「…ほぉ、俺たちが走っている間にそんな事がねぇ…」
なにやらノートに書き込みながら、そう言う乾。
その視線はノートに向けられたままでの方へは向けられていない。
「あぁ、もう手塚があんな性格だったなんて思いもしなかったよ」
ブツブツと言う。
「そうかそうか」
「大石と部活の事話してただけなんだよ、なのに仕事の途中で強制連行だぞ」
「そうかそうか」
「相変わらず何考えてるのか、分かんないし」
「そうかそうか」
「おい、乾、ちゃんと聞いているのか」
いい加減な乾の態度にキレて、まるでたちの悪い酔っ払いのような台詞を口にして乾を睨む。
「そうかそう…ちゃんと聞いてるよ、大丈夫」
にきっと睨まれて乾は慌てて頷いた。
しかし、慌てたのは声だけで態度は相変わらずそのまま。
視線はノートに向いたままで、の方を向こうとはしない。
の話をあまり真剣に聞いていないのは明らかだ。
そんな乾の態度にさらに不機嫌になる。
そんなに取りなすように乾は言う。
「確かに仕事はやりにくいだろうが、本当にそうされるの嫌なのか?」
ようやく顔をあげての方を見ると、眼鏡の位置を直しながら、乾はにそう尋ねた。
眼鏡の奥に見える目は明らかに面白そうに笑っている。
「ぐっ」
乾のその問いに、は言葉を詰まらせた。
そんなを優しく見つめる乾。
「だったらいいじゃないか。幸せってことだろう、それも。ちょっとくらい仕事がやりにくくたってな」
くすくすと楽しそうに笑いながら、乾は再びノートをまとめ始める。
「ようやく、付き合い始めたんだから、もう少し素直になったらどうだ?…まぁ、今の話も俺にはノロケにしか聞こえんがな。でも、俺じゃなく素直にいろんな事ぶつけなきゃならない相手が今のお前にはいるはずだろう?言いたい事、ちゃんと言って。言ってほしい事、ちゃんと聞いて来い。そうすりゃ答えはちゃんと見つかるんだから。もしぶつかって駄目なら、俺がまたヒントくらいなら教えてやるよ」
そう言って乾は顔をあげ微笑むと優しくの背中を押してやる。
「ほら、授業までまだ時間があるから行ってこい」
乾の方を見て、はこくんと頷くと、教室から駆け出ていった。
そんなの後ろ姿を見て乾は苦笑いを浮かべる。
まだまだこの2人には苦労をかけられそうだなと。
そんな2人の様子を遠目に見ていたクラスメート達は噂をする。
「何かあの2人って仲いいよね」
「小学校から一緒なんでしょ?」
「あんなに仲いいんだもん、ひょっとしてさぁ…」
「あー、きっとそうだよ」
「だよねぇ」
部活での様子を知らないクラスメート達は、勝手に事を想像する。
"乾とはできている"
そんな噂が学校中に広がるのには時間はかからなかった。
「ちゃ〜ん、ばんそーこー頂戴。ばんそーこー」
試合形式の練習でアクロバティックプレー連発し、擦り傷を作った菊丸がを呼ぶ。
「ちゃ〜ん、こっちこっち早く早くぅ〜」
ぶんぶんと大きく手を振る菊丸。
「わかったから、ちょっと待ってろ」
そんな菊丸を一喝し、は救急箱を持つと、菊丸の所に駆け寄った。
「全く、毎回毎回、飽きもせず擦り傷作りやがって…ちょっとは自制しろよな」
そう菊丸に文句を言いながらは消毒液と綿棒、それからバンソウコウを救急箱から取り出した。
「にゃははは。だって、これが俺のテニスだもん」
菊丸は反省することなく笑ってその場を誤魔化す。
「ったく、しょうがないなぁ、もう。あっほら、じっとしてろって」
は、ぐいっと菊丸の腕を引っ張って消毒液をつける。
「ギャ―、痛いよぉ。痛いってば、しみるよぉ〜ちゃん」
だだっこのように足をじたばたさせる菊丸。
「だぁ〜動くな、英二」
はそんな菊丸の腕をさらに強く掴んで治療を続ける。
傍から見ると仲良くじゃれあっているように見える。
もちろん本人達はそんなつもりは全くないのだが。
そんな2人を手塚は反対側のコートで思いっきり眉間にしわを寄せて見ていた。
「…!!」
手塚の傍にいた海堂が手塚の豹変振りに驚いて後ずさる。
そして、その場で視線を手塚に向けたまま固まる。
そんな迫力をかもし出したままと菊丸の元へと歩いていく手塚。
手塚が歩みを進めるごとにその迫力に恐れを抱いた部員たちの人並みが映画の十戎のワンシーンの如く割れて手塚の前に道が開かれていく。
「痛いってば、もっと優しくやってよぉ、ちゃ…にゃ?」
被ってきた影に気付き、菊丸は上を見上げ、そのまま青ざめて固まった。
先ほどまでの満面の笑みが、血の気が引き、ひきつったそれに変わる。
「う、うにゃ〜」
涙目になる菊丸。
「あっ手塚」
も影に気付いて顔をあげた。
が、手塚はそんな2人の顔を見ようとはしない。
手塚の視点は…ある一点に集中していており、そこから視線を動かさない。
その一点とは、治療のため菊丸の腕を掴んでいるの手。
手塚の眼鏡の奥が光り、手塚はが菊丸の腕を掴んでいた方とは反対側のの腕を掴んだ。
そしてそのままそれをひっぱるとを立ち上がらせる。
それによっては菊丸の腕を離す。
「手塚?」
そんな手塚の行動には不思議そうに手塚の顔を見る。
菊丸は先程から固まったままだ。
「ちょっと来い」
そう言うと、手塚はの腕を掴んだまま部室の方へと歩き出した。
「ちょ、手塚?何すんだよ、離せぇ〜」
は引きずられるようにして連れて行かれてしまった。
その後、大石が菊丸に駆け寄った。
「お、大石ぃ〜、怖かったよぉ」
涙目で大石を見上げる菊丸。
「よしよし、もう大丈夫だからな」
そう言って菊丸の頭をポンポンと撫でてやる大石。
「駄目だよ英二。今日の手塚はあの噂のせいでただでさえ機嫌が悪いんだから」
横から不二が出てきて口をはさむ。
「僕らは噂だって分かってるけど、知らない人間は好き勝手いうからね」
優しく諭すようににっこりと微笑んで不二が言う。
「あっそう言えば、噂の乾は?」
菊丸が大石の方を見て尋ねる。
「今日は他校に偵察に行ってくるっていってただろう」
練習前に手塚が言ってたのになぁを思いつつ大石は苦笑しながら言う。
「ふーん」
自分から聞いたのに菊丸はさほど興味がない様子だ。
「…どうなったかな、手塚とさん」
不二が2人が向かった部室の方に視線を向ける。
「ようやく落ち着いたのになぁ…」
大石はそう言って小さくため息をつき、胃の辺りを抑える。
『まったくもって、世話が焼けるんだからな…』
大石がそう思ったのは、菊丸に対してか、それとも…。
部室についてようやくのうでは手塚から解放された。
「何なんだよ、突然。菊丸の治療してたのはマネージャーとして仕事なんだぞ。この前ちゃんと話し合っただろう。部活の仕事には支障が出ないようお互い気をつけようって。手塚も納得したじゃないか」
また手塚が独占欲からした事だと思ったは手塚にくってかかる。
そんなを手塚はきっと睨みつける。
「な、何だよ」
そんな手塚の様子に戸惑う。
「あの噂は何だ?」
「は?」
何のことか分からず訊き返す。
「…お前と付き合っているのは俺だろう」
「…そうだけど」
「だったらあの噂は何だ!」
激昂する手塚。
「ちょっと待ってよ、話が見えないんだけど」
そんな手塚に戸惑う。
「お前と乾が付き合っているという話だ」
真剣な目でそう言う手塚。
「はぁ!?」
「…違うのか」
驚きの声を上げると、意外そうな声を出す手塚。
「違うに決まってんだろっ。何を言っているんだ。あたしが好きなのは手塚。そりゃ、乾のことも好きだけどさ、手塚に対する好き乾に対する好きは違うんだよ」
「…」
「乾は相談乗ってもらったり、愚痴聞いてもらったりする普通の友達。あいつとの間にあるのは友情」
は一気にそうまくし立てた。
「…信じていいんだな」
いまだ不安げに言う手塚。
「って疑ってたのか?」
そんな手塚をは睨みつめる。
「う…いや…」
気まずげに視線を逸らす手塚と大げさにため息をつく。
「…そんな話が本当なら何で乾があたしが手塚と付き合うようになるのに協力してくれたんだ?」
「…」
「あいつが手塚の事でどんだけ相談に乗ってくれて励ましてくれたか…」
俯いてしまう。
「なのに…」
はきゅっと唇を噛み締める。
そんなを手塚はそっと抱きしめた。
「…悪かった」
手塚が呟くように言う。
「…」
「お前達が仲がいいのは知っている。だから、少し不安になったんだ」
「…手塚」
「友情…なんだな。俺はそれを信じる。」
「…あとで、乾にも謝るんだぞ」
「…わかった」
2人はしばらく抱き合っていたが、どちらからともなく、部室をそそくさと出て部活に戻っていった。
(Fin.)
反省文
知らぬは本人達ばかり第3弾☆いかがだったでしょうか。
前半乾夢になってきているような気がしますが、あくまでもこれは手塚夢…です。
前回までの状態って絶対周囲が誤解すると思うんですが、乾と ヒロインの関係は腐れ縁…悪友みたいなかんじですね。
何でも話せる異性の友達っていると思うんですよ。
ただ、どっちかに彼氏彼女ができてしまうと、どっちかが気を使ったりしてしまって…友情が上手くいかなくなってしまうこともしばしばですが…でもこの2人にはそんな風になってもらいたくないなぁ…と強く希望です。
最近乾にやられぎみな管理人でした。
乾、最初はギャグ担当だったのになぁ。
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