手塚が部活を去る。



肘の怪我。



第1回戦の氷帝戦はかろうじて勝利を納めたものの、関東大会はまだまだ続く。

強豪がひしめき合う今後の戦い。



手塚無しでこれから大丈夫だろうか。

この後も勝ち勧められるだろうか。

あの手塚の代わりが自分にできるのだろうか。



カリスマ的ともいえるあの強さを持った手塚だからこそあのメンバーも一目置きここまで引っ張ってこれた。



あそこまでの強さは自分には無い。

そんな自分で大丈夫なのだろうか。

果たして、自分があのメンバーをまとめきれるだろうか。



手塚の代わりに…。



それを考えると大石は下腹部に痛みを覚えるのだった。















「何ぼぉっとしてるの。ほら、集中しなさい」

ぽかん、と丸めたテキストで頭を叩かれる。



母親の友人の子どもである彼女――

大学で教職課程をとっているという事を聞きつけた母親が大石の家庭教師を頼んで週2回程、大石は彼女の部屋を訪れこうして勉強をみてもらっている。

教え方としてはポイントを抑えていて分かり易いのだが、ほんわかとした外見とはうって変わって結構体育会系で、何かと大石はこうしてぽかりと頭を叩かれる。

ぼぉっとしていたのは自分だし、これ以上怒られないように の機嫌を直すため大石は殊勝な態度を取って見せる。



「す、すいません。" 先生"」

最近ようやくこんな状態の彼女の機嫌を直すことができる言葉を見つけたので、わざわざそれを使って謝り、大石は慌ててノートの向き直った。



「ッたく、しょうがない奴だな」

"先生"と呼ばれた事で幾分機嫌を直したのか、それ以上大石を叱らず は座っていた椅子の背もたれに体重を預ける。

腕組みをして自分の方をじっと見ているのだろうと大石は思った。

いつも はそうやって自分を見ているから。

今もきっとそうしているのだと思う。



「ほら、また。集中力足りないよ。そんなんで受験戦争乗り切れると思ってるの」

また手が止まっていたらしい。

再びぽかんと頭を叩かれる。



「…」

大石は無言でたたかれた箇所に手を当てる。

そんな大石の様子を は無言で見つめる。

そして、小さく肩を竦めるとため息をついた。



「ちょっと休憩とろうか?ただ単に机に向かっていても効率は下がる一方だしね」

そう言っては立ち上がった。



「はい」

そう言って大石も椅子から立ち上がった。





「ほら」

そう言っては飲み物の入ったコップを床に座っている大石の渡す。



「ありがとうございます」

「どうしたんだ?今日は嫌に集中力が続かないみたいだけど」

そう言って は自分の分もコップにつぐ。



「はぁ…」

そう言って大石は視線を伏せる。

そんな大石をはジィっと見下ろしている。

机に向かっている時もそうだが、にそうして見られると大石は何もかも見透かされているような実に居心地の悪い感覚に襲われる。



「…大石君ってさ、いろんな事抱え込むタイプでしょ?」

そう言っては大石から視線を外し、コップに口をつけた。



「え?」

大石はを見上げる。



「抱え込んでてもいいことないよ。とりあえず、話してみなよ。それで解決するとは限らないけど、話すことで心が軽くなるって場合もあるし」

そう言って はにっこりと微笑んだ。



「実は…」

大石はその笑顔に促されるようにして口を開いた。




















「大石君ってさ、可愛いよね」

大石の話を聞き終わり残っていた飲み物を は一気に飲み干し、コップから口を離すとそう言った。



「な、何を言うんですか、突然!?」

そう大声を出す大石を見て満足そうに は微笑む。



「ほぉら、やっぱり可愛い」

その言葉を聞いて大石は不機嫌像に黙り込む。

そんな大石を見て、はますます面白そうにくすくすと笑う。



「止めてくださいよ、もう」

「ごめん、ごめん」

そう言って は謝るが笑っていては、あまり誠意が見られない。



「…小学校の高学年から中学校位にかけての男のこって何故か"可愛い"って言葉に過剰に反応するよね」

そう言う彼女の口元にはいまだ笑いが残っている。



「…男ですから。可愛い何て言われても嬉しくないですよ」

いまだ機嫌が分からない様子の大石。



「褒め言葉なのに」

「そうは聞こえません」



「捉え方次第よね」

そう言ってまたふっと笑みをこぼす

先程のそれとは違ってちゃかしたものではなく見守るような優しい笑み。

大石はそれを見て、自分がひどく子どもじみているような気分になり、に食って掛かるのをやめた。



「?」

そんな大石の行動の変化に首を傾げる

しかし不貞腐れたように自分から顔を背けている大石を見てすぐに優しく微笑んだ。



「かわりとか何とかじゃなくてさ、大石君らしくやればいいんじゃない」

「え?」

「大石君ってさ、結構リーダー向きよ。人の心上手く操る方法身につけてるって言うかさぁ」

「…操るって」

大石は背中に何か冷たいものが伝わる気がした。



「ごめん、ごめん。言い方悪かったかな?…ん〜なんて言うのかな。人の育て方分かってるっていうのかな?…今の大石君は考えてやってるんじゃなくて無意識のうちにそれしてるんだろうけど」

は最初は笑っていたが、次第に目の奥が真剣になっていく。



「言ってる事、よく分からないんですけど」

戸惑いながら大石はそう言う。



「簡単に言うとアメとムチの両方ができるんだよね、大石君は…それは才能だよ」

にっと笑みをこぼす



「…」



「人を育てるって褒める事が大切なの。それが楽しいって思ってもらうことがそれを上達するのに必要だから。でも、それ以上を目指すならちゃんと叱らなきゃ駄目なの…分かる?」

「…何となく」

「何となくでいいのよ。ってあたしもコレ講義の受け売りなんだけどさ…大丈夫。大石君なら部員もしっかりまとめられるわよ…まぁ大石君って結構天然だからそれによって部員が振り回されたりするだろうけど…」

最後は小さく呟いて、それを誤魔化すように笑みを浮かべる

「あの、最後なにか言いました?聞こえなかったんですけど…」

「え、いや…あっほら、もうこんな時間。休憩終わり。とっとと机に戻る。ちゃんと気持ち切り替えて集中しなさいね」

言いかけた大石の言葉を遮っては大石を机へと追い立てた。















「はい、今日はここまで。問題集のここからここまで宿題ね。次回までにやってみるように」

「あっはい」

「よし」

「ありがとうございました。また次回よろしくお願いします」

「はい。お疲れさま。気をつけて帰るのよ」

「はい。あの…話聞いてくれて、ありがとうございました。俺、自分なりの方法でやってみようと思います」

ペコンと頭を下げる大石。

そんな大石を見ては優しく微笑む。

ぽんっと大石の頭を叩く



「悩め若者よ。それが青春だ」

そう言って豪快に笑う



「…それは何か違う気がするんですけど…」

苦笑しつつ突っ込む大石。



「何?」

の目が一瞬鋭くなる。



「…いえ、ありがとうございました」

素直に頭を下がる大石。



「素直な君にご褒美だ」

あごに手を当てられ顔をあげさせられる大石。





「…あ、あの…」

その後には真っ赤になった大石。



「頑張れ、若者よ」

暖かいの笑顔。



「…ど、どうも」

大石はの部屋を後にする。



空は赤と紫のコントラスト。



大石は大きく息を吸い込み吐き出した。



「やれることをやっていけばいいんだよな」

大石は誰に言う訳でもなくそう呟くと帰路についた。





(Fin.)










反省文

大石夢。
大石に可愛いと言ってみたくて書いてみました。
部長代理結構プレッシャーを感じたんじゃないかなぁと思うんです。
大石ってなかなか悩みとか人に言えなさそうなんですよねぇ。
どっちかと言うと相談に乗るタイプだから自分の事言えなくなっちゃう…イメージ。
同年代の子には言えなくても年上の人には言えるかも…と思ったのですがいかがでしょう?
ボーリング大会のはじけた感じの大石が結構好きだったりする管理人でした。










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