その日は生憎の雨模様だった。
薄暗い教室。
辺りに立ち込める薬品の匂い。
そんな中、教室内の唯一の光源となっているアルコールランプによって眼鏡を怪しく光らせている1人の男子生徒。
ビーカーの中に何やら他の液体を2,3滴たらすと、ボワッと気体が湧きあがった。
「出来た」
彼は、ビーカーを注意深く持ち上げ、中身を持ってきたビンに移す。
「ふっふっふ」
彼はビンを見つめて怪しい笑みを浮かべる。
彼はしばらくビンを眺めながらそうしていたが、やがてそのビンを自分の鞄の中にしまい込む。
そして、実験器具を片づけを終えると教室から出て行った。
後には、理科室特有の薬品の匂いとは違った何とも表現の仕様がない異様な匂いが残っていた。
「キャー 先輩、おはようございます」
「あっ さんおはよう」
「あっおはよう」
声をかれられた生徒はちょっと戸惑いながら、しかしにっこりと笑顔を作って挨拶を返した。
短い黒髪がちょっと頭を下げた時さらっと流れる。
「「キャーッ」」
ばたばたばた…。
その笑顔を見て倒れる女子生徒たち。
「あっえっと、大丈夫?」
心配そうに倒れた女子生徒たちを見て声をかける。
「「ハイッ大丈夫ですっ」」
ガバッと起き上がり、"キャー声かけてもらっちゃったぁ"などと言いながら校舎の方にかけていく少女達。
先程声をかけられた生徒は、そんな少女達の背中をため息を1つついて見送ると、自分も校舎の方へ足を向けた。
青春学園における毎朝の光景。
「おはよ…毎日の事ながら、すっごいよねぇ〜」
少々呆れつつ、労りの目を向けてそう言うのは、クラスメートである菊丸英二。
そんな英二の言葉に、無言で椅子にどかっと腰掛ける黒髪のショートカット少年――を思わせる容貌の持ち主。
中性的魅力を持つ少女―― 。
「全く毎朝毎朝…」
うんざり、といった感じの。
「何が悲しくて女のあたしが女の子にもてなきゃいけねぇんだよ。うちは共学だぞ共学。男なら周りにいるだろうになんで、女のあたしなんだよッ」
そう言って机に突っ伏す。
そんなの言葉に、女子だけじゃなく男子にも結構人気あるんだけどな、本当は。
と、菊丸は思ったが口にはしない。
彼女に思いを寄せる男達は、彼女の目にとまる前に彼によって排除されている事を知っているから。
「よしよし。大変だね」
そう言って菊丸は慰めるようにの頭をぽんぽんと叩く。
と。
ゾクッ。
何やら背筋に冷たいものを感じて固まる菊丸。
嫌な汗が体中からにじみ出る。
こんなプレッシャーをかもし出すのは菊丸は1人しか知らない。
どうか、自分の予想が外れていますように…と祈りながら、恐る恐る、ゆっくりと菊丸は後ろを振り返る。
と、そこには、予想していた人物――不二が開眼状態で立っていた。
それを見て菊丸は、斜め下から見るとますます迫力が増して怖い…と思ったのが口には出せない。
そのまま壁の方に飛び下がる。
「あっおはよう不二」
菊丸の手が離れた事を感じて顔をあげる。
「おはよう」
不二はが顔をあげた時にはいつものにっこりとした笑顔に戻っていた。
「何か疲れてるみたいだけど…大丈夫?」
そう言っての顔を覗き込む不二。
「あぁ、大丈夫だよ、ありがとう、不二…って、どうしたの?菊丸。顔色悪いみたいだけど」
青ざめて壁にへばりついている菊丸にが声をかける。
「ふ、ふにぃ〜…にゃ、にゃんでもにゃいにゃぁぁ〜」
の背後の不二を見てブンブンと左右に首を大きく振る菊丸。
「そ、そっか…まぁ無理すんなよ」
挙動不審の菊丸を見て不思議そうに首を傾げるでありました。
と。
「…さん、できたよ」
突然上から声をかけられる。
「あっ乾」
そこには、怪しげなビンを持った乾が立っていた。
「ほら」
そう言って乾は持っていたビンをに渡す。
「何それ?」
不二がそう訊き返す。
顔は笑顔だが、威嚇用のオーラをかもし出している。
そんな不二に対して全く動じる様子を見せない乾。
「女性ホルモン調整汁だ」
「「はっ?」」
何の事か分からず訊き返す不二と菊丸。
そんな中、満面の笑みを浮かべる。
「じゃ、それをのめばもう女の子に騒がれたり、追っかけまわされたり、差し入れと称したお菓子類押し付けられたり、ラブレターが靴箱に入っていたり、呼び出されて告られる事も無くなるんだなっ」
そう言って乾にしがみつく。
『そんな事されてたんだ』
と他の3人は思っていたがやはり口にはできない。
「…理論上はそうなる」
「サンキュー乾」
その言葉にぱぁぁと表情をより明るくさせ、乾に抱きつく。
それを見て不二の目が開眼する。
菊丸はそんな様子を後ずさりしながら、心配そうに見ている。
「…どういう事か説明してくれないかな?」
低い声で不二が言う。
「…さんが女の子に普通とは違った好意をもたれて困っていると言うのでね。それは、たぶん女性ホルモンよりも男性ホルモンがかもし出されてしまっていて女性をひきつけてしまうせいじゃないかと言ったんだよ。で、その悩みを解決するために女性ホルモンを増幅させるこの女性ホルモン調整汁を作ったという訳さ」
淡々と説明する乾。
「…作ったって、乾が?」
それまで、距離を置いていた菊丸が心配そうに尋ねる。
「もちろんだ」
それを聞いた菊丸が、一瞬○ンクの叫びのようになる。
「や、止めた方がいいよ、乾が作ったもんなんて、飲んだら死んじゃうよ」
泣き出しそうな声でに訴える菊丸。
「えっ?」
「どういう意味だ?」
戸惑うと明らかに不機嫌になる乾。
「君の作ったもの何か信用できないって事でしょ」
冷たく言い放つ不二。
「失礼な」
憮然とした表情の乾。
「僕も止めた方がいいと思うよ、乾が作ったものなんて」
笑顔で優しく言う不二。
「ホントに、もんのすご〜く、まずいんだから」
力いっぱい言う菊丸。
はそんな3人それぞれに視線を移し、乾から貰ったビンを見つめる。
しばらくして、祐悠樹は決心を固めたようで、顔をあげた。
「私、飲むよ。この生活から抜け出すんだ」
そう言ってビンの中身を一気に飲み干した。
「終了。…なんだ、結構平気みたいじゃ…うっ…」
「「!!」」
バターン。
そして、は気を失った。
「にゃ〜ちゃ〜ん、しっかりしてぇぇ〜」
叫ぶ菊丸。
「…可笑しいな、女性用という事で飲み易いようににフルーツを大量に使ったのに…」
ぼそっと呟く乾。
そして、その背後からはあのプレッシャー。
「…乾、こんな事してただで済むとは思っていないよね…覚悟はできてるよね」
校内に乾の悲鳴にならない悲鳴が響き渡った。
「…んっ」
目をあけると白い天井が見える。
「目が覚めた?」
ベットから上体を起こす。
「あれ?不二?ここは…?」
「保健室だよ。大丈夫?まだ気分悪い?もうちょっと寝てた方がいいんじゃない?」
心配そうな顔をに向ける不二。
「…ん、ゴメン、ありがとう。もう平気」
にこっと笑う。
「もう、無茶だよ、あの乾の作ったものを一気にのんじゃうんだもん」
「はは…噂には聞いてたけどすごかったよ」
罰悪そうに笑うに不二はしょうがないなあと言うように小さくため息をついた。
「心配かけて悪かったな」
「それはいいんだけどさ、…そんなに悩んでたの?」
急に真剣な顔になる不二。
「え?」
はそんな不二の変化に付いていけず、何の事かと訊き返した。
「女の子たちの対応」
不二はの目を見て言う。
その目は他の人間に向けられるものとは違って優しい。
「…ま、ね。あたしはやっぱり女だからどんなに好意持ってもらっても受け入れられないしさぁ。女の子泣かしちゃったりすると…結構罪悪感がね…」
そう言って俯く。
「…好きだって言ってくれるのは嬉しいけどさ、あたしは男じゃなく、女なんだよ」
と俯いたまま小さく言葉を繋ぐ。
そんなをじっと見つめる不二。
「…それなら、いい方法があるよ」
不二がそうボソッと言う。
「え?どんな?」
「さんが誰かと付き合えばいいんだよ。そうすればそんな事なくなるよ」
にっこりと微笑む不二。
「でも…そんな」
「…僕じゃ駄目かな」
戸惑うを見て真剣に言う。
「…!!」
驚いて目を見開く。
「ねぇ、僕じゃダメ?」
「…冗談?」
突然の申し出に戸惑いながらが訊き返す。
「冗談なんかじゃないよ、僕はずっとさんが好きなんだ」
かぁぁと赤面する。
「…男の子から言われたのって初めかも…」
は消え入りそうな声でそう言った。
「そう?さんはちゃんとした女の子だよ。…僕はずっとさんを見てきたから知ってる」
「…ありがとう、不二」
「いい返事、期待していいよね?」
微笑むを優しい目で見つめながら、不二はにっこりと微笑んだ。
(Fin.)
反省文
初の不二夢☆いかがだったでしょうか?
ギャグ…になってます?
当初、男気溢れるかっこいい女性…のがどこをどうやったらああなってしまったのでしょう。
書き始めが思いつかず、結構悩んだ作品です。
不二君は好きだってはっきり言ってくれそうなイメージです。
ギャグなのでかなりブラック入ってますが女の子には優しい。彼はいつでも女の子には優しいんです。フェミニストです。
嫉妬も彼女に直接じゃなく周囲の男どもに対して…してそうかなぁ…と考えた次第。
強いですねぇ、不二
振り回されっ放しですよ。
まだまだ修行必要ですな。
精進精進です。
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