1人の少女が休憩中のコートに入ってきた。

小さな体全身から放たれる怒りのオーラ。

少女のそのただならぬ様子に部員達は無言で道を明けていく。



そして、少女はある人物の前に立った。

目の前の人物を睨みつける。

睨みつけられた人物は、何事かと不思議そうに少女を見つめる。



「おい、部外者は」

コートに入ってくるな…とようやくその様子に気付いた手塚が注意しようとした。

しかし、手塚がその言葉を口にする前にバチーンッといい音がコートに響いた。



少女が目の前の人物の頬を力一杯叩いたのだ。

叩かれた人物も、周りにいた部員達も、突然の出来事に何が起こったか分からずに呆然とその場に立ち尽くす。



「このサイテー男っ!女の敵っ!!」

そう言うと、少女はいまだ怒りぬけ切らぬ様子でコートから出て行った。

コートにいた全員が呆然と去っていく少女の後ろ姿を見送る。

いつもは騒がしいコートの中がシーンと静かになる。



「…英二、おまえ一体何やったんだ?」

そんな中、ようやく恐る恐る大石が叩かれた人物に声をかける。

が、叩かれた本人はいまだ少女が去った方向を見つめて固まったままだ。



「サイテーって言われてたよ」

不二が困ったような笑顔を向けている。



「何かあったんなら早く謝った方がいいよ。あんな剣幕で怒るなんてよっぽどの事だよ?」

その傍でオロオロとしている河村。



「校章の色から察するに今のは2年生だな」

こんな状況でも冷静に見るところは見ている乾。



先程までシーンと静まり返っていたのがざわざわと騒がしくなり始める。

部員達の間で菊丸と先程の少女について様々な憶測が飛び交う。

眉間にしわを寄せて手塚が思い口を開く。



「…とにかく、彼女に謝ってこい」

そう手塚に肩を叩かれていまだ呆然としたまま菊丸はコートを去って行った。



しかし、菊丸はその日結局彼女を見つける事はできなかった。















次の日。





昨日殴られた箇所がほんの少しではあるがはれてしまったため、菊丸は頬にシップを張って登校してきた。

何事かと人に顔を覗き込まれる。

そんな状況に菊丸は珍しくため息をついた。



昇降口で不二に会う。

不二はうんざりした様子の菊丸を見て苦笑する。

一緒に教室に向かっていると、向こうから少女が走ってきた。



「すみませんでした」

菊丸の傍に来ると少女は深く頭を下げた。



「え?」



「ごめんなさい」

少女の声に周囲にいた生徒たちが何事かと思い、菊丸達の方を振り返る。



「ね、ねぇいいからちょっと頭を上げてよ」

菊丸が焦ってそう言うと少女が顔をあげた。



「あ、昨日の…」

不二は小さくそう呟いたが、すぐに口をつむぐ。



「あの、ちょっといいですか?」

そう言って少女は、菊丸の返事も聞かずに歩き出す。

菊丸はそんな少女にほんの少し肩を竦めた。



「ごめん、ちょっと言ってくるから…不二、鞄頼むね」

そう言って菊丸は不二に自分の鞄を預けると、少女の後に付いていった。

不二はそんな菊丸の後ろ姿を静かに見送っていった。















2人は人通りの少ない校舎の裏に移動する。

「すいません、あの昨日の事は実は人違いで…」

「人違い!?」

「はい…」

「じゃ、俺人違いで殴られたの?」

小さくなる少女。



菊丸が訳を聞いてみると、彼女の友人――がある3年生に2またをかけられてしまっていたらしい。

で、その男に一言言ってやろうと探していたら、その男と特徴がたまたま一致してしまっていた菊丸を見て彼女が勘違いをして…という事らしい。



「…」

言葉を失う菊丸。



「本当にすいませんでした」

彼女は再び深々と頭を下げる。

そんな少女を菊丸はじっと見ていたが、



「…俺、今金欠なんだよね」

唐突に口を開く。

その言葉に不思議そうに顔を上げる少女。



「だから、今日の放課後、おごってくれたら昨日のこと、水に流しちゃうよん。今日は練習ないし…どう?」

そう言って菊丸は悪戯っぽく微笑んだ。



「あ、はい。おごらせていただきます」

そう言って少女は深々と頭を下げた。



「じゃ、放課後ね。 ちゃん」

「はい、…え?名前」

名乗っていないのに何故自分の名前を知っているのか、と思い少女は問い返す。

しかし菊丸はただ意味ありげに笑顔を少女に向けると、



「じゃ、放課後校門の所でね」

といって校舎の方にかけていってしまった。















1ヵ月後。





フェンス越しにではあるが、彼女と楽しそうに話している菊丸。



「まさか、英二とあの子が付き合うなんてね」

嬉しそうな菊丸を見て不二は意味ありげな笑みを浮かべる。



「…縁とは不思議なものだな」

そう言う手塚の眉間には相変わらすしわがよっているが、目の奥は何故か穏やかだ。



「でも、英二あの子の事事件の前から気になってたみたいだからな」

穏やかに微笑みながら大石爆弾発言。



『『そうだったのか』』



その場にいた2人は思ったが口にはださない。



「外走ってたりして彼女見かけるとあからさまに様子変わってただろ?」

その事を思い出したのかクスッと大石が笑う。



「何にせよ、幸せならいい事だよね」

「そうだな」

そう言って3人は菊丸の笑顔を優しく見守るのであった。





(Fin.)










反省文

初の菊丸夢でした。
夢?これって夢?
という内なる突込みはあえて無視しました。
しかし、初っ端っから殴られるとは…。
でもこんな素直で優しい役は私の中では彼以外考えられませんでした。
金欠なんだよね、とかって言うのは絶対彼女に気にさせないためですよ。
天真爛漫のようで実はすっごく人に気を使うというのが私の菊丸イメージです。
本当はもっとギャグになるはずだったのですがねぇ。
ギャグになりきれない今日この頃です。










■戻■