ランキング戦。
堂々のブロック1位ではレギュラーの地位を手に入れた。
の強さは飛びぬけている。
が、突然入部し、レギュラーの座を奪ったをよく思わないものも多かった。
「…生意気だよな」
「俺たちがレギュラーになるためにどんなに練習してると思ってんだ」
「一度、痛い目にあわなきゃわかんないんじゃないのか」
闇の思考は留まることを知らない。
朝、 が登校してくると、下駄箱の中に1通の手紙が入っていた。
「おっ 。それってラブレターじゃね―のか」
「まさか」
「誰からなんだ?ちょっとみせろよ」
偶然校門のところで出会った桃城が冷やかすようにいうのを は笑顔で流し、手紙を鞄の中にしまってしまった。
「なんだよ、よまねぇのか?」
「後で読むよ。」
「そうかよ」
に手紙を秘密にされて、ちょっとすねる桃城。
ただでさえ、 のことが気になっているのに、他の誰かからラブレターを受けっとったとすればさらに気になる。
「ま、愛の告白とかじゃなかったら、後で内容教えるからさ」
そう言って、 は笑い、桃城をなだめた。
手紙は手塚からだった。
『部活後、体育倉庫で待つ』
内容はそれだけ。
用件だけの簡潔な手紙がいかにも手塚らしいと は思った。
「何だろう?」
そう思いながらも、 はいってみようと決めた。
『ラブレターじゃねぇの』
桃城の声が思い出される。
は自分の頬が熱くなるのが分かったが、ブンブンと頭をふって、その考えを頭から追い出した。
まさかそんな事があるはずがない。
あの人は、テニスに夢中なのだから。
第一、自分は今男なのだ。
あの人が自分が女であると知っているはずがない。
もし、自分が女だと知っていたとしても、理性一番のあの人は、部活の事のみに集中しており、きっとそんな想いは抱きはしないだろう。
はそう考え、胸に痛みを感じていた。
放課後。
練習を終え、一緒に帰ろうというレギュラー陣を何とかなだめは1人体育倉庫に向かった。
この時間になると、さすがに太陽も沈み、あたりは暗い。
いつも見慣れている風景のはずなのに、は何となく怖くなった。
体育倉庫に着き、扉を開け中に入ってみる。
中は真っ暗だった。
「……手塚さん、まだ来てないのかな」
そう小さく呟いた途端、後ろに気配を感じた。
驚いて、後ろを振り向く前に背中を組み敷かれ、あっと思ったときには力ずくで地べたに押し転ばされていた。
「な、なにを!」
と叫びかかった頭を、髪をつかまれてザリッと地面に押し詰められ、口の中に土が入った。
何本もの手が、腹ばったを乱暴に押し付けた。
「なんだ、手ごたえのねぇ」
「ようし!引き起こせ!」
そんな声を浴びせされながら、猫でもつまむように襟首を掴んだ腕にぐいと引きずり起こされ、力任せに立ち上がらされた。
一体何がおきたのかの見込めなくて、目は白黒、頭はクラクラのに、取り囲んでいる男たちが下卑た調子で言うのが聞こえた。
「なんだ、なんだ、レギュラー様にしてはなんとも頼りない、本当、華奢でまるでガキみたいじゃないか」
「がきって言うより女だよな」
男たちの目には狂気が宿っている。
男たちの会話が、よからぬ企みを言い交わすものである事は、声音や口調でにも察しられた。
具体的に何をする気でいるのかは、純真すぎるには判断しようがなかったが、とてもない不快な出来事に見舞われようとしていることは本能的に感じ取れた。
そして、年頃の男達を相手に、力で対抗するのは、自分の体格や腕力では無理だということも。
だから、意地も見得も忘れて金切り声で怒鳴ったのだ。
「いやだー!いやだ、やめろー!」
と。
「おい、黙らせろ!」
男たちの1人が慌てた声で言ったのが、に自信を与えた。
「誰かー!」
とわめいた口を塞ぎにきた手に噛み付いた。
「うちっ!」
「助けてぇっ!」
「黙れ!この!」
ガキッと横顎を殴りつけられて、一瞬目がくらんだ。
ここで口をつぐまされてしまったら助からないと悟って、必死に怒鳴った。
「だ、誰か!」
再びバキッと頬骨に拳を食らって、ふわっと意識が身体から離れるのを感じた。
それでもなお、
「た、助け……」
と、動かした口には、ハンカチを押し込まれた。
別のハンカチで両手首を腰の後ろに一まとめにくくられる。
「おい、扉を閉めろ」
「よし」
口早に言い交わし、カララ、ドシンと重い扉が閉められてしまうとそこは外の世界とは隔絶された、小暗くてしんと静かな別世界だった。
「さあて、お楽しみはこれからだぜ」
にたにたと笑いながらの調子で1人が言い、転がしたの制服のベルトをほどこうとした。
は気付かないようにそっと足を縮め、男の腹を蹴りつけた。
「ぐっ」
「おいおい、こいつ、抵抗する気だぞ」
「よしよし、生きのいい奴の方が楽しみがいがあるだろ」
「おい、足を抑えろ」
積まれているマットの上では3人の男たちを相手に必死に抵抗したが、腕を封じられて組討には持ち込めない不利は重く、長くは戦えなかった。
(嫌だ、嫌だ、嫌だ)
そういくら思って、わめいても、喉から発せられるのはう〜う〜といううめきだけ。
口に詰め込まれたハンカチは、声を出すばかりか息の出入りも邪魔をして、苦しい。
肩であえごうとしたが、お尻をあげて突っ伏す格好に抑えつけられた姿勢ではそれもできず、幼い頃に海でおぼれた時のように頭がガンガンし始めた。
手がいやらしくお尻を撫で始めた。
はあはあと吹きかけられる洗い息遣い、獣じみた汗の匂い……男たちの劣情に澱んだ空気はの肌にねっとりとまとわりつき、身も竦むようなそのいやたらしさから逃れる術はない。
の制服の上着のボタンが外される。
不意にビクッと背筋が引きつった。
男の1人がの首筋を舐めたのだ。
全身を怖気立つような矢も盾もたまらない嫌悪感に、は口の中いっぱいのハンカチをぐっと噛み締めた。
もう1人の男がのズボンのベルトを外そうとする。
と、その時、ガラッと体育倉庫の扉が開いて、まぶしい光がの目をいたのと同時に、精悍とした声が言った。
「お前ら、ここで何をしている」
男達は一瞬ギョッとして固まった。
手塚は涙目になっているに気付き、男たちを睨みつめる。
「…ここから、今すぐ出て行け」
低い声でそういうと男達はわれ先に逃げ出していった。
手塚は、のもとにやってきて、制服の上着を整え、口の中のハンカチを取り出して腕の拘束も外す。
は、両手で肩を抱き、うずくまった。
「… 」
手塚が立たせようとに手を伸ばした。
「嫌っ」
は手塚の手を振り払い、手塚に向かって近くにあったのものを手当たり次第投げつけ始めた。
「」
手塚はが投げつけるものをかいくぐって近づき、を腕の中に捕まえた。
最初は激しく抵抗しただったが、突然ぴたっと大人しくなった。
不思議に思い手塚はの顔を覗き込んだ。
「……よぉ……」
「?」
何か小さい声で訴えるように言っている。
涙が地面に落ちた。
「…よぉ、怖いよぉ…」
「!!」
男たちに押さえつけられた恐怖が、まだを支配したままなのだろう。
目線が定まらず、その瞳に映っているのは目の前にいる手塚ではなく、恐怖感。
手塚はを抱く腕の力を強めて耳元で囁く。
「もう、大丈夫だ、もう大丈夫だから、ちゃんと俺が守ってやる。だから、俺の目の届く所にいろ。俺から離れるな」
は何か安心したように気を失った。
そんなを手塚はもう一度強く抱きしめめる。
そっとの体を抱き上げるとその場を後にした。
■戻■