編入後。       



は、最小限の人間関係の中でクラスに溶け込んでいた。

ただ、そんなそっけない態度であっても、その美貌と転校生ということで目立ってはいるが本人は地味に地味に生活しているつもり。

休み時間になると見たさに女子生徒が教室のドアの所に集まっているが、遠巻きに眺められているのでは彼女たちの目的が自分だとは気付いていない。















ようやく、そんな学校生活に慣れてきた頃、の所にクラスメートの海堂がやってきた。

「おい、お前」

今まで、話した事もなかったクラスメートに突然話し掛けられ、は面を食らった。



「ちょっとこい」

「何か用なのか?」

喧嘩腰のような海堂にも挑戦的に対応する。

海堂は、フシューッとを睨みつける。   

が、が睨み返すと目線をそらし、



「いいから、ついて来い」

といい教室を出て行く。

仕方なく、はその後についていった。















ついたのは、男子テニス部の部室だった。





が入っていくと中には海堂の他に6人の男子生徒がいた。



「あれ??」

その中に見知った顔がある。



「…河、村さん?」

先日行った寿司屋の少年。



「タカさん知ってるの?」

河村の隣りにいた少年が尋ねる。



「うん、この前うちの店におじいさんと一緒に来たんだよ」

笑顔で答える河村。



「へぇ〜」

周りの視線がへと向けられる。



何のことか分からず、戸惑う

そんなのことなどお構いなしで周りは騒ぎ出す。



「ねぇねぇ、手塚が言ってたのってこの子なの。なんか可愛いじゃん」

「ん〜なんか話のイメージとは違うよね」

「こらこら、初対面の子に対して」

「ん、でも、部長より強いって聞いてたからもっとごっついのを想像してたっすよ」

「ん〜興味深いね、さっそくデータを取らせてくれないかな」

「ねぇ、みんな、やめようよ、戸惑ってるみたいだよ……」

助けを求めるように河村がある人物に視線を向けた。

はその視線をたどる。



「手塚さん」

「…突然呼び出してすまなかったな、」  



「いえ、あの、何の御用でしょう」

訳の分からないまま呼び出され。戸惑いながら、は尋ねた。



「海堂、説明してつれてきたんじゃなかったのか」

手塚はドアの横に立っていた海堂に視線を向ける。



「……いえ」

低い声で答える海堂。



「だ〜何やってんだよ、マムシ。役にたたねえな」

「何だと」

「やんのかコラ」

「上等だテメー」

「こら、桃、海堂。こんなところで…」



「…用がないようでしたら失礼します」

は、話を聞かずにどさくさに紛れて男子テニス部の部室を去ろうとした。



「待て、

手塚の声にはドアに手をかけた手を止めて、振り替える。  



「…お前、テニス部に入らないか?」



「申し訳ないのですが、テニスできないんですよ」         

そう言ったの視線は鋭く冷たい。開眼した不二のようなプレッシャーを持っていた。



「…」

この前会ったとは全く違うその雰囲気に手塚と河村は戸惑いの表情を浮かべる。



「……ご用件はそれだけですよね、それでは失礼します」

先ほどの表情とはうって変わってにっこりと笑顔をその場にいたレギュラー人全員に向けてからはドアを開けた。

その笑顔に全員が目を奪われる。



パタンとドアが閉まり、は姿を消した。

「……」

言葉が出ない青学テニス部レギュラー一同。

最強の青学テニス部も形無しである。



「何さ、あれ〜」

ぷぅっと頬を膨らませる菊丸を大石がなだめる。



「どうしたんだろう?この前はあんな風じゃなかったのに」

河村は心配そうにが出て行ったドアを見つめる。



「んーなんか、テニスやる気ないみたいだけど、どーすんの」

「本人にやる気ないんじゃどうしようもないんじゃないのか」



「…もう一度、話してみるさ」

手塚は真剣な眼差しでの出て行ったドアを見つめていた。



「なんか面白くなりそうだね」

それを見て不二が微笑んでいた。















部屋に帰り、は一人くつろいでいた。



『普通の幸せもあるじゃろ』



以前言われた祖父の言葉が、心に引っかかる。



普通の幸せとは一体なんだろう。



富も。

名声も。

産まれた時から与えられている。

一般的には、十分すぎるほど恵まれている立場にいるだろう。



「っ痛」

下っ腹に鈍い痛みを感じては、トイレに行く。



「あーあー、今月はいつもより早いや」

そう独り言を呟く。



女でありながら、女として生きることはまだ許されない。

華道家元の後継者として、大企業の跡取として、男として生きていかなければならない。

まだまだ女では生き抜いていくことが難しいその世界で、男として教育を受け、男として生きていかねばならない。

この重い責務を共に背負ってくれるパートナーが選抜されるその日までは。

祖父の言っている幸せとは、きっと、女として普通に生きていく事なのだろうけれど、の立場では、今はまだ許されないことなのだ。

守るべき伝統、守るべき多くの人たち、守るべき多くの物が、の肩にのし掛かっている限りは、祖父の言うような普通の幸せはありえない。



女でありながら、男であり続けなければならないのだから。










■戻■