど」         

少年にそう言われては慌てて本棚から退いた。

少年はが退いた位置の本棚に本を戻す。

そして少年はの方を向き直る。

も少年の視線を正面から受け止める。

自分より背が低く、幼さを残した面持ちを見ては相手がおそらく1年生であろうと予測を立てた。



「何、やってんの?」 

少年はを見上げて言った。



「別に」

後輩にしては口の利き方が随分と偉そうだなと思いつつは少年から窓の外に目を移しながら答える。  



「ふうん」      

少年はそんなの答えにそっけなくそう言うとカウンターの方へと戻っていった。

少年の姿が消えたのを横目で確認すると、は再び本棚に寄りかかると目を閉じた。



風がの前髪を微かに揺らしていった。















「ねぇねえちゃん」       

いつものように菊丸はの傍でじゃれついている。



「…」        

は、本を読んだまま顔をあげない。   



「ねぇねぇねぇねぇねぇ」         

菊丸はの机に腕を置くとその上に顔をのせて、下からを見上げる。

ちらっと菊丸を一瞥する



「…何?」      

そして小さくそう言う。

菊丸がにっこりと笑う。

最初の頃は全くの無視だったが、は最近ようやくこうして菊丸に反応を返してくるようになった。    



「今日練習試合形式なんだぁ。ちゃん応援に来てよ、ね」

満面の笑みでを誘う菊丸。

もしこれが普通の女の子であったら、彼の笑顔に頷いてしまうだろうが、相手は…そう簡単には事は運ばない。



「…何であたしが?」 

本に目を向けたまま静かにそう言う。     



「え〜いいじゃん。ちゃん部活入ってないし…ちゃん応援に来てくれたら、俺頑張るから」

ちょっと拗ねたような顔を見せる菊丸。    



「…放課後、図書室に本返しに行くから」   

「じゃ、その後は?」 

「…別に用は無いけど」

「じゃあ、来てくれるよね、応援」      

ずいっと前に身体を乗り出す菊丸。      



「…行ってもいいけど」

そんな行動に驚き、菊丸を見る

必死に食って掛かってくる菊丸の勢いに押される形では頷いただけなのだが。



「本当?やったぁ。約束だからね。絶対に来てよね、ちゃん」

そう言って本当に嬉しそうに笑う菊丸とそんな菊丸に押されぎみの、そして傍から何やら企むような顔で2人を見る不二の姿があった。















放課後。       





「絶対来てねぇ〜」  

と手を振りながら不二に引っ張られていく菊丸をいつもの無表情で見送った後で、は図書室に向かった。

途中、いつもの図書委員の少年と擦れ違う。  



「あっ… 先輩。これから図書室っスか?」    

「あ、うん」     

2人は何度か顔をあわせるうちに簡単な会話を交わすようになっていた。

お互い他人に執着しないたちなので、波長が合うらしい。       

似た者同士というところか。         



「そう言えば、先輩が探していた本、Eの棚のところにあったっスよ」 

「そっか。ありがとう、見てみるよ」     

「じゃ、俺急ぐんで」 

「あ、うん。じゃ」  

そう言うとお互いそれぞれの目的場所へと向かっていった。



図書室は、相変わらず人気がない。

は先程あった図書委員の少年に教えてもらった棚の所に行くと目的の本を見つけ出す。

その本を手にとり、しばらくうろうろと本棚の間の空間を楽しんだ後、図書カウンターへと向かい貸し出しの手続きを済ました。

そして、いつもであったらあの場所で時間をつぶして帰るのだが、今日は本を片手に早々に図書室を出た。

教室に戻ると鞄を持って外に出る。

はテニスコートへと向かった。















テニスコートにはいつも以上に人だかりが出来ていた。

といっても普段はこんな所にはこないので、大勢の人だかりに少々驚く。

コートの周りにいるのは大半が女子生徒で少女達は黄色い声援をあげている。         

何故こんなに人がいるのだろう、と思いつつゆかりは人だかりからちょっと離れた木陰からコートの方を眺める。    



「あっちゃ〜ん」

そんなを見つけて、菊丸はぶんぶんと大きく手を振る。

周囲の視線が鋭くなるのをは感じた。

はふいっと菊丸から視線を逸らした。



「あっれ〜気付かなかったのかにゃ〜」

しゅんとする菊丸。



「先輩、先輩の事知ってんすか?」

ラケットを肩で持って越前が菊丸に尋ねる。



「だって同じクラスだし…っておチビちゃんのこと知ってんの?」

「えぇ、まぁ…」

「え〜何でぇ?」

「…先輩には関係ないと思うんすけど」

「何だよぉ…ハッまさか…おチビ…」

「…」



越前は無言のままコートの方に歩いて行った。

菊丸はそんな越前の後ろ姿を泣きそうな顔で見つめていた。





(Fin.)










反省文

初対決モノです。
中途半端に書き逃げですね、ごめんなさい。
試験的なものなので…気に入ってくださる方がいるようなら続きを書きたいです。
他のメンバーでの挑戦もしてみたいですね。










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