夏の暑さも過ぎ去り、秋の香りが仕出したその日、手塚は自分の靴箱を開けて大きくため息をついた。
眉間にしわがいつも以上に濃くなる。
「おはよう、手塚…うわぁ今年も凄いねぇ」
そんな手塚の視線の先を肩越しに覗き込んで不二は面白そうに笑った。
そんな不二の方を恨めしげに振り返る手塚。
手塚の靴箱にはこれでもかと言う風に詰め込まれた小箱や小包の数々。
10月7日。
青学テニス部部長手塚国光の誕生日。
下駄箱を占領しているのは、直接女の子達からプレゼントを受け取らない彼に対して贈られたプレゼントの数々である。
「で、どうするの?それ」
そんな手塚の表情など気にする様子なく不二はにっこりといつもの笑顔を手塚へと向けた。
「どうする、と言われても持って帰るしかないだろう」
手塚はもう一度視線を靴箱に向けて息を吐き出した。
「ふーん」
そんな手塚に意味ありげに視線を向ける不二。
「何だ?何かいいたげだな」
そんな不二の視線に気付き、手塚はその視線の意味を尋ねる。
「…別に。ただ、それ見てさんがどう思うのかなって思っただけだよ」
にっこりと笑う不二。
「…どういう意味だ?」
彼女の名前が出てきて戸惑う手塚。
明らかに動揺している様子。
「意味は無いよ。ただ、"彼女"より早く他の女の子からのプレゼント受け取ったと知ったら、どんな風に感じるのかなって」
「別に受け取ったわけでは…」
ただ、靴箱に入っていただけで…ともごもごと言葉を濁らせる手塚。
最強の部長でも恋愛事に関しては不得手。
どうしたものかと思案顔だ。
フフッと笑う不二。
「でも、結局持って帰るんだし同じ事じゃない?…まぁ折角だし捨てるなんてひどい事もできないしねぇ」
「…っ」
言葉を失う手塚。
「あ、これ僕からね。おめでとう」
そんな手塚に不二はラッピングされた小箱を渡すと、足取り軽く不二はその場を去っていった。
一方手塚は目の前の靴箱を見据えて思案顔だ。
手の上には不二から渡された小箱。
下駄箱の中には色とりどりに包みやら小箱やらが詰め込まれている。
眉間によるしわはかなり濃い。
"さんどう思うかな?"
先程の不二の言葉が再び頭をよぎる。
もし立場が逆でが他の男からこのような事をされていたら自分は面白くないだろう。
自分だったら…間違いなく不機嫌になるだろう。
だったら逆に…きっとがこんな状況を目にしたらいい思いはしないだろう。
つまり、目の前にあるこれらをの目に触れる前に何とかせねばならない。
どうしたものか。
「おはよう、手塚」
後ろからの声。
手塚は思わず声の主から小包類を隠す様にして下駄箱に背を預けた。
「どうしたんだ?」
声の主であるはそんな手塚の様子に不思議そうに首をかしげた。
「いや、どうもしないが…」
手塚の言葉は明らかに歯切れが悪い。
「…背中、どうかしたのか?」
ひょいっと手塚の背後を覗き込もうとする。
「な、何でもない」
焦って手塚は体制を崩す、その瞬間。
パタン。
小包の1つが床へと落ちた。
「…」
の視線は床へと落ちた小包へと注がれた。
「あ…」
小さく声を漏らす手塚。
そして観念したように下駄箱から背を離した。
顔を上げたの視界に入ったのは下駄箱いっぱいに入ったプレゼントと罰悪そうな手塚の顔。
それを見てはふっと小さく息を吐き出した。
「はい」
そして鞄から1枚の紙袋を出して手塚へと差し出した。
「これは…?」
手塚は戸惑いつつそれを受け取る。
「それ、そのまま持ってかえるの大変だろ?」
はそう言ってふっと笑みをこぼす。
「あ、あぁ…」
「ちゃんともって帰るんだぞ。それ1つ1つに気持ち込められてるんだからぞんざいに扱ったりしたら許さないからな」
手塚の目の前にびしっと指をさしがそう言った。
「…あぁ」
何とか搾り出すように返事をする手塚。
「よしっ」
手塚の返事を聞いて満足したようには手塚に背を向けるとすたすたと歩いて行った。
手塚は複雑な表情でそれを見送っていた。
はぁ〜。
教室についたはさわやかな朝とは似合わない大きなため息をついていた。
その顔には先程の笑顔は無い。
頬杖をついて窓の外を眺める。
登校してくる生徒たちを眺めながらもう一度、は大きくため息をついた。
「そんなため息をついてばかりじゃ幸せが逃げるぞ」
乾がポンっとの頭を叩いた。
「あ、乾、おはよう」
顔をあげる。
乾はおはようとに挨拶を返しつつの斜め後ろの自分の席に鞄を置き、席についた。
そんな乾の行動を見た後は再び視線を窓の外に移動させた。
また、喧嘩か?
だが、明らかにいつものそれとは違う。
では、今回は一体何なのか?
乾の眼鏡の奥に隠れた目がやや鋭くなる。
ため息。
眉間のしわが1本。
時折俯かれる視線。
顔色は悪くないから体調が悪いと言う訳でもないだろう。
テスト、の点数を気にするような事もないだろうし。
進路、についてはそのまま高等部に進むと行っていたから外部受験で悩んでいるという事もないだろう。
では、一体なんだろう?
そんな事を考えているとがくるりと乾の方を振り返った。
乾の方はまさかが振り返るとは思っていなかったため少々驚いたが、もちろんそれは内面に隠して表には出さず、勤めて平静を保っている。
「どうしたんだ?」
何やらじっと見てくるの視線に、先ほど観察していた後ろめたさもあって、乾は居心地の悪さを感じ口を開いた。
「なぁ、乾。……やっぱいい」
は言いかけて口を閉じる。
「どうした?言いかけたんだし最後までいったらどうだ」
「うん…」
は頷いたものの口をつぐんだままだ。
その時乾の目にの鞄からほんのすこしはみ出ている包装紙に気がついた。
なるほど。
プレゼントを渡しそびれていつ渡すかタイミングを考えている可能性75%…だな。
ほんの少し乾の口元が上に上がる。
「どうしたんだ?」
乾は再びに尋ねる。
「ん〜…手塚って何で私と付き合ってんのかなぁと思って」
そう言ってはややだるげに首を傾けた。
乾は自分の予想と外れ少々面をくらう。
「…すまん、どういう、事かいまいち意図がつかめないんだが…」
珍しく言葉の切れが悪い乾。
「ん〜…、ほら、手塚って結構もてるじゃない?」
何かを思い出すようにやや上方を見ながらは言う。
「…まぁ、そうだろうな」
どう応えようか一瞬迷ったが、事実を否定する事は無いだろうと、の言葉を肯定する答えを返す乾。
「なのに、なんで私なのかなぁ、と思って」
「…何を今更言っているんだ?」
やや呆れ気味の乾。
「今更ってっ何だよ。…最近ちょっと考えるんだよねぇ」
フゥっと大きく息を吐き出す。
「手塚って結構もてるし、手塚のファンって綺麗な娘多いでしょ?なのに、なんで私と付き合ってるのかなぁって」
視線を伏せる。
「…ふ〜ん」
「ふ〜んって何か言ってよ。冷たいなぁ」
「さんがそんな事言うなんて相当弱気になってるんじゃないか?」
眼鏡の位置を直す乾。
「そんな事、ないケド…」
次第に声が小さくなる。
そんなを見て乾がふっと笑みをこぼした。
「大分不安になってるようだけど、手塚がさんと付き合ってるのは手塚がさんの事を好きだからよ。その点は俺が保証する」
を見据えて乾がキッパリと言う。
「そう言ってくれるのは嬉しいけど…」
「信じられない?」
その言葉には乾から視線を逸らす。
そんなの様子に乾はやれやれと言うように肩を竦めた。
いつものノートを開く。
「手塚はさんといる時、眉間のしわが1本減る。」
「えっ?」
「手塚がさんがコートを離れる時入り口付近に視線が移動する確率83%。さんと雑談した人間がグラウンドを走らされる確率74%。そして手塚がさんと話す時口元がやや緩む確率100%だ。…他の変化が知りたければもっと続けるけど?」
首を左右に振るを確認し乾はパタンっとノートを閉じた。
「前にも言ったと思うけど、言いたい事はきちんと言うべき相手に伝えないとな。…物分りの言い彼女ってのがいいとは限らないよ」
「そんなつもりないケド…」
乾の言葉にはやや視線を逸らした。
「不安なのは分かるけど、1歩踏み出さないとね。嫌なら嫌。そういう事もきちんと伝えないと…手塚も さんも他の事はそつなくこなせるのにどうしてこのことにはこんなに不器用なんだろうな」
「うわぁ〜、何かその言葉不二っぽいよ」
苦笑する乾にが眉をひそめる。
「そうか?…ま、取り合えず早めにそれわたしてきた方がいいよ」
鞄を指差す乾。
の頬がパッと赤く染まる。
「放課後は菊丸がみんなで祝うから連行するって言ったただろ?できれば今渡してきた方がいい」
「そ、そうだね。うん。じゃ行って来る。…ありがとう、乾」
「あぁ」
包みを持って教室を飛び出していくを見送り乾は席についた。
ノートに書き込む。
"相手の事を思って葛藤を繰り返すのは手塚だけでは無いらしい"
(Fin.)
反省文
知らぬは本人達ばかり第11弾いかがだったでしょうか?
何が書きたかったんでしょう…。
ある方に前回のリクを頂きなかなかUpできないときに励ましメールいただいたのが嬉しくて一気に書き上げてしまいました。
こんなんでよければ第10弾とご一緒に捧げます。
返品可です。
10月7日。誕生日おめでとう手塚部長。
誕生日とか日にち限定ものは書かないだろうなぁと思っていたのですが、ついにやりました。
他のキャラではリク頂かない限りおそらく書かないでしょう。
読んでいただきありがとうございました。
感想等いただけると嬉しいです。
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