「大石!?どうしたんだっその痣はっ!!」

普段感情を表にあらわさない手塚の声に部活の準備をしていた部員たちが手塚のほうに視線を向ける。



「ッ!!」

大石を見た部員達が声にならない声をもらす。



温和な大石には似つかわしくない痣。

明らかに殴られた跡と分かる。

左目の下が内出血で痛々しく青く染まっている。



「あぁ、ちょっとね…」

大石は、右手で隠すようにそっとその痣に触れながら苦笑した。



そんな大石に菊丸が駆け寄る。

「大石。どうしたのその痣っ!本当に大丈夫なのか?」

泣きそうな顔で心配そうに自分の顔を覗きこむパートナーにたいした事ないんだよっと大石は笑う。



「うにぃ〜でもものすっごく痛そ〜」

菊丸は恐る恐る大石の左頬に手を伸ばして痣を触ってみるが、大石の顔が痛みに歪むのを見て慌ててその手を引っ込めた。



「どうしたんだ、一体?」

動揺を隠せないまま手塚がもう一度尋ねるが、大石はちょっと困ったように微笑むだけだ。

痣の原因について一向に口を開こうとしない。

そんな大石に手塚は大きくため息をついた。



「…信じていていいんだろうな」

そう言う手塚の鋭い視線を受け止めて、大石はちょっと困った顔に微笑みを浮かべる。

「そうしてくれると嬉しいんだけどな…」

「…とりあえず、今日はもうお前は帰れ。…病院に行ってちゃんと見てもらえ」

大石に背を向けて手塚はそう言うと、部員達に練習開始の号令をかけた。



「…すまない」

大石はコートから出て行った。















練習が始まってしばらくして、一人の少女がコート脇の茂みの中にいた。

茂みの中からこっそりとコートの方を覗く。

コートにいる部員に見つかりそうになって慌てて茂みの中に身体を隠す。

身体を低くするために地面にへばりつくような格好になる。

髪の毛には茂みの木の葉がつき、服には土がつく。



「…何やってんだ、あたしは」

地面に顎をつけたまま誰に対してでもなく呟き、少女は小さくため息をついた。



「本当、何やってるんだろうね」

少女に影が被り、上から涼しげな声が降ってきた。

突然近くで声がして、驚きからか、少女の体がビクッと飛び上がった。

そして、固まる少女。



『…この声は』



少女が知る限りではこんな涼しげで通る声の持ち主はただ一人。

覚悟を決めて少女が恐る恐る見上げると、不二がいつものあの笑顔を浮かべて少女のいる茂みのすぐ横の木に寄りかさっていた。

その不二の横にはノートを片手に持った乾の姿。

二人の視線はコートの方を向けたままだが、意識は少女の方に向けられている。





「…来ると思っていたよ。君がコートを覗きに来る確率は54%だが、この茂みの陰から隠れて覗きに来るとなると確率は94%にまで跳ね上げる」

コートから視線を外さず乾は逆光で眼鏡を光らせて言う。



冷や汗をたらす少女。 



「…あ、いや、あたしは、別に」

レギューラー陣2人から言いようのないプレッシャーを感じ、後ずさる少女。



「…場所を移動しよう。ここじゃ話もできないでしょ、 さん」

不二はそう言って微笑んだ。

もちろん視線はコートを向いたまま。















青春学園男子テニス部部室。





部屋の中には何ともいえない緊張感を含んだ空気が流れている。

少女の机を挟んだ向かいには不二、部室の扉の前には乾。

刑事ドラマの取調べ室のような光景。

これで、犯人の顔に当てるライトと、窓が格子戸になっていれば完璧といったところ。

この場合配役は、容疑者 、若手刑事不二周助、ベテラン刑事乾貞治といったところか。

もしかすると若手刑事とベテラン刑事の役が逆かもしれないが。



重い沈黙を破ったのは、不二。

「で、大石のあの怪我はどうしたのかな?」

不二の表情は笑顔だが、瞳の奥は笑っていない。

は、不二の雰囲気に圧倒される。



「な、何で、あたしに聞くんだよ。そんな事」

不二に真正面から見据えられての気まずさからか、ふてくされたように視線をそらす



そんな の様子を見ていた乾の眼鏡がキラッと光る。

「やはり、君はどうして大石が怪我をしたか知っているんだな?」

ボそり、とそう言った乾には身体をビクッとさせたが、次の瞬間、乾の方をきっと睨みつめてくってかかる。



「何で、お前にそんなこと分かるんだよっ!」



すると、乾は、眼鏡の位置を直しつつ答えた。

さん、君の性格を考慮した時、もし大石が怪我をしている事を知らなかった場合。不二にああ聞かれたら、逆に大石が怪我をしているのかと聞きなおす確率が最も高い。次に考えられるのは、大石の怪我を知りつつその原因を知らなかった場合。そんな時は、こんな所に来る前に、よく大石の一緒にいる菊丸辺りを捕まえて周囲の目など気にせず理由を問いただす確率が極めて高い。この2つに当てはまらない場合。つまり、君が大石が怪我をしている事を知っていて、その原因となる出来事に君が関係していた場合。さっきの君のように逆切れに近い反応をする確立は87%だ。
可能性だけでなく、確信に至る要因としては、さっきの俺の言葉に対しての君の態度がそれが正しい事を肯定していると見て取れるからだ」

理論的になっているのか、なっていないのかは分からないが、乾の持つオーラによって反論できなくなる。



「で、何で大石は怪我をしたのかな?教えてくれるよね、 さん」

にっこりと笑う不二。



「うっ…」

言葉に詰まる



「原因にかかわって言いにくいのは分かるけどさ、僕らも心配なんだよ、大石の事。あれは、明らかに誰かに殴られてできた跡みたいだからね。」

「喧嘩に巻き込まれたんじゃないのか?」

真剣な表情の2人のは部室の隅のほうへと追い詰められる。    



「いや、そんな、たいした事じゃ…」

絞り出すような声で答えつつ後ずさる



「あんな痣まで残してそれじゃ納得いかないよ」

「せめて、どんな奴にやられたのか教えてくれないか?後はこっちで引き受けるから」

さらにに詰め寄る2人。

は背中に壁を感じる。

目の前には自分より背の高い2人。

逃げ道は無い。

覚悟を決めて、は口を開く。



「あ、あれは…」

顔を赤面させて言葉を続けようとする。



『あれは?』

声をそろえる不二と乾。



「…あれはぁ…」

絞り出すように声を出す



『あれはぁ!』

声に力をこめて、さらにに詰め寄る不二と乾。



「……が……たんだ」

は早口に口の中で何やらもごもごと音を発する。



「え?何?」

「何だ、はっきり言ってくれ」

声が小さくて2人は聞き取れない。

耳をのほうへ向ける。



そんな2人をはちょっと目を潤ませつつきっと睨みつけた。

「だからっ!あれはあたしが殴ったんだよっ!!」

2人の耳元でが声が爆発する。



『はぁ!?』



予想だにしなかった事を言われて2人は耳をおさえつつ間の抜けた声をだす。



「な、何で?」

「どうして殴ったりなんか…」

状況が飲み込めない2人には顔を真っ赤にして言葉を続ける。



「…だから、その、何て言うか…昨日さぁ、大石のやつが、…その、よっかかってきたもんだからさぁ、何て言うか、こう、つい…ね…」

「…手が出てしまった、と」

乾の問いにこくんと頷く



呆然とする2人。



「あ、あたし、大石の事思いっきり殴っちゃったし、流石にちょっと気になってさぁ…様子見に来たんだよ」

気まずそうに視線を背ける



「そ、それは確かに大石も理由言えないよねぇ…」

不二が力が抜け切った声でボソッと言う。



「…あぁ」

乾が頷く。



「うぅ〜〜」     















翌日。        





「大石、グラント50週だ」         

なぜかグラウンドを走らされてしまった大石でした。         





(fin.)










反省文

って大石夢のはずが大石ほとんどでてこない。
大石と彼女絡んでないじゃん。ごめんなさい、駄目人間です。  
ただ、あんな常識のある副部長様もお年頃の男の子であるというのをちょっとにおわせたものを書いてみたかっただけなんです。普通なら、素直で明るくて可愛い女の子と…という夢物語が多い中、男の子を殴ちゃうような女の子が相手だったらどうなるかなと思っただけなんです。でもあんまそんな雰囲気出せてないね。
…ふふふ。病んだ笑いを漏らしちゃいますよ。精進精進。










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