里を一望できるその場所に自来也はいた。

里を見下ろす。



壊れた建物の修復作業が行われている。

里は活気を取り戻しつつある。

少しずつではあるが。



近づいてきた上忍の気配に気づき、自来也はほんの少し目を細める。



「…お呼びだと伺いました」

後ろから声がした。



「うむ」

自来也は視線を里に向けたまま。

声の方には振り向かない。



「…お帰りになってたんですね」

「まぁな」

そこでようやく自来也は上忍の方を振り返った。



「きちんと挨拶ができるようになるとは小童から卒業したようだのぉ?カカシ」

にぃっと笑みを浮かべ軽口を叩く自来也。

カカシは苦笑し小さく会釈をすると、自来也の横の柵に体を預けた。



ニ、三言世間話のような話をし、自来也は再び視線を里へと向ける。

そしてようやく話の本題を口にした。



「ナルトはしばらくワシが見る」



用件のみを簡潔に。



隣りにいるカカシの肩に力が入ったのが分かった。



当然の反応だな。

内心そう苦笑しつつも自来也は表面上は変わらず、一呼吸置いてから淡々と言葉を続ける。



「…おぬしでも手に負えんことになるかもしれん」

自来也は視線を里に向けたまま静かに話し出した。

里の新たな危機の兆しについて。














カカシが去った後も自来也はそこにいた。

物分りのいい男というのは助かる。

話が早い。



あの生意気だった子どもが、本当によい忍びなったとおもう。

いや、よい男になったというべきか。



あのようによく育てたな。

育てたというより育ったのか。



よく似てきた。

お前の忍道はちゃんと受け継がれているぞ。

彼を育てた男の名を小さく名前を呼ぶ。



自来也は口元に笑みを浮かべ、前方に見える岩へと視線を向けた。

懐かしい2人の顔がそこにはある。

獅子が子を谷に突き落とすように荒っぽく育てた部下と、自分の我儘をため息をつきつつも見守り続けてくれた度量深き上司。



里を守り、里のものを愛した2人の男。

最後まで里を、里の全てのものために戦った2人の火影。

里の外れの石碑に名前を刻まれた2人の英雄。



1人は13年前に。

里に降り立った巨大なチャクラを有する古狐によって。



もう1人はつい先日。

目の前の岩に顔を刻まれた師の下で自来也と共に競い学んだかつての仲間の手によって。



木の葉崩し。



壊滅状態、とまではいかないものの里には大きな傷が与えられた。

長年、里を離れて彼の行動を探り注意を払ってきたというのに。

自来也にとって守るべきものが彼によって傷つけられてしまった。



また守れなかった。



「…」

自来也は拳を握り締める。

顔岩の2人に話すように小さく呟く。



「過ぎたことは戻らん。それはわかっとるが…」

そこまで言って自来也は一旦口を噤んだ。



「…もしワシが傍にいれば守れたか?守れたと思うか?」

小さく問うたその声は風によって吹き消された。

口にしてから自来也は罰悪そうにガシガシと頭をかいた。



「らしくないのぉ」

上を見上げる。



木漏れ日。



青い空。



「ワシは面倒なことにはかかわらん主義だが、もうそうも言ってはおれんな。…それにぐずぐずしておっては本当に火影に祭り上げられてしまいそうだ」

両手を空に突き上げ大きく伸びをする。

再び顔岩のほうを向き直った。



「ワシは目に見える範囲ですら満足に守ることができん。守りたいものはワシが守らんですむくらい強くする。強くするために守りたいもんは持っていく。…悪いが、他までは手が回らん。なぁに里には優秀な忍びがまだまだおる。少しの間なら若い連中と御老体だけでも心配あるまい」



そのかわり





「 “火影”は必ず連れてくる」





強く、そして慈愛の精神を持つリーダーを。

里の全てのものを大切に思う火影を。



「あいつなら安心だ」

頭に浮かんだのはアレと同じく彼と共に学び競った仲間。

知らず知らずのうちに口元に笑みが浮かんでいた。



かつて一緒に取り組んだ任務の1つを思い出し、楽しげな笑みは苦笑へと変わる。



「…たぶんな」

悪戯っぽく呟かれた言葉。





だから





安らかに





眠れ





“火影”よ















(Fin.)





2004.05.06.










■戻■