次の日、 は高熱を出し学校を休んだ。

祖父や、そのお弟子さんなどが が独り暮らしをしている家きて、看病をしてくれた。



そのうちに手塚は、 に暴行を働いた生徒たちへの処分をすませた。

大石や他の部員がどんなに聞いても理由は話さなかったけれど。

放課後になって手塚がを見舞いにきた。



「何か、よっぽど怖い目にあったせいか熱のせいかわかりませんが、とにかく一晩中うなされっぱなしでな」

部屋に案内してくれた、祖父がそう言った。



部屋に行くとは眠っていた。

まだ熱が高いのか、枕の上にはぐったりと仰のいた寝顔はぼぉっと上気し、ハァッハァッと口で息をしている。

その寝息がふと乱れて、ピンク色に上気した美貌の眉間にしわがより、ウ〜ンとうめきながら苦しげに頭を振り始めた。



?」

と声をかけた。



!しっかりしろ!!」

手塚の声が聞こえたらしく、はフッと目をあけ、まだ覚め切れなくてぼんやりしている様子ながらも、瞳を動かして手塚を見やってきた。



「俺だ、分かるか?」

と尋ねてやると、かすかに頷いて、助けを求めるようにそろそろと手を差し出してきた。

こちらから手を伸ばして握り返してやった手は、風呂上りの子どものように熱い。

その途端、自分を見上げているの目がうるうると涙を沸きあがらせ、手塚は慌てた。



「大丈夫だ、もう、心配ないからな」

ハァッハァッと辛そうな息をつきながら、はほんのり目を細めた。



「手……塚さァん……部活……お疲れの所……つまらない心配…させてしまって……すみません」

その微苦笑といった風な表情は、せつなさげな息遣いが教えているも儚い命の1人だという現実を、気力で乗り越えようとするけなげさの現れで、手塚はふと涙が込み上げてくるような愛しさを覚えた。



「たいしたことはない。いつもどおりだ。」

そう無愛想にいう手塚に、ふっとは笑みを漏らす。



「…その、すまなかったな、守ってやれないで」

そういう手塚は少し苦しそうだ。



「そんな…昨日のあれは…俺の責任ですよ。手塚さんが自分を責める事じゃないんです」

「しかし、お前をテニス部に強引に招いたのは俺だ。」

「決めたのは俺ですよ」

「いや、強引に招きいれてしまったから」

手塚が口早に反論する。



「……俺、今、テニスできて楽しいですよ」

ボソッとは呟くように行った。



「俺、ここに来る前、事故にあって、膝をやっちゃって、医者が完治したって言っても、信じられなくて、事故のことを思い出しちゃって、テニスできなくなっちゃって。それまでテニス中心に生活してたから精神状態不安定になっちゃって、環境を変えたほうがいいだろうってことで日本に来たんです。手塚さんと思いっきりテニスして、ようやく今膝の事吹っ切ってテニスできそうなんですよ。俺、今、テニスができて、楽しい……今ようやくちゃんとテニスができるようになりつつあるんです」      

節目がちだった視線を手塚に向け、は続ける。



「……手塚さんには、感謝こそしているけれど、恨み言なんて微塵もありません。俺がテニス部に入ると決めたんだし、その責任を誰かに背負わせる気もありませんよ」



沈黙。



「…そうか」

手塚はそう言った。



「…しかし、お前は危なっか過ぎる。できれば、いつも俺の目の届く所にいて欲しいものだな。でないと、お前のことが心配で俺は俺のテニスに集中できん」

告白めいたその言葉にの顔は真っ赤になる。



「んっ?どうした?また熱が上がったか?」

手塚本人は自分がいった言葉の意味を分かっていない。

はその事に気付いて、少し寂しそうに手塚に気付かれないくらい小さくため息をついた。   



「…じゃ、手塚さん。俺はいつも貴方の目の届く所にいますよ。だから、テニス集中してくださいね」

そう言った。



「そうしてくれると、ありがたい。少々風当たりはきついかもいれんが、いつもお前は俺のそばにいろ」

そう言ってふだんは無表情な手塚が優しく微笑んだのを見て、再び、の顔が赤くなったが、手塚は気づかなかった。

は小さく



「手塚さんの野暮天」



と呟き、



「…それって、愛の告白ですか」

と、半分顔を布団の中に隠しながら俯きながら訊いてみた。



途端に手塚の顔も真っ赤になり、しどろもどろし始める。

「…そんな、俺は、その…」



やはり、この人は自分だけを見てくれるわけではないのだ、と思ったは深くうなだれ、

「俺のこと、嫌いですか?」

と小さく訊いた。



「そんなことはない。」

手塚は大きく息をして言葉を続ける。



「……お前のことは嫌いではない。むしろ、気付けばお前を目で追っている自分がいる。お前が何か話せばその声に、動けばその行動に全神経が集中する。……できることならば、お前を自分だけで独占してしまいたいとさえ思うんだ……お前の性別がどうであっても……俺は、お前が嫌いではない……」

「手塚さん、俺は…」

、もう少し、最後まで聞いてくれ。……俺は、お前のことが嫌いではない……自分自身戸惑っているが、俺はお前とあの時会えて……一緒にテニスができてよかったと思っている」

不器用なその告白には嬉しそうに微笑み、手塚に手を伸ばす。



「…手塚さん、俺も貴方のこと、嫌いじゃないですよ」

手を握り合って2人は静かに見詰め合っていた。





その後、の熱は再び上がり、結局3日間学校を休んだのでありました。















ようやく熱も下がり学校に行くと、桃城と海堂が教室に入った途端駆け寄ってきた。



、どうしたんだそのあざ」

の頬には殴られた後がまだくっきりと残っていた。



「ちょっとね」

そう言ってそれ以上は決して話さないを2人は無理に問い詰めなかった。



いくら、どんなに鈍くても、最近手塚が一部の部員に下した処分、数日休んでいて、怪我の残る、それらから何があったのかは容易に想像がついた。

2人は怒りを抑えつつ、の席まで一緒についていった。

怒りは収まらないが、がそれ以上話したがらないのなら、その話題に触れない方がいいのだろうと2人は考え、いたって普通に振舞っていた。

は、そんな2人の心に気付いていた。

苦笑しつつ、普通に接してくれる2人に感謝した。





部活に行っても、周りはどう接していいのか分からずよそよそしい雰囲気だった。

練習前ウォーミングアップの段階で気まずさを感じていた。

委員会で遅れてきた手塚がそんなに気付いて、ぽんぽんと頭を叩き、



「気にするな、お前はお前のことに集中していればいい。周りが気になるなら、俺のそばにいろ。周りなんて気にならないようにしてやる」

といった。

この間のことを思い出し、思わず赤面する

その様子は母鳥を追いかける雛鳥のように、手塚部長にべったりのを見てレギュラー陣は思った。



『手塚(部長)抜け駆けしたな』



幸せの中に何か背中に寒気を感じた手塚部長でありました。










■戻■