「ただいま」

部活を終えて不二は、いつものようにドアを開けて家の中へと声をかける。



パシッ。



「痛っ」

と、靴を脱いで家に上がろうとして、突然頭をはたかれた。

何事かと少し顔をしかめつつ、自分をはたいた人物に視線を向ける。



「突然何、姉さん?」

「本当、あんたは肝心なときにこうなんだから」

「?」

眉間にしわを寄せて大きくため息をつく姉に不二は戸惑い、首を傾げる。

不二はそんな弟を呆れたように眺め、もう一度大きく息を吐き出し、靴を履く。



「出かけるの?」

「…えぇ」

靴を履き終わり、由美子はくるり、と不二のほうを向き直る。



がしっ。



「!?」

由美子は少し強めに不二の肩をつかむ。



「ね、姉さん?」

いつもとは違った据わった眼に不二の顔がやや引きつる。



「…今日、泊まるって連絡しておいてあげたからね」

「は?姉さん、何言って…」

「いいから黙って聞きなさい」

言葉をさえぎられる形でぴしっと由美子に言われ、藤は口をつむぐ。

長年の経験からこういうときの彼女に逆らってはいけないことを不二は姉と弟のやり取りをすぐそばで見てきたからよく知っている。



「周助」

きっと正面から真剣な目で見据えられ、不二の顔も引き締まる。



「据え膳食わぬは男の恥よ」



「えっ?」

何を言われるかと構えていた後の言葉が、不二の予測の範疇をはるかに超えていたもので不二の目は驚きと戸惑いによって開かれる。



「今日私帰らないからうまくやりなさいよ」

そう言ってぽんぽんと不二は肩を叩かれた。



「あ、うん」

不二は訳も分からず、とりあえず頷いた。

長年の経験からこういうときの彼女の言葉には素直に頷いたほうがいいことを不二は姉と弟のやり取りをすぐそばで見て学んでいる。

由美子は不二が素直に頷いたので満足げな笑みを浮かべている。



「夕食、冷蔵庫の中にあるからあっためて食べなさいね」

「うん」

由美子はにっこり笑い、くるっと身体を返しドアに手をかけて、思い出したように顔だけ振り返る。



「 そうそう“証拠品”は“報酬”としていただいたから。じゃ」

そう言うとくすっと笑みを浮かべ、するりとドアから出て行った。

普段は優しい姉があぁいう笑みを浮かべるときはたいてい何らかのしわ寄せが来るのを不二は経験上知っている。

それらが姉の善意とちょっとしたいたずら心から来るもので悪意が含まれているというわけでないことも。



「…今度は何の気まぐれだろう」

由美子の姿が消えると不二はやれやれと言うように小さく肩をすくめると家の奥へと入っていった。



不二は自分の部屋で着替えを終えるとリビングへと続く扉を開けて電気をつけるた。

暗かった部屋が一瞬にしてぱっと明るくなる。

そして、不二は部屋に入って初めてすーすーといういつもとは違う音に気づく。

音のほうを振り向いて、不二は呆然とその場に立ち尽くした。

数秒そのまま固まり、ようやく声が漏れる。



「…、さん?」

驚きに目を見開いたまま、そこにいる人物の名前を紡いだ。

途端にあらゆる疑問視が頭の中に流れ出す。



どうして?

なぜ?

どうして彼女が?



戸惑いつつも不二の視線はそこにいるはずの人物にから離れない。

自分の顔が熱くなってくるのを感じ、不二はそれを隠すように口元を片手で覆う。

不二の視線がほんの少し開かれた口元に集中する。



“据え膳食わぬは男の恥よ”



一気に体温が上昇する。

先ほど言われた姉の言葉が頭をよぎり、不二はそれを振り払うようにぶんぶんと頭を振る。

視線が再びそこに向かいそうになり、不二は慌ててリビングから出ると洗面所へと向かった。

冷たい水で何度も顔を洗う。

ようやく熱が収まり、不二はタオルを手に取った。



「…どうして、こんなことになっているのかな」

いつもよりも余裕を失った言葉。

先ほどの残像が頭をよぎり、不二はタオルに顔をうずめた。

冷えたはずの頬が再び熱くなるのを感じる。

状況を整理し、考えをまとめようとしても、普段は難なくできるそれらが今はなかなか上手くいかない。



「…」

不二はゆっくりと視線を鏡に移した。



「…思ってたより、重症?」

小さく呟くと不二は再び顔を冷やし始めた。















数分後。





ようやく気持ちを落ち着けた不二はキッチンとリビングへと続くドアの前に立っていた。

ドアノブに手をかけようとして、その手を引っ込めて苦笑を浮かべる口元へと持っていく。

静かに目を閉じ、大きく息を吐き出す。



「よしっ」

小さく気合を入れ直し、不二は再び彼女の眠る部屋へと足を踏み入れた。

意識して彼女に視線を向けないようにし、不二はゆっくりと彼女に近づく。

全身が波打つような動悸を感じつつ、不二は一歩、また一歩ゆっくりと彼女の元へ足を運ぶ。



さん」

不二は視線を上方にそらしたままの肩を軽く叩く。

肩を叩かれたせいかが体勢を変えようとして、首を動かし不二の指にさらっと髪が落ちる。

その感触に不二は驚き、視線を落とした。

不二の視線の先にはすーすーと一定の寝息を立てて穏やかに眠るの姿。



不二は手にかかった髪をさらっとかきあげる。

不二の指からの髪が零れ落ちていった。

不二は穏やかに目を細めると再び髪をなで上げた。

髪の一片がの顔へと落ちる。



不二はそれをゆっくりとどかし、ゆっくりとへ自分の顔を近づける。

のうっすらと開かれた艶やかなそれと自分のそれがあと数ミリというところまで来て、



「んっ」

不二はの口から漏れた音で我に返る。

大きく目を見開き、慌てて身体をテーブルから離した。

視線をに向けたまま不二は口元を片手で覆い、息を止めていた。

自分の行動を思い返し、居心地悪そうに視線をはずすと目を閉じて大きく息を吐き出す。

動悸が少し治まったのを確認すると不二はに再び手を伸ばした。



さん、起きて」

先ほどよりほんの少し大きな声で、彼女の名前を呼び、先ほどよりほんの少し力をこめて、彼女の肩を叩いた。















「んん?」

再びの口から音が漏れ、その後今度はゆっくりと目が開いた。

きちんと覚醒していないのか、焦点が定まっていない。

ゆっくりと身体が起き上がり、不二と目が合う。

の目が大きく見開かれた。



「えっあっ不二君?何で?えっ?」

完全に起きたようだ。

少し混乱しているようではあるけれども。



「おはよう、さん」

にっこりと不二はいつもの笑顔をに向ける。



「あっお、おはよう…あれ?あの、由美子さんは?」

戸惑いながらが尋ねる。



「あ、うん、ちょっと、急に仕事入ったみたい。さん気持ちよさそうだったからそのまま行くって」

ごめんね、と付け加える。



「あっ私の方こそ寝ちゃったみたいで…一緒にご飯をって言ってたのに悪いことしちゃった」

たは〜っと苦笑する



「…そう」

内心、何をやってるんだと姉に毒づきつつ、には優しく微笑む不二。

そして何かを考えるように少し首をかしげる。



「どうしたの不二君?」

そんな不二の行動を不思議に思い尋ねる



「…さん、ご飯まだ?」

「え、うん…でも、もう遅いし帰るから」

椅子から立ち上がる



「だったら食べていってよ」

にっこりと微笑む不二。



「えっでも…」

「一人で食事って言うのも味気ないし、さんさえよかったら、だけど」

やや目を伏せる不二。



「あっあの…」

「ごめんね、無理強いするつもりはないんだよ。たださんが一緒に食べてくれたら嬉しいかなって僕が勝手に思ってるだけなんだから」

少し寂しそうに微笑む不二の姿。



「…じゃ、お言葉に甘えて」

「ありがとうさん」

いそいそと冷蔵庫を開けて準備するに、何か似たようなことがあったかも…と思いつつ、振り向き自分に向けられた笑顔に早まる心臓を必死に抑えようとする

姉さんが泊まるって連絡してくれてあるらしいし、ある程度遅くなっても平気だよね、と見える位置の時計を全て隠してしまおうと策謀をめぐらす不二。



“据え膳食わぬは男の恥”



らしい。















後日。





「姉さん」

普段から考えられないような厳しい顔で姉に詰め寄る不二。



「ん?」

由美子はいつも通り紅茶を口に運ぶ。



「…写真」

地をはうような不二の声。



「写真?どうかしたの?」

そのままそ知らぬ顔で紅茶を飲む由美子。



「僕の机の中にあった写真、持ってるでしょ?」

怒りに満ちた目で由美子を睨みつける不二。

その言葉に由美子はにっと口元に笑みを浮かべる。



「言ったでしょ、“報酬”って」

大きく目が見開かれる。



「じゃ、いってきま〜す」

由美子はバッグを持つと足取り軽くその場から去っていった。



「姉さんッ!!」

強く呼ばれる声を聞き流して。



「わが弟ながら可愛いとこあるじゃない」

由美子はそう言ってバッグから数枚の写真を取り出す。



そこに写っているのは…。



由美子はくすっと笑みをこぼし、それを大事に再びバッグにしまうとギアを入れて車を発進させた。





(Fin.)











反省文

いかがだったでしょう。
と言う以前にこれは不二夢?由美子お姉様夢と言う感じですねぇ。
無駄に長すぎです。
不二と彼女との関係は…一応、クラスメイト・両思い恋人未満設定…で書いたつもり、です…お互い気になる存在だけど、クラスメイト以上の接点はなかなか取れない…というような。
管理人としては、白い中学生らしい不二様というものを書いてみたいなぁと思ったのですが…どうでしょう?
普段は余裕を持って大人な雰囲気の不二様も実は自分が好きな相手に対しては色々葛藤。
そんな不二様も素敵かなぁと管理人は考えたのですが…。
でも、それはあくまで内なる葛藤でやはり人前での不二様は不二様なのです。
据え膳〜については、性的なものじゃなく、チャンスをものにするってことで。少しでも彼女と長く一緒にいる…あわよくば思いを告げてしまうと言うように取るか…
はたまたそのまま性的なのもにとるか…
それは皆様にお任せします。
お姉さまとの関係については管理人の某男友達が普段は強気なのにお姉さまには一切逆らえないので、それを参考にしてみました。
彼曰く、姉に逆らってはいけない、後が怖い、らしいです。
彼はすごく姉弟仲がよくて普段は彼がしゃーしゃーとお姉さまに辛口しているのですが、肝心なところは主導権お姉さまにあるらしいです。
いいなぁそんな関係。
南瓜を使ったのは裕太君大好きな不二家特製南瓜カレーの材料として…。
書いてる時期に冬至もあったし。
UPの時にはとっくに過ぎてますが。
読んでいただきありがとうございました。
感想などいただけると嬉しいです。
メリークリスマス。
そしてよいお年を♪

20003.12.24.










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