哺乳瓶にしがみつくように手を添えこくこくと一心に

そんなに慌てなくてもいいのになぁ、と思いつつをそっと撫でた。



ふと視線を感じは顔をあげ向かいのソファーにすわっている手塚の方を見る。

手塚は手にした新聞にではなくの腕の中にいるに視線を向けていた。



「どうした?」

「…いや、なんでもない」



は手塚に尋ねるが手塚はそう言って視線を新聞に戻した。

視線は新聞に向かっているが意識はこちらに向けられていることが見ていて分かる。

長い付き合いだ。

表情に出なくても手塚を取り巻いている空気である程度読める。



「ミルクあげてみる?」

「いや、いい」

手塚はそう言うとソファーから立上がりドアの方へ向かう。



「そうか?」

「あぁ」

パタンッとドアが締まり手塚の姿が視界から消える。



「だぁ〜うぅ〜」

を抱き上げポンポンと軽くその背中を叩いた。



「ケフ」

ミルクの匂いが広がる。



「よしよし出たね〜」

口許のミルクを拭いてやりを抱き直し柔らかい頬をちょんっとつついた。

ミルクくさい身体をそっと抱き寄せる。



「見てるだけじゃなくて抱いてくれればいいのに…何やってるんだろうね、お父さんは」

は小さく呟きの柔らかい頬に自分の頬をすりよせた。















「あぎゃ〜っ」

聞き慣れた大音響には野菜を切っていた手を止めた。



「あ〜起きちゃったかぁ〜。…はいはい、ちょっと待ってねぇ〜。すぐ行きますよ〜」

軽い調子でそう言って手を洗う。



その声は家中に響き渡る大音響より遥に小さいため震源地には届いてはいないだろうが。

手をふきエプロンを外しながら急ぐ素振りもみせず声の方へと向かう。



音が響く部屋に入っては苦笑した。

の上に手をのばしたまま触れることなく固まっている手塚。



「あぎゃ〜」

あの小さな身体からどうしてこんな大きな声がでるのだろう、と思いつつは手塚の横に立つ。



「はいはい、ごめんねぇ、待たせちゃって」

手塚の横から手を差し出しオムツが濡れていないのを確認し抱き上げた。



手塚はが部屋に入ってきたのには気がつかなかったのだろう。

表情は変わらないが、いつもよりほんの少し目を大きく開いている。

驚いているようだった。



「泣いてるんだから抱いてくれればよかったのに」

は手塚にちらりと視線を向け、いまだ泣き叫んでいるをあやす。



「…」

手塚は無言のままに視線を向けている。

の泣き声は次第に小さくなっていく。



「…すまん」

手塚の指先が何かを求めるようにほんの少し動いたが、それ以上は手塚の手は動かなかった。

は大きく息を吐き出す。



抱いてて。ミルク作ってくるから」

は大きく溜め息をつくと腕の中でひっくひっくと喉を鳴らしているを手塚の腕へと押しつける。



!?」

手塚は慌てての方に推し戻そうとする。



「ふぇ…」

小さく漏れたの声に手塚はぴたりと動きを止める。

泣きそうになるの顔を見て、手塚の顔がほんの少し強張ったように見えたのは気のせいではないだろう。

は一瞬顔を歪めたが、泣き出さず、じっと上を――手塚の顔を見上げてる。



「大丈夫だよ」

そう言ってさっさと部屋を出て行く



「お、おい」

普段の手塚らしくない慌てた声が聞こえた気がしたが、は振り返ることなくキッチンへと向かった。










ミルクを作り戻ってきたを渡すと手塚はほぉっと息を漏らした。

ようなく大任を終えた、というように微かに手塚の顔に笑みが浮かんだ。



「そう緊張することないのに」

そう言っては笑った。



「また泣かれるかと思ったんだ」

ばつが悪そうに視線をそらす手塚。



「 “また”?」

「あぁ…初めてを抱いたときのように」

「あぁ、あったねぇ。そんなことも…」



遠征に出かけていて出産後2週間近くたってからようやく抱かれた父親の腕の中で、これ以上ないというほど大泣きをした

慌てる手塚から出産後何かと世話を焼いてくれた彼の友人がを抱きうけた途端、ぴたりと泣き止んで。

あのときの手塚は表情には表れなかったが、相当ショックを受けていたようだった。



まだ引きずってたんだ。

普段の強気な駆れらしからぬ一面を改めて知っては笑みを浮かべた。



「大丈夫だよ。もう自分のお父さんが誰かなんて分かってるって」

「しかし…」



「父親が逃げ腰でどうするの?慣れよ慣れ。ほら、抱いて」

手塚の腕の中に再びを預ける。



「お、おい」

珍しく焦る手塚が面白い。



「ほらそんな硬くならないで。大丈夫よ。そう簡単に壊れたりしないから」

「壊…替わってくれ」

「だ〜め、ほら身体強張ってるよ。に緊張が伝わっちゃうでしょ。リラックスリラックス。…頭くらい撫でてあげたら?」

手塚はぎこちない仕草での頭を撫でた。



「…試合の方が気が楽だな」

「少しずつでいいからちゃんと慣れてよね、お父さん」










(Fin.)





反省文

ついにやってしまいました。
夫婦ネタ。
しかも子ども有。
…笹間はまだ結婚もしてませんし、子どももいませんので実際どんな風か分かりません。
全国のパパママ様、請うご容赦。
読んでいただきありがとうございました。










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