夏休み・青春学園中等部。





いつもどおり青学テニス部では乾プロデュースによる厳しい練習が行われていた。

そんな部活の休憩時間。



「水分補給は大切だからね」

部員の何人かがそう言って差し出される乾汁の餌食になるのもいつもの光景。



「ぐぉ〜っ!!」



本日の餌食となってしまった大石がいつも餌食になる部員と同じようにコートから駆けて行った。

そんな平和(?)ないつもと変わらない光景……がその日はいつもとちょっと違っていた。



手塚が女の子たちの集まるフェンスの方へ向かっていく。

普段はファンの女の子達に対しては努めて無視(黙認とも言う)し、極力関わろうとしない手塚にはかなり珍しい光景だった。

手塚はコートの傍に来たばかりでなにやらきょろきょろしている少女の前で足を止めた。

そんな手塚の行動にコートの周りにいた女の子達は手塚に注目をする。



「……来るなといっただろう、

そう手塚に言われた少女は、まるでイタズラが見つかってしまったような顔でへへっと笑った。



「だって見に来たかったんだもん」

「全く仕方がない奴だな」

少女の悪びれない態度に呆れたのかそう言って手塚はため息をついた。



「あっでもでもっ差し入れ持ってきたんだよ。もし良かったら後で部活の人達と食べてよ。ね。」

そう言って少女――はもってきた袋を手塚に見せた。



「渡したいんだけど出てこれる?って練習中なのにこんな所で話してていいの?部長さんなんでしょ?」

「今は休憩中だ。すぐそっちに行くから待ってろ」



仲良く(?)女の子と話す手塚。



そんな異変にいち早く気付いたのは海堂。



「……」



見慣れない光景に言葉のないまま固まる海堂。

そんな海堂に気付いて、桃城は海堂の視線の先をたどる。



「おい、越前、珍しい。部長が女の子の所行って話してるぞ」

越前の首根っこを掴んで自分の見ていた方を向かせる。



「本当だ。……部長もなかなかやるっすね」

にやりと笑う越前。



「手塚の方から女の子に話し掛けるのってはじめてみた気がするよ」

汗を拭きながらそういう河村。

「結構可愛いよねぇ。私服だし他校の娘かにゃ〜。どうする?手塚の所行ってみる?」

興味津々と行った感じの菊丸。

「う〜ん、もうちょっと様子を見ようかな。面白そうだし」

意味ありげな笑みをこぼす不二。



「……あの娘、どこかで……」


「にゃっ!?乾!?いきなり後ろに立つなよぉ!ビックリするじゃんかっ!!」

菊丸の後ろに突然現れ……もとい、それまで気配を消して気付かせなかった乾。



興味津々で動向を見守るor珍しいものに固まる部員達と、嫉妬の嵐に荒れ狂うファンの女の子達。



思いは人それぞれであるが、現在手塚と謎の少女は注目を一身に集めている。



はそんな周囲の女の子達の視線に気付いて、顔がちょっと引きつる。

睨まれるような事をしただろうかちょっと、なんか怖いなぁと思いつつ、明らかに好意では無い視線を感じて冷や汗をかき一歩後ろに下がる。





その声に後ろを振り返る。

「……あっ、うん、これ」

傍に来た手塚に何となく周囲の視線が気になって引きつったままの笑顔で手塚に紙袋を渡す



「あぁ、悪いな。……来てしまったものは仕方がないが、このまま見ていくなら暑いからちゃんと日陰にいるんだぞ」

「……は〜い」

手塚ごしにコートの方をきょろきょろ見回して、明らかに手塚の忠告を聞く気がないに手塚はますます眉間にしわを寄せる。



そんな時、本日の乾汁の餌食となった大石がいまだ足取り重く戻ってきた。

いつもと違う雰囲気に気付き、菊丸に声をかける。

「何かあったのか?」

「あっ大石ぃ。何か手塚が、女の子のとこ行って話ししてんの」

菊丸の指差す方に注目を集めている2人を見つけて、乾汁によって消えていた笑顔を取り戻す。



「あっちゃんじゃないか」

「ふに?大石知ってんの?」



「大石さん!」

目的の人物を見つけたが大石の名前を読んで大きく手を振る。



「あっちょっと行って来る」

名前を呼ばれて2人に駆け寄る大石。



「大石さん!」

大石を見ては満面の笑顔になる。



「こんにちは。ちゃん」

にっこりと微笑まれては慌てて頭を下げる。



「こ、こんにちはっ!あの、この前は傘貸していただいてどうもありがとうございました」

目をキラキラさせ満面の笑顔を大石に向けるに手塚は小さくため息をつく。

「で、この前お借りした傘を……アレ?……ない。……アッ!!す、すいませんっ!!何か家においてきちゃったみたいで……」

「……全く、仕方ない奴だな」

そんな手塚の言葉に苦笑する大石と、ほんの少し赤くなる

そんな2人を一瞥し、手塚は再び小さくため息をつく。



「……大石、これをが持ってきた。本人としては傘のお礼の差し入れだそうだから、部活が終わった後にでも食べてやってくれ」

手塚は先程から受け取った紙袋を大石に渡す。



「えっ差し入れ?ありがとう、ちゃん」  

「え、いえ、あの、たいしたものじゃないんですけど……」

「後で、みんなでいただくよ。あっ傘はいつでもいいからね」

「……はい、本当は一緒にかさ返そうと思ってたんですけど」

優しく笑顔を向ける大石と自分の失敗を誤魔化すように笑う

やりとりを聞いていて、頭痛を抑えるような仕草でしわのよった眉間に手を当てる手塚。



「ねぇねぇ大石ぃ。その娘と知り合い?俺達にも紹介してよぉ」

大石の肩越しにひょいっと顔を出す菊丸。

大石が加わった事で、話し掛けやすくなったらしい。

大石が振り返ると、何やら頭を抱えている手塚の横にいつの間にかずらっとレギュラー陣が揃っている。



「あぁ。そうか、みんな知らなかったっけ?」

そう言う大石を見て、はレギュラー陣の方を見て慌てて頭を下げる。



「あっ始めまして。手塚です」

そんなを見て手塚は諦めたように小さくため息をついた。



「え?手塚って?」

の言葉に菊丸が大石を見る。



「あぁ、この娘は手塚の妹さんだよ。あっ差し入れ持ってきてくれたんだって。後でみんなでいただこうな」

戸惑う菊丸に大石が笑顔で答える。





『手塚の妹!?』





目の前でニコニコと微笑んでいる小柄で可愛い娘が、無表情で、眉間にしわを寄せている手塚の妹。



こんなにほのぼのとした雰囲気をかもし出している娘が、何かというとグランドを走らせ、厳しさのオーラをかもし出している手塚の妹。



まさにDNAの神秘。



「……そう言えばそんなデータがあったな……通りでどこかで見た事があるはずだ」

ボソッと呟く乾。



「兄がいつもお世話になってます」

にっこりと笑う



「……」



……手塚(部長)も、眉間にしわがなければ顔は結構いい線いってるからなぁ。似てなくも無いのかもしれない。

と初対面のレギュラー陣は面々は考え直す。



「はじめまして。ちゃん。不二周助です。」
 
「乾貞治だ。よろしく」

「あっ俺、菊丸英二。よろしくにゃ〜」

「あっ河村隆です。差し入れありがとう。ちゃん」

「桃城武だ。部長、妹さんがいたんすね、びっくりっすよ」

「……海堂薫だ」

「越前リョウマ。ねぇ、あんた何で大石先輩のことは知っての?」

「あっ大石さん、部活の相談とかで何度かうちにきた事があって……」

越前の質問にが答え終える前に手塚がを後ろに隠すようにして間に割って入る。



「そろそろ、練習を始めるぞ。コートに戻れ。……大石、お前はそれを部室に置いてきてくれ」

「え〜っまだ時間あるじゃん」

「……練習再開だ」

手塚の鋭い視線に促されるようにレギュラー陣がそれぞれ戻っていくのを確認して、手塚はのほうを向く。



「……、お前今日はもう帰れ」



「えーっ!!何で?部活終わるまで待ってるよぉ」

「……いいから帰れ」

無理矢理、を帰らせる手塚。

膨れつつも、兄の言いつけに従う妹。



「お兄ちゃんの馬鹿っ!大嫌いっ!!」

という捨て台詞を残して。



帰っていくの背中を見て今日だけで何度ため息をついただろうなどと思いつつ大きなため息をつく手塚。

「……大石だけなら、まだ安心なんだがな」

そう小さく呟いて。



「可愛かったよね。ちゃん」

そんな会話をしているレギュラー陣を思いっきり睨みつける。



「……他は安心できん」



意外に兄馬鹿かもしれない部長さんです。





(fin.)










反省文

手塚がお兄ちゃんだったらいいなぁ…と思ったのが始まり。
でも彼女にとっては笑顔の素敵な大石の方が理想のお兄ちゃんという何とも分かりにくい設定です。
感想なんぞを頂けたら大変嬉しいです。
精進精進。










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