「手塚、練習中は練習に集中した方がいいんじゃないか?お前がそんなんじゃ他へと示しがつかないぞ」

ため息交じりの大石。



彼の言葉通り、今日の手塚の様子は明らかにいつもとは違う。

普段の落ち着いた雰囲気とは違い、今日はチラチラとある一方向を気にしていて、練習どころではない、といった感じだ。



「あぁ…」

手塚はそう言って一度大石の方を見たが、またすぐに視線を向こうに向けてしまった。



「…手塚」

大石は何ともいえない脱力感を感じる。



と、突然手塚の眉間のしわが一気に濃くなった。

「…休憩だ」

低く呟かれた声。



「えっ?さっき休憩取ったばかりじゃ…」

大石は驚いたように手塚の方を見る。

「…」

手塚は無言で大石の方を睨みつける。



「…分かったよ」

大石はそんな手塚を見て再び大きくため息をついた。

手塚はそんな大石を気にする様子なくフェンスの方へと向かう。



「…」

大石はもはや何も言う気にはならず、無言でその後ろ姿を見送るしかなかった。












手塚はフェンスの近くに来ると1人の少女の名前を呼んだ。



返事がない。

手塚の眉間のしわが濃くなった。





再び名前を呼んだ。



「はーい、ここ、ここ」

人込みの後ろからかけてくる少女――彼女の名は手塚

男子テニス部部長手塚国光の妹である。

普段は兄とは違う学校に通う彼女だが、今日は兄の部活の見学にやってきている。



妹の姿を確認し、手塚は一瞬ほっとした表情になった。

が、しかし次の瞬間、再び手塚の眉間のしわが一気に濃くなった。



彼女は1人ではなかった。

彼女が来た方向からは不二と菊丸、それに乾の姿があった。

手塚は3人に鋭い視線を向ける。



「ここにいるよ」

手塚の下から声がした。

が手塚のすぐ傍のフェンスの近くまできて、手塚の方を見上げていた。

手塚が自分の方を見ていない事を は手塚が自分に気付いていないと思ったようだ。



「どこに行っていたんだ?」

手塚は優しく諭すような口調で に尋ねた。



「えっ…あ…その…」

はその問いに口ごもるようにしてちらり、と後ろに視線を走らせた。



「…言えないのか?」

先程より幾分きつくなる手塚の口調。



「うぅ〜」

は俯く。



「…

低く通る手塚の声。



「そんな(可愛い)声出して、(可愛らしく)しおらしい仕草したら、何でも許されると思ったら大間違いだぞ」

〔()の中は実際声には出ていません。手塚の心の声ととって下さい…。BY笹間〕

そう言って表情を隠す様に手で顔半分を隠し、眼鏡の位置を直す手塚。

眉間には相変わらずしわがよっているが口元は緩んでいるようだ。



「そのくらいにしてあげなよ、手塚」

「彼女も時にはいいたくないこともあるだろう。それを無理に言わせるのはどうかと思うぞ」

「そうだぞぉ。 ちゃんが可哀相じゃにゃいか〜」



3人の助け舟に の表情がぱぁっと明るくなった。

それを見て、手塚はまた不機嫌そうになるのだが。



「…お前ら、練習中にどこに行っていた」

地の底から湧き上がるような低い声。



「ちょっとね」

不二が動じる事もなくにっこりとそう答えた。

その答えがますます手塚の神経を逆なでした。

そんな手塚を は心配そうに見上げている。



「そんな顔しにゃいの」

そう言って の頭をポンっと軽く叩く菊丸。

は菊丸の方を見上げる。

いつの間にか の横に菊丸が立っていた。





ガチャ。





フェンスの網を握りしめる手塚。

そんな手塚を見て菊丸は一瞬驚いたような顔をしたが、その後何やら思いついてイタズラを企むような独特の表情を見せる。

手塚はそれを見て、物凄く、いやな予感がした。



ちゃ〜ん、元気だっしてぇ〜」

がばっと に飛びつく菊丸。



「きゃ」



「あぁっ」



が驚いて声を上げ、手塚が何とも情けない声をだした。



「にゃっはは〜ん」

菊丸満面の笑み。



「あ、あの…」

菊丸の行動に戸惑う

わたわたと何なら慌てている。



手塚は、それを青ざめて凝視している。

いつもだったらすぐに の元に駆けつけるのだが、今は目の前のフェンスが邪魔をしてそれができない。



「そのくらいにしておけ」

乾が菊丸を から引き離した。

「にゃ!?」

予想外の人物に引き離され、菊丸はめんを食らう。



「このまま彼女の心拍数が増加するのは危険だ」

ボソッと言う乾の呟きに、菊丸が の方を見る。

はゆでたてのゆでだこよろしく真っ赤であった。

「あにゃ〜、ごめんね、 ちゃん」

苦笑する菊丸。

彼にとってはごく普通のスキンシップのつもりだったのだが、彼女にとってはそうでなかった事を今はじめて認識する。



「あ、いえ…お兄ちゃん?」

は先ほどから無言になってしまった手塚の方に心配そうに視線を移した。



「… 、帰れ」

焦点が定まらないまま手塚が小さくそう言った。

はビクッとして手塚を見上げる。



「ちょ、手塚!?」

抗議する不二と固まる乾と菊丸。



「…約束だっただろう?」

唇を噛み締める



「…ぐっ…」

それを見て怯む手塚。



「…り、理由があるなら聞いてやらないこともないが…」

を直視できず、やや視線を逸らす手塚。

「…」

は手塚を睨みつけるだけ。



「…手塚、彼女はお前が来るのを待つと言っていたのだが、それはよくないと俺達が連れて行った」

代わりに口を開いたのは乾。

「…何が言いたいんだ、乾」

手塚は乾が代わりに口を開いたことに苛立ちを覚える。



「…彼女も年頃だからな、こんな人が多い所では言いたくないだろう…それを無理に聞き出そうと言うのはどうかと思うぞ」

の事が分かっているというような乾の口調にますますいらだつ手塚。



「だから何が言いたいんだ」



「お兄ちゃんっ」

あわや、言い争いがはじまろうと言う時、 が、声をあげた。



言い争いがぴたっと止まる。

「…行ってたの」

は俯いて小さくそう言った。



「何処にだ?」

聞き取れず聞き返す手塚。




「…ぃ…」




「はっきり言え」





「…トイレ、行ってきた」





今度はかろうじてであるが手塚の耳に届いたらしい。

は顔を赤らめて俯いている。



「…す、すまん」

何故か、手塚も顔を赤らめる。



「…」



微妙な沈黙。



「乾、言葉足りなすぎ」

そんな光景を見てぼそっと呟かれた不二の言葉。

「…そうか?」

乾は悪びれる様子もない。

「ま、仲直りって事で。練習いこ」

3人はコートの方へと戻っていった。





(Fin.)










反省文

部長はお兄ちゃん第3弾いかがだったでしょうか…?
でもおちとしては前回と被ってます。
次回リベンジ!!…次回あるのかはまだ謎です。
それも気分次第で…。
読んで頂きありがとうございました。
感想なんぞ頂けたら大変嬉しいです。
次回またお会いいたしましょう。










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