「あっ…」
少年が声を漏らしたのはかなりの高さにきたときだった。
はるか下に小さく見える群集。
2人の身体は落ちることなくふわふわと漂っている。
「な、なんなのよ…一体」
あまりの高さに青ざめた様子のナミ。
それでもしっかりと大量の荷物を腕に持っているナミの腰に回された少年の腕が回されている。
「ごめん、お姉さん」
今いる状況をようやく認識したのか、慌てて謝る少年。
「どうでもいいから早くおろしてよ」
「う、うん、わかった」
かすかに震えるナミの言葉に少年は慌ててうなずくと、2人の身体はゆっくりと降り始めた。
人通りの少ない港近くの倉庫が並ぶ一画。
「はぁ〜〜…」
ようやく地に足が着き少年の腕から解放されたナミは疲れた、というように大きく息を吐き出した。
「ごめんな、お姉さん、俺、つい…」
ナミはチラッと少年のほうに視線を向ける。
叱られて耳をたれる子犬のようにしゅんとしている少年。
「まったく、何だって私がいきなり空を飛ばなきゃいけないわけ?」
「…ごめんなさい」
首を深くたれ、小柄なその身体がますます小さく見える。
ナミはもう一度大きくため息をついた。
「あ〜もういいわよ」
だから顔を上げなさい、とナミは言葉を続けた。
少年はゆっくりと顔を上げる。
「許してくれるのか?」
「えぇ」
「怒ってない?」
「えぇ怒ってないわよ」
「…本当に?」
「本当に」
小さな声でたずねられ、やれやれというように肩をすくめるナミ。
「そっか…」
ようやくほっとしたような少年の呟き。
そんな少年の仕草に、どんなに強くともやはりまだ子どもなのね、とナミは少し笑みをこぼした。
「ねぇ」
ナミは少年の横に腰を下ろす。
少年の肩がびくっと震えた。
「…大丈夫よ。怒ってないから」
先ほどより優しい口調でナミが言う。
隣りの少年の肩から力が抜けていくのが分かった。
「私はナミ。あなた、名前は?」
「えっ?」
少年は顔を上げる。
深くかぶられた帽子から表情を読めないが戸惑っているのが分かる。
「だから、な・ま・え。何て言うの?」
「…」
戸惑いがちにつむがれる言葉。
「そう、っていうの…、さっきは助けてくれてありがとう。助かったわ」
ナミがにっこりと微笑む。
の口元にもつられたように笑みが浮かんだ。
「あ、俺ちょっとイライラしてて憂さ晴らししたかっただけだから」
照れたように視線を伏せる。
そんなの様子にナミはくすっと笑う。
「あの、ナミ、さん…?」
チラッとがナミの方に顔を向けた。
が、すぐにはうつむいてしまった。
「あの、ごめんな。かえって厄介なことに巻き込んじまったかも、俺」
しゅんっと再びうなだれる少年。
「…」
「あ、もし海軍のヤツラに何か言われたら何も知らないっていうんだぞ」
切羽詰ったようなの声にナミは目を見開く。
「海軍って…あなた、何者なの?」
ナミの質問にはぐっと言葉を詰まらせる。
「…詳しくはいえないんだけどさ」
そう言ってはしゅっと腕を振った。
びゅぅぅぅっと風が巻き起こる。
手首をくるっと返すとぽぽぽんっと花が咲いた。
「ん」
そう言ってはナミに花を差し出す。
「えっ」
「やる」
ぶっきらぼうに顔をそらしつつ、はぐいっとナミの方に花を突き出す。
「あ、ありがとう」
花を受け取るナミ。
それを見ての口元に嬉しそうな笑みが浮かんだが、それはすぐに消えた。
「…俺さ、悪魔のみの能力者なんだ。カゼカゼの実食べた。で、風が操れるってわけ。花を出せる生まれつき。そう言う血筋なんだって・」
「そう」
先ほどの空中浮遊である程度予想がついていたナミは静かにうなずく。
「変わってるんだ俺。普通じゃない…気持ち悪い?」
恐る恐るという風にがたずねる。
「ううん、私の近くにも悪魔の実食べたのいるし」
ナミの言葉にこわばっていたを包む雰囲気がほころんだ。
「そっか。…ん、でな、まぁ…この能力のせいで目立っちゃうもんだからさ、その…あ〜…何て言うか…と、とにかく海軍に目をつけられてるって訳。さっき海軍のヤツラが来ちゃったもんだから俺ちょっと焦っちまって、それで…ごめん」
はナミに深々と頭を下げた。
「もういいのよ。…私もなるべく海軍にかかわりあいたくないの。だから、助かったわ、」
弟を慰める姉のごとくにっこり笑ってナミはの頭を上げさせた。
「そう…でも、ゴメンな」
「いいのよ」
「…」
「…」
それからしばらく二人は静かに海を見つめていた。
20040214
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