かび臭いほこりっぽい空気。
おそらくもう何年も掃除などされていないのであろう。
そこにいると、まるで煙の中にいるように喉の奥が痛くなる。
手塚は喉のつかえを取るように小さく咳をした。
窓から入ってくる明かりを頼りに手塚は古ぼけた洋館の中を走っていた。
洋館の中はしんっと静まり返っている。
手塚が走る足音の他は何も聞こえない。
気が強いくせに怖がりな彼女は今どうしているのかと考えると手塚は気が気でなかった。
クラスの女子は手塚が見る限り、全員外にいた。
彼女はおそらく今1人。
外から入る光のみのこんなところでどんな思いをしているのか。
と言うものの、実は手塚は1人でいる事以上に、もし彼女が自分以外の誰かと一緒でいる事を心配していた。
もし、怯える彼女の傍に自分以外の男がいたら…と考えるとそちらのほうが手塚の心中は穏やかではなかった。
『全く、だから止めろと言ったんだ』
今更ながらにあの時もっときちんと止めさせておくべきだったと手塚は後悔する。
キョロキョロと辺りを見回す手塚の視界の隅で何か影が移動したのを捕ららえた。
手塚はそちらに駆け出す。
「っ」
影が消えた角を曲がり、彼女の名前を呼ぶ。
返事はなかった。
そこには何もない。
彼女の姿はない。
外を走る車のライトでできた影だったのか。
手塚の視線がなお一層鋭くなる。
手塚は再び彼女を探し、走り始めた。
と、小さく押し殺したような声が聞こえた。
今度こそ。
手塚は声が聞こえた方向へ駆け出した。
話の発端はは夏休み前までさかのぼる。
青春学園3年1組。
「おはよう手塚」
「あぁ」
は自分の鞄を机の上に置きながら、隣りの席の手塚に挨拶をする。
「珍しいね、手塚がこんな時間に教室いるなんて」
いつもは、テニス部の朝連だったり生徒会の仕事だったり手塚は教室にいない。
そう思いは手塚にそう声をかけた。
「そうか?」
本人にはそんな自覚は無いらしい。
「そうだよ。手塚、いつも教室に来るのは始業10分前くらいだもん」
「そうかもしれんな」
手塚は無表情でそう答える。
「そうなんだよ」
そんな手塚を見て面白そうには笑った。
そんなの後ろに不穏な影が現れる。
「―」
「ひゃっ!!」
突然、は後ろから抱きつかれ、悲鳴をあげる。
「な、何!?」
慌てて後ろを振り返る。
そこにはにっこりと笑った噂好き親友―の姿。
「聞いて、聞いて。例のお化け屋敷、また出たんだってぇ〜。何かね、2年生の子が見たらしいんだ」
がばっとの肩を掴み興奮した様子でそう言う。
手塚は傍から呆れ気味でその様子を眺めている。
「えっ?あれ?」
このところ噂になっている洋館を思い浮かべる。
「うん、そうそう。でね、みんなで夏休みにあそこ使って肝試しやろうって事になったんだ」
満面の笑みの。
「へぇ〜面白そうだね」
ちょっと青ざめた様子で後ずさる。
「でしょ?も当然参加するよね」
拒否を許さない笑顔。
「えっあたしはいいよぉ」
もう1歩は後ろに後ずさる。
「駄目駄目。欠席なんてさせないよん。強制参加、決定」
チッチッチと右手の人差し指を左右に振る。
「ちょっと勝手に決めにでよぉ」
「ね、手塚も参加するでしょ?」
の訴えを聞き流し、は手塚へと矛先を変える。
「いや」
無表情のまま、いや先程より少し険しい顔でそう言う手塚。
「え〜参加しようよ。みんなで青春の1ページを彩る思い出を作ろうぜ」
びっと親指を立てる。
「…」
そんな彼女の様子を見て、もう止められない、と諦め気味の。
「、頭でも打ったのか?」
手塚は至極当然のことというようににそう言う。
「うわっひどっ。聞いた??手塚ってひどいよね」
「あはは…」
乾いた笑いを浮かべる。
「何?そのかわいた笑い…そんな奴はこうだっ、えいっ」
はのわき腹をくすぐり出す。
「キャーッやめ、アハハは、くすぐったははは」
「駄目ぇ。ほらほらほら、どう?参った?」
「参…ったぁ、ははは降…参、だってばぁ」
じゃれ合う2人。
再び置いていかれる手塚。
「おい」
気を取り直すように、眼鏡の位置を直して手塚が声をかける。
「何?手塚」
を解放し手塚の方を振り向く。
はいまだ苦しそうに息を整えている。
「あそこは私有地だろう。勝手に入るのはどうかと思うぞ」
「もう、そんな固い事言いっこなしだってば」
「固い事とか言う問題では無いと思うが…」
「あ―分かった分かった。もういいってば、手塚は不参加ね」
「そうではなく」
「もう、五月蝿いってば」
「何だと…五月蝿いとかいう事ではなくてなっ」
「規則、規則?」
「何だその言い方は」
言い争いを始める2人。
それを眺めていたが口を開いた。
「…何か、こうしてると手塚ってさ、何かと口煩くてお父さんみたいだよね」
のその言葉に傍にいたはもちろん、周囲にいたものは言葉を失う。
騒がしかった教室が一度しんと静かになった。
言った本人は自分がどのような事を言ったのか、またそれが周囲にどのような影響を及ぼしたのか分かっていない。
周囲の人間は恐る恐る手塚のほうに視線を向ける。
言われた本人は言葉を失って固まっている。
普段は引き締められた口元もあまりの事にふさがらないと言った状態だ。
「…、行こう」
それを見て哀れに思ったのか、この後意識を取り戻した手塚の怒りを恐れたのか、ただたんにその場からを連れ出した方がいいと思ったのか、何にせよ、はの手によってその場から強制退場させられた。
「絶対なんかいたんだってっ」
「だからって何で置いてきちゃったのよ!?あんたそれでも男!!」
手塚に言われたくらいでは注視するなんて事は好奇心旺盛の中学生がするはずがなく、結局肝試しは実行された。
2人ペアになって外から見える窓に行き、外に向かって手を振ってから戻ってくる。
よくある肝試しのはずだった。
が、何か白いものが見えたとかで、パニックに陥ったクラスメイトはペアを組んでいたを置いて1人で戻ってきてしまったのだ。
「あの子、物凄い怖がりなんだからね…もうあたし行ってくる」
「よせよ、あれ、絶対幽霊だって」
「そんなもん世の中にいるかって!!」
言い争うクラスメート。
「何をやっている?」
そんな時、声をかけられた。
「あ…」
薄暗い街頭に照らされてそこに立っていたのは…、
「…手塚」
「何をやってるいるんだ?」
やや眉間にしわを寄せた、手塚だった。
「…」
そこにいた者はみな下を俯く。
「黙っていては分からん…肝だめし、か?」
「…」
手塚はその無言を肯定と取った。
「止めろと言った筈だが。学校には黙っていてやる。とっとと帰れ」
小さくため息をつき、眼鏡の位置を直す手塚。
「待ってよ、手塚。がまだ中にいるの」
そんな手塚にはくってかかる。
「…何!?」
「、今1人であの中にいる」
「1人でとはどういう事だ!?」
「この馬鹿がおいて1人で戻ってきちゃったのよ」
横にいるクラスメートのお知りの辺りにケリを食らわせる。
しかし、手塚はそんな事は見ていなかった。
彼女の言葉を聞き終えないうちに手塚は洋館の中へと駆けて行った。
「…っく」
小さな音が聞こえた。
今度は空耳では無い。
確かに小さな声を手塚は聞いた。
「っ!」
手塚は声がした部屋に飛び込む。
部屋の隅に影が一つ。
「、か?」
手塚がその影に近づく。
「手塚?」
膝を抱えて顔をうずめていたが顔をあげた。
その顔には幾筋にも涙の跡が残っていた。
「…帰るぞ」
手塚はいつもの表情を崩さず手をに差し出した。
はこくんと頷いてゆっくりと立ち上がり、手塚の手を取った。
(Fin.)
反省文
いかがだったでしょうか?
親友出張ってます。
…名前無いのに準主役級。
厳しい手塚…かどうかはわかりませんが、ヒロインにはかなり優しくて心配してくれる手塚部長だったのではないかと。
お化け屋敷と噂の洋館に1人飛び込めるくらい。
…手塚部長は非科学的なもの信じてないだけかも…という内なる突込みは無視しましょう、この際ですから。
夏。
という事で肝試しです。
自分は怖いの嫌いなので心霊スポットとかは行きません。
お化け屋敷も行きません。
怪談は…キャンプに行った時に聞かされました。
心霊スポットには行くと良くない事がありそう…と思ってしまいます。
今回舞子ちゃん達は心霊スポットに行ってますが、個人的にはそういう事は止めた方がいいかと思います。
怖いので。
だって、心霊特集のテレビ番組見てると気分が悪くなったり何だり…怖いじゃないですか。
怖くて夜寝れません。
うぅ…。
という事で、読んでいただきありがとうございました。
またお会いしましょう
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