このところしばらく手塚は悩んでいた。
さかのぼる事数日前。
その日屋上で乾と話した内容がずっと手塚の中で引っかかっていた。
手塚とが付き合うこととなったあの日。
乾はを『母親の誕生日プレゼントを見立てて欲しい』という事で買い物に誘った事は手塚も知っている。
もそう言っていたし何より、買い物に出かける2人の後を手塚はずっと不二と尾行していったのだから。
手塚はあの日乾が買ったモノは乾の母親に送られたものとばかり思っていた。
しかし、先日乾からあの時すでに母親の誕生日は過ぎていたといわれた。
では、何故乾はを誘ったのだろうか?
手塚とにお互いの思いを伝えさせるための計画と言えばそれまでだが、あの乾がそのためにだけに無駄なものを買うとは考えにくい。
だったら、あれは母親以外の誰かに買ったものと考えた方が打倒だろう。
あの時買ったものは一体どこにいったのだろう。
大体、2人の間にあるものは友情以外の何物でもないと2人は口をそろえて言うが、あの2人は仲が良すぎる。
自分はと2人で出かけたことは無いのに。
あの2人はああして普通に連れ立って買い物に行くのだ。
はっと自分の気持ちに気付く。
自分はプレゼントの行方が気になるのではなく、自分もとあのように出かけたいのだと。
「手塚、眉間のしわが濃くなってるよ」
そう言われて手塚ははっとして声の方を向く。
「…不二」
そこにはいつもの笑顔を浮かべて不二が立っていた。
「部活中だよ、ボ〜ッとしてるならグラウンド走ってきた方がいいんじゃない?」
そう言ってクスッと笑う不二。
いつも自分が言っている台詞を言われ、手塚の眉間のしわがますます濃くなる。
「何考えてたの?」
不二は手塚の顔を覗き込む。
「…たいした事では無い」
まさか、と乾のことに付いて考えていたとは言えず、そう言って手塚は不二から顔を逸らす。
そしてふと思い浮かぶ。
「不二、あの日の事はお前と乾が計画したんだったなぁ?」
「あの日の事って?」
「ほら、俺とがその…」
付き合い始めた、とは言えず、後半はもごもごと口を濁す。
「手塚とさんが何?」
不二が訊き返す。
「…いや、すまん。何でもない。忘れてくれ」
手塚は顔をほんの少し赤らめて不二から顔をそらした。
「ふーん…」
不二は手塚をじっと見ている。
「…何だ?」
居心地の悪さを感じて手塚は不二を睨みつける。
「別に」
不二はそう言ってにっこりと微笑んだ。
「手塚、明日の放課後暇?」
反対側のコートで乾と話していたが手塚の方へやってきてそう尋ねた。
「あぁ別に予定は無いが…」
「そっか。悪いんだけどさ、明日備品買いに行こうと思ってるんだけど、付き合ってくれない?乾明日予定あるんだって」
また乾か。
乾はマネージャー業も手伝っているので買い物もよく手伝っているのだがその事でさえも今の手塚の心に引っかかる。
もてあまし気味の自分の気持ちに手塚はため息をつく。
「忙しいなら無理に付き合ってくれなくてもいいんだよ?」
はそのため息を買い物に付き合わされるからだと取ったらしい。
「いや、行こう」
「そっか。ありがとう。助かるよ」
そう言っては手塚に微笑んだ。
次の日。
よく晴れていた。
校門の所で待ち合わせ2人並んで歩き出す。
「何か、いいよね。こういうのも…たまにはさ」
そう言ってほんのり頬を染める。
放課後、休日とも部活部活で2人でこんな風に街を歩くのは、初めての2人。
部活の買い物とはいえ、どこか嬉しそうだった。
テーピング、スポーツドリンクの粉等等、次々に必要なものを購入していく。
周りの人ごみを気にすることなく2人は楽しむ。
その様子はいつもの意地の張り合いをしている2人ではない。
傍からはごく普通の似合いのカップルに見える。
手塚と一緒という事でもついつい浮かれていたらしい。
ついつい、あれも足りない、そう言えばこれもなかったと買い過ぎてしまった。
買い物が終わる頃、手塚の両手にはいっぱいの紙袋。
買い物が一区切りしてようやくはそれに気がついた。
手塚は嫌な顔一つせず、文句も言わず荷物を持っている。
「あっごめん手塚、こっちの袋持つよ」
そう言っては手塚が左手に持っていた袋に手をかける。
「構わん。俺が持つ」
「いいって、あたしが持つってば」
「大丈夫だ」
「ほら、貸せって」
荷物を挟んでそれを何度か繰り返す2人。
通行の妨げになっていることに気付き、手塚がふと気をそらした瞬間、は手塚の手から袋を奪った。
「全く。こんな荷物1人で持つ事ないんだよ、折角2人で来てるのに。あたしは自分の荷物は自分で持つ。手塚は荷物持ちじゃなくてあたしの…」
そこまで言っては慌てて顔を背ける。
そんなの頬はほんのりと赤い。
一瞬手塚は呆気に取られたが、すぐに口元が緩む。
と言ってもほんの少しではあるが。
「で、俺はお前の何なんだ?」
そう言って手塚はの顔を覗き込む。
その顔には意味ありげな笑顔。
答えを知っていてそうしていると一目で分かる。
「そ、それは、その…分かってるだろう」
はますます顔を赤くして、悔しそうに手塚を睨みつける。
そして1人すたすたと歩き始める。
「」
手塚が慌ててを呼ぶ。
すると、はぴたっと立ち止まって振り向く。
両手で持っていた袋を左手のみに持ち変える。
そして空いた右手を真っ直ぐに手塚の方へと伸ばした。
「行くぞっ!」
手塚が戸惑っていると、は手塚の傍まで戻って来くると、手塚の左手を取った。
耳まで真っ赤になりながら手塚を引っ張るように歩き出す。
そんなの姿をいとおしそうに手塚はやさしく見つめる。
残念ながら、前を向いているはその顔を見る事はできなかったが。
手を繋いで歩く2人。
傍から見ると普通の似合いの恋人同士。
その頃、部活休みで人がいないはずの男子テニス部の部室の中には2つの人影があった。
それは、なにやら怪しげなボトルを持つ乾とその向かいで頬杖をついてそれを眺めている不二。
「上手くいったかな?あの2人」
「さんの方に大分発破かけといたし大丈夫だろう」
「全く世話が焼けるよねぇ、あの2人」
そうしてお互いふっと笑みをこぼす不二と乾。
「ほら、新作だ」
そう言って乾は怪しげな液体の入ったコップを不二に渡す。
「ありがとう。そうそう、遅くなったけど、プレゼントもありがとう。凄く気に入ってたよ」
そう言ってにっこり笑う不二。
「そうか。よかったな…と言っても選んだのはさんだし金を出したのは不二で俺は何もしていないが」
「毎年、姉さんの誕生日前になると悩むんだけど今年はさんに選んでもらったから助かったよ。これも乾が上手くさんをあのお店に連れて行ってくれたおかげ。じゃ、いただくよ」
そう言って不二は乾から渡された怪しげな液体を一気に飲み干す。
「結構いけるよ」
にっこり笑って不二は乾にコップを返す。
「そうか。では今度の部活で他のヤツらにも飲ませてやろう」
乾は何やらノートに書き込む。
「最初、不二からあの計画を聞かされた時はどうかと思ったが…」
書き込みながら乾は、あの日の事を思い出してそう言った。
あの日、部活後突然手塚とのいい加減発展させようと言われた日。
「やっぱ女の人の好みは女の子じゃないとわかんないよね」
「…一石二鳥とか言っておいて、やはり、手塚とさんのことよりそっちが目的だったのか?」
「やはりってやだなぁ。どっちもだよ。いいじゃない、どっちも上手く収まったんだから」
不二はにっこりと微笑んだが、乾はその笑顔に何やら寒気を感じた。
「…そうだな」
不二の迫力に押されて、乾はため息混じりに頷いた。
そしてノートに新たに書き込む。
"やはり不二のデータを正確に取ることは難しい"
と。
(Fin.)
反省文
第5弾いかがだったでしょうか?
乾の買った(?)プレゼントの行き先は悩みましたが結局不二のお姉さんになりました。
と言うのも…河村と不二の会話を思い出してください…第2弾のあの計画をしたのは不二だったハズなのです。
しかし乾が美味しい所を全てもっていってしまい、あまりに影が薄くなってしまったので彼の尽力を示そうかと…。
ちなみに、他に考えたプレゼントの行き先としては@海堂に[ダブルス相方として猫がついたものを(嫌がらせ?)]A竜崎先生[男テニの女性という事で]B桜乃[先生にいくなら…ファンシーにあいそうだし]C壇太一[似合いそう…]等でした。
壇君って…謎です。
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