待機所から少し距離を置いたところで祐樹は足を止め、アスマのほうを振り返った。



「アスマ、さっきお姉様に手を出そうとしただろう?」

低い声で尋ねる祐樹。



「あ?」

不機嫌な表情で聞き返すアスマ。



ここしばらくと会えなかったのはコイツのせいなのだ。

おまけにまた引き離された。

という思いがアスマの中にはある。



普段だったら子ども相手にこうムキになることはないのだが、流石に今のアスマは虫の居所が悪すぎた。

祐樹が掴んでいた腕を少し強めに払う。



「手、出そうとしただろっさっき」

さっきより語尾きつく尋ねる祐樹。



五月蝿ぇ。

テメェに関係ねぇだろ。

不機嫌極まりない、というオーラを発し祐樹に視線を落とすアスマ。



お姉さまを傷つけようとするなら俺絶対許さないからなっ」

小さい身体から険しい空気を発しながら祐樹はアスマを睨みつけていた。



好き勝手言いやがって。

ガキの相手にしてられるか。

…ったくめんどくせぇ。



「…そんなのはいつものことなんだろ?お前から見れば」

投げなりに答えるアスマ。

大きく目を見開きアスマを見返す祐樹。



「お前から見ればいつでも俺がに手を出そうとしてるように見えるんだろうが?」

「それはそうだけど…」



「だったらいちいち取り立てることもねぇだろうが」

そう言って歩き出そうとしたアスマの腕が再び掴まれた。



アスマは再び険しい目を祐樹に向ける。

祐樹は俯いていた。



「でもさっきのはいつもと違った。なんて言うか…アスマ、やばかっただろ?」

「なんだそりゃ?」

「上手く言えないけど、」



祐樹の言葉が弱くなる。

祐樹が顔を上げた。

祐樹は泣き出す寸前のような幼い顔をしていた。

アスマはそれを見て腕を再び振りほどこうとしていたのをやめる。



「何て言うか仕事のときの目?こう…険しいっていうか、鋭いっていうか、冷たいっていうか、…とにかくアスマそういう目してた」

「はぁ!?」

ますますわけが分からん、と言う表情のアスマ。



「こう…相手にとどめをさす時の目?」

「…」

「獲物を逃さないって…さっきアスマそんな目してた」



そこまで言われてアスマはようやく祐樹の言いたいことを察する。

自分でも知らないうちに暴走しかけてたってことか。

自嘲気味に笑みをこぼすアスマ。



「まぁ殺しちゃうってのは大げさかもしれないけど、アスマ、絶対お姉様を傷つけるって思ったんだ」

どうやら祐樹は本能的にあの時のアスマがにとって危険だと感じ、とにかくアスマをから離さなければ、と強引にあそこから連れ出したらしい。



「…そりゃ、悪かったな」

ため息交じりで謝るアスマ。



「えっあっうん、いや、別に…」

祐樹は戸惑いの表情を浮かべ顔を伏せた。

2人ともしばし黙り込む。



「なぁ、アスマ」

先に言葉を発したのは祐樹。



「ん?」

アスマの眉間のしわはいつの間にか消えていた。



「ここ数日、お姉様お前のこと心配してたよ」

アスマは腕を掴む祐樹の手にほんの少し力が加わったのが分かった。



「口にそういったわけじゃないけど…俺知ってる。でも、俺の様子が変だからって傍にいてくれたんだ…お姉様、優しいから」

ぽたり、と床に雫が落ちる。



「俺、お姉様が結局最後に頼るのは俺じゃないって言うのわかってる…でもっ!…でも、俺、お姉様のこと大好きなんだ」

ぽたぽたと床に描かれる円の数が増えていく。



「…あぁ」



「もうちょっと、もうちょっとだけだけでいいからさ、待ってくれないか?お姉様連れてくの。…こんなこというのだって子どもじみた我儘だっていうの、分かってるけど…俺、もうちょっとお姉様に傍にいてほしい」



「…」

アスマは返事はせずに祐樹の頭をぽんぽんと撫でた。










(Fin.)





20040623










■戻■