の傍には、朝から海堂と桃城がべったりだった。
「……あの、なんだか、ものすっごく目立っている気がするんですけど…」
今にも喧嘩を始めそうな2人に恐る恐る が言う。
青学レギュラーというだけでも目立つのに、犬猿の2人がいるというのはさらに話題に上る。
先日、が海堂に教室から連れ出されたこともあってあることないこと噂されている。
なるべく目立たないよう穏便に学園生活を送りたいのになぁ。と内心 は思っているのだが。
「そんな細けーこと気にしちゃいけねえな、いけねえよ」
「…バカが、大体他のクラスから毎回毎回貴様が来るのが悪いんだよ」
「お前だけじゃ心配だからな。ほっとけねえな、ほっとけねえよ」
「っんだと」
「やんのかコラッ」
「…やめてください」
に止められ取り合えず、そっぽを向いて喧嘩を中断させる二人。
は今さらながらに、ちょっと後悔して軽くため息をついた。
こんな事になるんだったらテニス部に入る何ていうんじゃなかったかなぁ。
そんな事を思いつつ。
「そういや、、今日から練習出んのか」
そんなの考えを知ってか知らずか、話を切り替えるように桃城がたずねる。
「はい、先程顧問の竜崎先生の所に入部届けを出してきましたし、今日の放課後から練習に参加させていただこうと思ってます」
固まる桃城と海堂。
そんな2人に気付いては声をかける。
「どうかしましたか?」
「だーっ!!そのかたっくるしい喋り方やめてくれ。なんだか身体中が痒くなる。タメなんだから、何ていうかもっとこう、普通に喋ってくれよ」
桃城が大げさに身体をかきむしる。
「はぁ。」
そんな事を言われてもであって数日でそんな打ち解けるのもなぁ…とは思ったが、口にはださない。
「…その言い方は俺も好かねぇ」
海堂が横でぼそっと呟く。
二人にそう言われて、はちょっと困ったように首を傾げる。
「そ、そうですか。ん〜でも、そういわれましても」
『それがダメだ』
二人同時にツッコミ。
実はこの二人バッチリ息が合うのではないか、と思う。
「わかりました。いや、えっと、…わかったよ。これからは気をつけるよ。桃城君、海堂君」
にっと桃城が笑い、海堂の顔の筋肉がかすかに緩んだ。
「それに、俺のことは桃でいいし。コイツはマムシでいいしな」
「マムシはやめろ」
「じゃ、桃ちゃんと薫ちゃんで」
の悪乗りにゲラゲラと桃城は大笑いし、海堂は憮然としたが、はそのまま押し切って、海堂を薫ちゃんと呼ぶことに決めてしまった。
海堂は、顔を赤くしながらも、しぶしぶ承諾をした。
海堂は案外女には弱いらしい。
「俺のことも気軽に呼び捨てで呼んでくれていいし。」
そう言って初めて二人に微笑んだに二人は目を奪われた。
『か、かわいいかもしれない』
そう思い、ボ〜ッとを見詰める二人。
「どうしたんだ、二人とも」
そんな二人に気付いて、は二人を覗き込んだ。
慌てて、後ろにあとずさる二人、海堂の顔が真っ赤なのは言うまでもないが、桃城の顔もかすかに赤い。
そんな二人をは不思議そうに見つめていた。
「どうしたんだよぉ」
何となく置いてけぼりを食らった気分になるであった。
放課後。
桃城が教室まで迎えに来て、は海堂と3人で部室へと向かったが、途中で、大石と出会い、レギュラーは全員練習前に竜崎先生に行くようにと伝言を受けたので、桃城と海堂、そして大石と別れ、一人部室へと向かった。
すると、にやにやと笑う2人組みにコートの方から声をかけられた。
「おい、お前か。今日入部するっていう転校生は…?」
「えっあっはい。よろしくお願いします」
「そうか、なぁ、いいゲームあるんだけどやってみねぇ?」
「ゲームですか?」
「ルールはいたって簡単。向こうからサービスを売って、10球以内でこの缶を倒せたら賞金1万円。挑戦料として1人200円。やる?」
『ん〜投資をして、儲ける。株のようなものなのかな。だったら、この勝負受けて、勝てなければならないんだろうな。俺には、決して負けは許されないし。』
そうは考えた。
だったらこの勝負、勝たなくてはならない。
「分かりました。面白そうですね。是非やらせてください」
にっこり微笑んで、はコートに入った。
向かいのコートの両隅ぎりぎりの所に缶が置かれている。
は、フッと軽く息をつき、目標に視線を移して、ボールを打った。ボールは缶の側面を直撃し、中に詰められていた石が飛び散る。
『なるほど、ちょっとかすったくらいじゃ倒れないようにしてあるわけですね。下手な小細工を。ですが、そんなものは通じないよ』
1本目で缶を直撃したことで、相手の2人は戸惑う。
まさか、華奢な体つきであるがそんな強烈な球を打つとは思わなかったのだろう。
2発目、3発目、転がる、宙に舞う缶を正確にうち当てていく。
10発10中。
パチパチパチパチ。
コートの外から拍手が起こった。
コートの外のレギュラー陣が拍手をしている。
手塚は、眉間にしわを寄せてみているが。
「すごいにゃー―」
「なかなかいいデータを取られてもらったよ」
「こりゃ本当うかうかしていられないね」
を賞賛する声が飛び交う。
「…で、お前ら何をやっていたんだ?」
手塚が低い声で2人に問う。
眼鏡の奥の手塚の目が怖い。
「……」
無言。
が2人の代わりに口を開く。
「ゲームなんだそうですよ」
「ゲームだと」
「ええ、俺があの缶にボールを倒せれば俺の勝ち。倒せなければ、彼らの勝ちというゲームです。転校生がいきなり部活に入部したいといえば、その力を測りたくなるのは当たり前の事でしょう、テニスをするものであれば、相手の力を測りたくなるのは当然の好奇心、ですよね、手塚さん」
初対面の時の試合のことを持ち出され、手塚は言葉を続けられなくなる。
「…でも、石を入れた缶って言うのはどうなのかな」
ボソッと不二が呟く。
オーラが怖い。
は、初めて見る開眼不二に戸惑い、不二の恐ろしさを知る者は気持ち後ずさる。
「騒ぎを起こした罰だ、グランド10周」
そういう手塚の顔もかすかに青ざめている。
「は、はい!!」
慌てて飛び出していく2人。
その後に続こうとする、を手塚が引きとめる。
「、お前はいい。入部初日からすまなかったな」
そういう手塚にはにっこり笑い、
「勝負を受けてしまった、俺も彼らと同類っすよ、グランド行って来ます」
コートから出て行った。
『か、かわいい』
手塚に向けられた笑顔だが、レギュラー人全員の心臓をわしづかみにした。
走り始めては、走るなら着替えてからにすればよかったなぁとちょっぴり後悔していた。
制服のままグランドを走り終え、部室前に戻ると大石が部室の前で待っていた。
「今なら、部室に誰もいないから、着替えておいで」
「はい、ありがとうございます。でも……」
トイレかどこかで着替えようと思っていたは大石の申し出を断ろうとしたのだが……。
「俺もちょっとコート見てくるからその間に着替えておいてくれる?そうしたら部活の説明をするから……あっそうそう中からちゃんと鍵がかかるから」
ちょっとわざとらしかったかな、と大石は思ったが、はちょっと考えてから、分かりました、といって、部室に入っていった。
大石は、さりげなくコートに行ったように見せかけてドアの前で見張りにつく。
数分後。
カシャっと鍵が開く音がしてが部室から出てくる。
「あっすいません。おまたせしました」
大石にぺこりと頭を下げる。
「着替え終えたみたいだね。とりあえず、簡単に部活の内容を説明したいんだけど、部室でいいかい?」
「はい」
向かい合わせに机に腰をかける2人。
「放課後は基本的に練習がある。朝と昼は大会前以外は自主練習だから参加してもしなくてもいいよ。まぁ大抵の部員は参加してるけどね、あと、毎月1回ランキング戦って言うのをやって4つのブロック総当りでレギュラーをかけて勝負をする。練習メニューは竜崎先生と部長の手塚が中心になって、俺や乾なんかが少し口を出して作ってる。ん〜後は一応レギュラーがすぐわかるようにレギュラーには専用のジャージがあるって事くらいかな。要点のみの説明だけど、一つ一つ慣れていってもらうことになるね、何かあったらそのときに説明するつもりでいるけど。今、何か質問はある?」
いつもの笑顔で優しく説明をする。
「え〜とそのランキング戦以外で部内で試合する事はないんですか?」
ちょっと首を傾げてたずねるに、グラッと来るが、高い理性によってそれを押さえ込む大石はさすが、青学の良心である。
「試合形式の練習もあるからね。それ以外自主練習とかでやってるときもあるし、放課後の練習は練習メニューにそってやるから毎日試合って訳にはいかないけど、部内で試合する事は結構あるよ」
「そうですか」
「手塚とテニスしたんだって?」
急に鋭くなったの眼差しに気付いて大石が尋ねる。
「ええ。手塚さん、強いです。」
先程よりほんの少し柔らかさを混ぜた眼差しをドアの向こうに向け、が応える。
そんなを見て、大石は胸の奥がちりちりと痛む。
「…手塚は君の事強いって言ってたよ、また戦ってみたい?」
「はい、でも、今度は僕がちゃんと怪我の事ふっきって……手塚さんが左手が万全の時に……」
「気付いてたのか」
「後半になってからですけどね、何となくプレーが乱れた気がして…でなきゃ、俺負けてましたし」
驚いて聞き返す大石には苦笑いをしながら、大石に視線を戻して応えた。
「そうか」
「…次のランキング戦はいつですか?」
笑顔に戻る。
「来週だよ。もちろん、ねらってくるだろ?」
「…できうる限りベストを尽くしますよ。……今はまだ本調子じゃないですしどうなるかは分かりませんけどね」
微笑む大石に、は悪戯っぽい笑顔を返す。
「…そうか。お互い頑張ろうな。今できる事を」
「はい」
今度はにっこりと微笑む。
そんなの笑顔にまたまたドキマギする大石。
「そろそろ、行きましょう。今日の練習内容はなんですか?試合形式の練習だといいなぁ。もちろん、そうでなくても、身体が動かすって言うのは楽しいですけど」
クスクスを笑いながら、は大石を促しコートへ向かった。
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