コートに行くと、すでに練習は始まっていた。



「大石からおおよその説明は受けたな」

そう手塚は言って、のハイっと返事を聞くとから視線を外し、コートの方を向き直った。

「全員集合」

手塚の声が響いた。



「今日から部員が1名増える。」

大石にぽんと肩を押され、は1歩前に出ると、ペコンとお辞儀をしながら、挨拶をした。



です。よろしくお願いします。」



170cm強はありそうな長身で、ややなで肩の、年頃としては中肉中背の部類に入る体つきは、およそ少年の頼りなさからは脱しようとしているが、まだ青年と呼ぶには筋骨は備わっていなくて、しなやかな若木の時代とでも行った所で中性的な雰囲気をかもし出している。

手足が長くテニスをするには恵まれた体格であるといえる方だろう。

きりっと細い弓なりの眉の下の、凛とした二重まぶたの力のこもった瞳は黒目がちで美しく澄み、すっきり通った鼻筋の小鼻は小さからず大きからず。

唇は少女のように赤くふっくらと形よく、それらが小作りな卵形の輪郭の中にバランスよく収まっている。

日焼けして小麦肌だが触れればプニッと柔らかそうな頬は、まだ子どもっぽい肌身を残していて、興奮すると頬紅を刷いたように血色を上らせる。



肩より少し短い髪がふわっと風になびく。

部員がその容貌に引き付けられ見とれる。



あまりに静かなので、は何かしたかと不安げに手塚の方を窺う。

そんなに気付き、手塚は次の指示を出した。



「よし、練習に戻れ」 

手塚の指示に部員達は練習にぞろぞろと戻っていく。



レギュラー陣以外は、だが。



「にゃー、―これからよろしくにゃあ〜」

菊丸がに飛びつく。



「ひゃ」

突然飛びつかれ、が驚いて声を上げる。



「コラ、英二」

大石によってから剥がされる菊丸。



「にゃ〜」

無理矢理引き離され膨れる菊丸。



「これから、よろしくね、君」

不二がにっこり笑う。



「あ、よ、よろしくお願いします」

先ほどの不二を思い出し、少々青ざめながら、は頭を下げた。    



「きたな、おせーぞ

桃城と海堂も近くに寄ってくる。



の名前を呼び捨てにした事に周囲から険しいし誠意を浴びせられるが、桃城は全く動じない…というか、目の前のに浮かれて気付かない。

今日一日一緒にいただけあって、この2人に対してははだいぶ打ち解けたような表情を見せた。



「桃ちゃんも、薫ちゃんもレギュラーだったんだね。1年で2人だけでしょ?すごいなぁ」



『薫ちゃん!?』



の言葉は打ち解けた様子の2人にめらめらと嫉妬の炎が上がりそうになっていたレギュラー陣の炎を抑えただけでなく、周囲の部員も驚かせて海堂は周囲の注目を集める。

普段の海堂からすれば、は間違いなく殺されるだろうし。



しかし、海堂は顔をかすかに赤らめ。

「……ウスッ」

と目線をそらしただけ。



『海堂が変だ。』



笑い転げる桃城とニコニコと笑顔の、そしてちょっぴり赤面の海堂以外のその場の全員そう思った。



「おい!何をしている!さっさと練習だ!」

再び、手塚の大声が聞こえ、レギュラー陣もメニューを再開した。



「鬼部長ですね、手塚さん」

はコートを出るとき、手塚の横を通り過ぎながらくすくすと笑う。

手塚の眉間のしわが深くなるのを見て、はさらにくすくすと笑った。















手塚の指示によって、はレギュラーのメニューに加えられた。

最初は、面白くなさげに観ていた部員もいたが、乾が組み立てたレギュラー用のメニューを手足の錘をつけて劣ることなくこなしていくを見て、しぶしぶではあるが、納得しつつあるようだった。

メニューが一通り終わって、残った時間は順番に打ち合いをする事になった。





鋭い声に、名前を呼ばれただけでなく、周りにいたレギュラー陣も振り返った。

そこには、手塚が立っていた。

ラケットとボールを手にして。



手塚は無言のまま、を見ている。

その視線をなぞるように周囲のものはを見た。



は、タオルとドリンクを置いて立ち上がり、手塚を見つめ、静かに言った。

「何ですか?」

にっこりと微笑む



「相手してくれ」

「嫌です」

笑顔を絶やさずにっこりと笑って言う



「しばらくは、手塚さんとやりません」

手塚の視線が鋭さをます。

「俺は、今の貴方とやりあいたくありません」

テニスコートと、その周辺――テニス部員目当ての生徒達までもが、どよめいた。

かと思うと、水を打ったように静かになる。



「何故だ?」

低い声で手塚が問う。

「貴方とは真剣に勝負したいからですよ、手塚さん」



「……10分だ」

「嫌です。」

「5分でいい」

「…しつこい男は嫌われますよ」

あくまで冷たく、言うが、その目線はどうしよう、という助けを求める目線をしている。



本音を言えば、も手塚と戦いたい。

手塚とだったら夢中になれる。

怪我の事も忘れられる。

ちゃんとプレーできる。

でも、手塚の腕の事を考えたら、戦わない方がいいのは分かっている。



はちらっと大石を見た。

大石は手塚とを交互に見るとやれやれというようにため息をつき、こう言った。



「…、俺からも頼む、手塚とやってやってくれ。」

「大石」

「大石先輩」



「…手塚がこんなにワガママを言う事はめったにないんだ。聞いてやってくれ。」

「……」

「ただし、5分だけだぞ。それに途中で何かアクシデントが起きたら、問答無用で止めるからな。……それなら、いいだろう?



「…わかりました。5分ですね。それでよければ…」

「……ああ、それでいい」

大きなため息を一つついて、は手塚を見る。

「こうなったら、最初っから本気で行きますよ、手塚さん。手加減しませんからね」

「それはこっちのセリフだ」

ようやく張り詰めていた空気が緩む。



手塚と、がコートに入る。

大石が審判役で立つ。 



「本当に、何か気付いたら止めてくださいよ、大石先輩」

は大石にだけ聞こえるような声で、そっと言った。



「ああ、分かってるよ。」

そう微笑みながら、大石が審判についた。



は、左手にラケットを持った。

手塚が、ボールをあげた。



「こうやったら、容赦はできませんからね」  

そう呟きながら、は飛び込んでボールに食らいついた。



「!?」

見ていたものすべてが息を飲む。

ボールは手塚の横を通り過ぎた。

華奢な身体のどこからあんな重い球が放てるのだろう。

その玉の動きは完璧にコントロールされ、そのパワーも桃城や河村並、いやそれ以上だった。



「すごいな…」

2人の打ち合いを見て乾が呟く。



「……やや膝を庇っている感じはあるが、それでもあれだけの動き。手塚のボールに余裕を持って対応できているスピード。どのコースに打たれても的確に自分が狙った位置へ返せるテクニック。あれはまさに全国でも通用するだろうな。……あれで本調子じゃないなんて……怖い存在だな」



「なんかさぁ、不二のテニスと似てるよね、どこか余裕があって……」

「青学では……もしかしたら、高等部を含めても、まともにと試合できるのは手塚くらいかもしれないな……かなりの実力の持ち主だ」

乾がなにやらノートに書き込みながら言った。










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