2日後――青春台駅南口。





「んっ」

は気を取り直すように背筋を伸ばした。

何もせず、ただ待っているというのも結構苦痛。

最初は周りを観察して時間を潰していたのだが、それが返って苦痛になってきた。



「南瓜、ねぇ…」

当たると評判の占いの館、そこで受けた言葉を思い返し、は口の中でラッキーアイテムを呟く。

は足元に視線を落とす。



もう少し、こう…普通なものがよかったなぁ、指輪とか香水とか…南瓜って普通ないよねぇ。これって先行き暗いってこと?

がっくりと肩を落とし、ゆっくりと視線を前に戻す。



イベントの近いの時期、手をつなぐ者達が心なしか多い気がする。

仲よさげなそんな光景を見ていると無意識のうちに口から息が漏れる。

いいなぁ〜、そんなことを思っているとこつんっと足元に何かが当たった。

の視線は再び足元に向かう。



「…。」

視線の先にはの靴に寄り添うように存在する深い緑と黄色のコントラストが聞いた南瓜。

は呆然としてそれを両手で拾い上げる。



「…南瓜」

まじまじとそれを見つめ、ぼそっとその名を呟く。



「ごめんなさい。拾ってくれたのね、ありがとう」

「あ、いえ…」

ほんの少し戸惑ったようなその声にも戸惑いがちに顔を上げる。



「うわぁ〜」

は目を見開き、声にならない声で呟く。



の目の前には大きな包みを両手で抱え、少し困ったような表情を浮かべていうる1人の女性の姿。

女性の緩やかなウエーブのかかった髪がふわっと風に揺れる。

…綺麗な人。

は彼女の姿に目を奪われる。



「……えっと、何か私の顔についてるかしら?」

「い、いえっ!すみませんっ」

女性に戸惑いがちにそうたずねられ、は慌てて開いていた口を閉じ、視線をふせた。



そんなの姿に女性は口元に艶やかな笑みを浮かべる。

彼女から視線をそらしてしまった勇気はもちろんその笑みに気づかない。

女性はその笑みをすぐに消して、代わりに柔らかく微笑む。



「その南瓜袋の上に乗せてもらってもいいかしら?ちょっと両手がふさがっていて」

「あっはい」

はぱっと顔を上げると、女性の持っていた袋の上に南瓜を載せる。



が、しかし。



「「あっ」」

うまく乗らず、南瓜は滑り落ち再びの手の中に納まった。

それを見て2人苦笑をかわす。



「ごめんなさいね」

「いえ…」

そんな時、急に女性の目が大きく見開かれた。

「?」

がそんな女性の変化に心の中で首をかしげていると、女性は不思議そうにの顔を覗き込んできた

「ッ!!」

思わず女性から一歩距離を取る

女性はそんなをじっと見つめる。



「あ、あのっ何か?」

そんな女性の視線に居心地悪く、は尋ねた。



「あっごめんなさい。いきなりじっと顔を見られたら困ってしまうわよね」

女性は先ほどの苦笑ではなく、柔らかな笑みをに向ける。



「い、いえ」

はぶんぶんと横に首を振る。

女性からくすっと無邪気な笑みが零れた。

はその笑みに魅せられ再び目を丸くする。



「あの、間違ってたら申し訳いのだけれど…あなた、さん?」

戸惑いがちに女性は言葉をつぐむ。



「あ、はい。そうですけど…」

「まぁ、やっぱりっ!そうかなぁと思ってたのよ」

女性の表情がぱぁぁっと明るくなる。



「えっ?」

反対にの表情がさぁぁと青くなる。



誰、だっけ?

どうやら知り合いらしい、とは思うのだが、には全く思い出せない。

こんな綺麗な人、忘れようとしても忘れられないと思うんだけど…。



「嬉しいわ。こんなところで会えるなんて」

「えっあっはぁ…」

明るい声で満面の笑みを浮かべている女性には苦笑することしかできない。

頭は思い出そうとフル回転だ。



「あっ、ごめんなさいね。そうね、あなたは私のこと知らないものね」

戸惑っているにようやく気づいたのか、女性はそう言って優しく微笑む。



「えっあっふぇっ?」

は南瓜を両手で持ったまま思考が停止する。

何がなんだか分からず頭の上に疑問符を飛び交わせる。

そんな様子にくすくすと笑みをこぼす女性。



「はじめまして。不二由美子、周助の姉です」

いたずらっ子のようにおちゃめな笑みでそう言われ、は目を丸くする。

力の抜けたの手からは南瓜が重力にしたがっての足へと落下した。















「ありがとう、さん」

「あ、どうもありがとうございます…」

由美子に差し出されたカップをは戸惑いがちに受け取った。



どうして自分はこうしているんだろう?



由美子に不二姉告白をされた後、何故か由美子の荷物を手伝って持つことになり、御礼にお茶をと言われ、一度は断ったにもかかわらず、何故かこうなっている。

初対面のはずの彼女は何故か自分のことを気に入ってくれているようだ。

由美子はにっこりと微笑んで机を挟んだの真正面のいすに腰を下ろす。



きっと反論できないのはこの笑顔のせいだよねぇ。



…流石、姉弟。



嬉しそうな由美子の笑顔にはこっそりひとつ息をつくと、ようやく笑顔を由美子に向けた。



にこにこ。



「…」



にこにこ。



「…」



にこにこ。



「…」



にこにこ。



「…えっと、由美子さん、今日は他のご家族の方はぁ?」

沈黙に耐え切れず、が話を振る。



「今日は私1人なのよ。母親は単身赴任の父親のところに行ってて、周助は部活で帰りが遅いそうだし、裕太――下の弟は学校の寮だから」

「…あっそうなんですか」

ふっと寂しそうに目を伏せられて、は何となく居心地が悪くなる。



「…あっそうだわっ」

ぱっと由美子の顔が明るくなった。



さんっもしよかったら夕食食べていって」

「えっ」

突然の申し出に、カップに口をつけようとしの動作がとまる。



「ダメかしら?そうよね、突然、さっきまで見も知らずの人間にこんなこといわれたら困るわよね。家の方も心配なさるでしょうし」

見るからにしゅんっと落ち込んでしまう由美子。



「いえ、あの…」

寂しそうな笑みを浮かべつつカップに口をつける由美子の姿にのほうが困り顔。



「…」



「…」



沈黙。



「…あの〜、」

躊躇いがちにが口を開く。

ゆっくりと由美子が視線を上げる。



「私でよかったら、ご一緒しますよ…家のほうは連絡しておけば大丈夫ですから」

苦笑しながらのの言葉に由美子の顔が見る見るうちに明るくなっていく。



「本当?嬉しいわ。ありがとう、さん」

「いえ、こちらこそすみません。ごちそうになります。あっちょっと親に電話かけますね」

椅子から立ち上がる



「あら、私が事情を説明するわ。無理に引き止めてしまってるのは私だもの」

そう言って由美子も立ち上がる。



「でも…」

「ね、お願い」

由美子はすっとに近づき、微笑む。



「あっあのっお、お願いします」

何故か顔が熱くなる気がして、は身を後ろにそらす。



「じゃ、かけてくるわね。あっご自宅の電話番号訊いてもいいかしら?」

「あっはい」

由美子はに番号を聞くと、ご機嫌で部屋から出て行った。



「はぁ〜」

の身体が全身の力が抜け落ちたようにすとんっと椅子の上に崩れ落ちる。

先ほど間近で見た由美子の顔の残像がフラッシュする。



「…流石姉弟。似てる、かも」

大きく息を吐き出すと、熱を持った頬を冷やすようにテーブルに突っ伏した。

熱くなった頬に冷たいテープルは心地よい。



あ、ヤバッ…気持ちいいかも。



そう思って…そこでの意識は途切れた。










■戻■