あぁ〜、しくじった…。
ナミは周りを取り囲んでいる男たちに気づかれないようこっそりと舌打ちをする。
後ろは壁、左右と前方にはナミよりも一回り以上大きな男たち、計3人。
それに加え、両手に大量の袋を持っているこの状況では逃げることは困難だろう。
普段であったら、ロビンであったり、サンジであったり、はたまたゾロだったり、買い物のときは腕の立つ人間がそばにいるのだが、今日に限って1人だ。
目の前の3人組みのごろつき達に対しても、遠巻きに眺めているだけのギャラリーに対しても、肝心なときに限ってここにいないクルーの男どもに対しても、何より少し気が緩んでいたらしい自分に対して苛立ちを覚える。
どうにかこの状況を打開しないと、ナミは策を講じようとするがいっこうにいい案が浮かんでこない。
「だいぶ羽振りがいいみてぇじゃねぇか」
「ちょっと俺らのお願い聞いてほしいんだけどなぁ」
「な〜に金を貸してくれるついでに俺らの相手をしてくれりゃいいからよ」
卑下た笑いを浮かべ、男達の1人がナミの肩に手を伸ばす。
「ちょっ…」
不快感を露にするナミ。
一旦は身体をひねらせてその汚い手から逃れたが、壁に追い詰められているその状況では追ってくるその手にそう遠くないうちに捕まってしまうだろう。
「ねぇねぇ、綺麗なお姉さん囲んで、な〜にしてんの?オジサン達」
語尾にハートがついてそうな軽い口調。
高めの声。
男達が声の方をふりかえる。
そこにいたのは食料と思わしきものが一杯に入った紙袋を片手で抱えた小柄な少年。
「楽しそうなとこ悪ぃけどさ、こんなとこでそんなことされてるとさ、目障りってヤツ?」
茶化したような口調。
「即消えて?嫌なら俺暴れちゃうよ。ちょうど今イライラしてたんだよねぇ〜」
深めにかぶられた大きめの帽子によって目元は見えないが、つばの下にかろうじて見える口元には笑みが浮かんでいる。
「何だてめぇはっ」
「ガキはひっこんでろっ」
男達の言葉に少年はぴくっと肩が震わせたかと思うと、ひくひくっと口元が引きつらせる。
「憂さ晴らし決定」
少年はきっぱりそう言い放つと足元の石ころを男の顔に蹴り飛ばした。
「謝っても許してやんねぇかんな」
ぼそっと少年は呟く。
その声は明らかに怒りを帯びている。
「痛ぇっ。何すんだっ」
「やっちまえっ」
他の男達が少年へとつかみかかる。
「何でこういうヤツラって言うことワンパターンなんだろうなぁ〜」
少年は紙袋を中身が落ちないよう押さえながらその手をひらりとかわす。
1人の懐に入り込み跳躍。
少年は男の腹を膝で蹴り上げると、男の身体が宙に浮く。
少年はさらにその顎を足の甲で突き上げた。
男の身体はそのまま後ろに返って、壁に頭を叩きつけられる。
「まっずは1人〜」
歌うように音階をつけて言うと、帽子をより深くかぶり直し、再び高く飛び上がる。
リング上のスケート選手のように華麗に回転しつつ落下。
げしゅっ。
そのまま男の頭上に着地する。
足がドリルのように男の頭に食い込む。
「弱っ…もうちょっと粘れよ」
地面にひれ伏すような形で静かになった男の頭上で、サーカスの玉乗りのように器用に立ったまま少年は小さく息を吐き出した。
「さってと」
少年は残りの1人のほうを向き直る。
「ひっ」
男は身を翻し、駆け出す。
「あっ逃げんなっ。粘りがねぇんだからせめて気持ちよく終わらせろっ。憂さ晴らしにならねぇだろっ。…とりゃ〜っ」
ふわっと飛び上がり、群集を押しのけて逃げていく男の後頭部に不思議な掛け声と同時に蹴りを入れた。
周りの人間を巻き込んで男は吹っ飛んでいった。
「ありゃりゃ。これまた…」
一瞬にして開けた視界に少年は頭をかく。
「ま、いっか。野次馬根性でお姉さん助けもしないくせに周りにいた奴らが悪いんだし…にしても、あっけねぇなぁ〜。すっきりしねぇ〜。もうちょっと楽しめると思ったのに」
そう言って少年はチッと舌打ちをする。
そして、くるっと向きをかえて何事もなかったように歩き出す。
周りにいた群集たちが道を無言のまま道をあけた。
「ねぇお姉さん」
少年はナミのそばに来て話しかけた。
「…」
ナミは静かに少年を見つめる。
敵か?
味方か?
少し緊張した面持ちで息を飲む。
今は助けてもらった形だが、次の場面でもそうであるとは限らない。
「この街結構ぶっそうみたいでさ、女の人の1人歩きって危ないみたいなんだよねぇ〜。行き先決まってるなら俺送ってくよ?お姉さんさえよかったら、だけど…荷物多くて大変そうだしさ、俺手伝うよ」
少年は空いている片手をナミの方へ差し出した。
先ほどの人を食ったようなものではなく、やや子どもっぽい印象のしゃべり方。
見た目の年齢からこちらのほうが自然なのかもしれないが、先ほどの動きからすると違和感を感じる。
「え、えぇ…」
そう返事をしたものの、ナミは固まったままだ。
「あっもしかして警戒してたりとかする?大丈夫。俺お姉さんの荷物とって逃げたりしないから、ね」
そう言って少年は少し首を傾ける。
「あ…」
「なんの騒ぎだっ!」
ナミが言葉を発しようとした瞬間、怒声が響いた。
人ごみの間からちらちらと白い海軍の帽子が見えた。
「げっヤバッ」
少年は小さく呟くとナミの腰に手を回し、そのまま高く飛び上がった。
「キャーッッ何すんのよぉ〜っ」
ナミの悲鳴が辺りに響き渡った。
下でなにやら海軍が騒いでいるようだったが、その声ははるか上方にいるナミの耳までは届かなかった。
20040214
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