参ったな…。



目の前にはかすかに肩を震わす子ども。

アスマはガシガシと頭をかいた。



特別上忍、とはいえ祐樹は子どもだ。

任務はしっかり一人前にこなすし、実力もある、とはいえ、この幼い仕草を見ていると、仕事から離れればやはりそこらへんを走り回って遊んでいるガキどもと変わらない子どもなのだ、と改めて認識させられる。

そんな子どもが今、自分の前で目の前で泣いている。



…参った。



一見熊のような子どもが近寄りがたい雰囲気。

厄介事には近寄らないアスマの性格。

それらによって、アスマは目の前でこれまで子どもに目の前で泣かれる、という経験がなかった。

もちろんそれは自分と相手しかいない状況で、という意味で、自分を見て母親にしがみついて泣く子どもは何度か見かけたことがあるが。



面倒ごとにはかかわらないという性格から泣かれる前に極力子どもからは距離をおくという長年の行動パターンが身体にしみこんでいるアスマはこのような状況でどうすればいいのか、全くわからなかった。

アスマは祐樹に聞こえないようこっそりとため息をつく。



強いものにはとことん強いが、弱いものにはとことん弱い。

怖い外見とはうらはらに実はとっても優しい男。

それが木の葉の里の猿飛アスマ…だったりする。



…参った。



ちらり、と祐樹に視線を落とす。

まだ肩はかすかに震えていた。



あ〜…早く泣き止んでくれ…。



アスマは再び頭をかいた。

まだ祐樹の肩は震えている。

泣き止む気配はない。



どうしたもんか…。



…。



…あ〜、面倒くせぇ。



しばらくこの状況を打破してくれる誰かが現れないかとちらちらと廊下の角を見ていたアスマだったが、自分が行動しなければこの最悪に居心地の悪い状況を打破できないと覚悟を決めた。



あ〜っと…、こんなときアイツらならどうする?



とアンコの顔を思い浮かべ、その行動を思い出す。



「…」



…コイツ、いつもアイツラの前じゃ笑ってんじゃねぇか。

コイツ、アイツラの顔見るだけで泣き止みそうだし、大体アイツラがコイツ泣かせる状況なんて想像できねぇ。

チッ参考になりゃしねぇ…。



心の中で八つ当たりじみた悪態をつくアスマ。



ん〜…じゃ、イビキだったら…。



祐樹が彼女たちの次になれている人物のことを思い浮かべる。



ふっと頭の中にイビキがコイツの頭を撫でてる映像が浮かんだ。



「…」

頭に浮かんだイビキの行動と同じく祐樹の頭を撫でてやる。

まだ肩は震えている。



って駄目じゃねぇかよっイビキッ。



顔をしかめるアスマ。



じゃあ、カカシならどうだ?

…食いもんとかモノで宥めてる図しか浮かばねぇ。

有効かもしれんが…。



ベストのポケットの中を軽く探ってみる。



…煙草じゃ駄目だよな。

ん、じゃ、ガイ、か?



「…」

…柄でもねぇし、あんまやりたくねぇ、かも。



チラ。



いまだ俯いたままの祐樹。



仕方ねぇ、か。



アスマはしゃがみ、俯いている祐樹の顔を見上げるようにしてみる。



「顔あげて俺の目を見ろ」

祐樹の肩に手を置くアスマ。



「…」

「祐樹」

なかなか顔をあげない祐樹の名前をアスマはもう一度呼んだ。



「安心しろ。はお前から離れていったりしねぇよ」

「え?」

ようやく祐樹が顔をあげる。



「アイツはお前のこと気に入ってるし、男ができたくれぇで簡単に放れて言っちまうような奴じゃねぇだろ?」

「アスマ?」

祐樹の戸惑ったような目。



だぁぁ、そんな目で見るんじゃねぇよ。

俺だってこんなこと言うの恥ずかしいんだぞっ。


と心の中で叫び、表面上は平静に祐樹の目を見たまま言葉を続ける。



「…確かに一応アイツも結婚適齢期だからな、男ができたって不思議じゃねぇが、それでお前らの関係が崩れちまうってこたぁねぇ。アイツはそんなことをする女じゃねぇさ。俺が保障してやる」

「…うん」

小さく頷く祐樹にアスマはほっと小さく息をつき、言葉を続ける。



「大体アイツが何が何でも彼氏最優先させるようなそんなろくでもねぇ奴を選ぶわけねぇだろ。むしろ、女の友情上等、アイツとお前の関係を快く思う男を選ぶだろうよ。お前は何があろうが、ただに甘えてりゃいい。あれこれ色々考えすぎだ。もっと肩の力を抜け」

「え?」

「我儘言えるのは子どもの特権だぞ」

「アスマ?」



「…ま、自分を抑えるのが上手くなっちまったのはそんな年齢で特別上忍、なんてのになっちまったせいなんだろうがな…あ〜、なんて言うか…上手く言えねぇが、もうちっとこう、お前はまだ周りに甘えていい年齢だと思うぞ、俺は」

ガシガシと頭をかくアスマ。



祐樹はただアスマを見上げる。

その目にはもう涙はない。



「そんな目で見るなよ…自分でこんなこというのは柄じゃねぇってのは分かってんだ。こういうのは…ガイあたりの役目だろ?臭い言葉で熱く諭すってのは…」

ガシガシと頭をかくアスマ。

くすっと祐樹が笑った。

アスマはほっと小さく息を吐き出した。



…あぁ〜何かどっと疲れちまった。

やっぱ慣れないことはするもんじゃねぇな。



アスマは立ち上がり、煙草を取り出すと火をつけた。

ふぅ〜っと一息吐き出す。



「ここ禁煙」

くすくすと笑いの入った祐樹の言葉にアスマは顔をしかめる。



「硬いこと言うな」

そう言いつつ携帯灰皿で火を消すアスマを見てようやく祐樹の顔にアスマが見慣れた悪戯じみた笑みが浮かんだ。

アスマもつられたように笑みをこぼした。



「じゃ、戻ろうかアスマ」

そう言って祐樹はアスマの前を歩き出した。

アスマもその後に続いてゆっくりと足を進める。



「あっそうだ。アスマ」

しばらく行って祐樹はくるりっとアスマのほうを振り返った。



「アスマって“ろくでもないやつ”じゃないからさ、頑張れば、もしかしたら、いつかお姉様選んでくれるかもしれないぞ…今は無理でも」

にっと笑いアスマは駆けていった。

アスマはしばらく何と返していいかわからずぽかんとその後姿を眺めていたが、頭をかき小さく肩をすくめるとまた歩き出した。



もう少し、待つのも悪くねぇ、か。

――そんなんできっかけを逃しちまった俺は、今も彼女とはぬるま湯のような関係に甘んじているわけだ。











20040701










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