「あ〜ぁ…」
木の葉の里有数の温泉旅館・旭日楼の屋根の上にヤンキースタイルで座り込み、は雲を眺ていた。
頭上の雲はゆっくりと流れていく。
大きくため息を1つつく。
「な〜んか厄介なことに巻き込まれちまったなぁ〜」
がっくりと肩をうなだれる。
「ん?」
視界の隅で、あるものに目を留めた。
風呂に面した壁際に座り込んでいる影。
「…」
は顔をしかめ、じっとその人物を観察する。
かなり派手ないでたちをしている、それ。
背後からで顔は見れないが、間違いなく“男”だ。
壁に向かって座り込んでなにやらブツブツいっているようだ。
見るからに怪しい。
『アイツか』
は屋根から飛び降りた。
「おい、おっさん」
男の首根っこをつかみ、力いっぱい後ろに引っ張った。
途中で急にそれが軽くなる。
の手には男の服の首元のがしっかりと握られている。
が、が手のほうに視線を落とすと服の中身は丸太に変わっていた。
「ちっ」
舌打ちをし、あたりの気配を探る。
「まだまだあまいな、」
頭上から声がした。
続いて豪快な笑い声。
気配は感じられなかったが、は慌てて声のした方をむく。
すぐ横に立つ木の枝の上に座る男。
は男をキッと睨みつけた。
「おぉ、しばらく見ないうちに大分迫力ある顔をするようになったな。怖い怖い」
男はおどけたようにそう言って笑った。
「…」
は無言のまま男を睨みつける。
男を観察する。
この男は確かに自分の名前を呼んだ。
少なくともこの男は、自分を知っている。
が、里で見た覚えはない。
誰だ?
「ん?どうした??」
口元に笑みを浮かべたまま男が言う。
また呼んだ。
知り合い、か…?
「…」
は黙ったまま男を見る。
そんなはずはない。
“のぞき”をするような“男”が知り合いなはずがない。
知り合いであるはずがない。
の目がますます険しくなり男を睨みつける。
「?」
ここで男の表情がとまどいを含んだものへと変わる。
「…最近、この辺りに出るっていうのぞきはお前か?エロジジィ」
低く抑えた声では男に尋ねた。
全身から殺気をかもし出す。
「いや、違う」
男がニヤリ、と笑う。
「だったらここで何をやってやがった!?」
男に向かって叫ぶ。
「取材だ」
語尾に音符でもつけるように軽く、至極軽く男は言った。
「取材?」
の体から殺気が消える。
「そうだ。取材だ」
にっと男は笑う。
は疑うような視線を男に送る。
「何だ?疑うのか?」
男はそう言ってごそごそと鞄をあさり、1冊の本を取り出した。
「ほれ」
それをの方に放る。
「ん?…なっ」
受け取り、それを見たの顔がこわばり、はそれを慌てて放り投げた。
「何をする、ワシの傑作品を」
男はそれを見て慌ててて言う。
は再び男を睨みつけた。
の目が再び殺気を帯びる。
今度は手にクナイを構える。
だが、男はそれに動じる様子はない。
いまだ余裕じみた笑みを浮かべている。
「おい、?本気か?」
「気安く俺の名前を呼ぶな。俺はテメェなんて知らねぇよ」
男の言葉をさえぎりは言った。
「…」
男は目が大きく見開かれた。
男は先ほどとは違った真剣な面持ちでを見つめる。
2人の視線が交差する。
どちらも視線を外すことなく、2人はお互いを見つめる。
「…そうか」
しばし、男は沈黙した後小さくそう呟いた。
男の口元に再び笑みが浮かんだ。
先ほどとは違った自嘲じみた笑みが。
それを見たの顔が次第にゆがんでいく。
「…わしを知らんならなぜお前はそんな顔をする?」
男の言葉にはばっと片手で顔を隠すように覆った。
それでも指の間から男から目を離さない。
「…今日のところは見逃してやる。二度と覗いたりすんなよ、エロジジィ」
はき捨てるようにそういうとはその場を立ち去ろうとする。
立ち去ろうとして男に背を向けたまま足を止めた。
「…お前、名前は?」
「…自来也だ。覚えて置け、」
「…」
返事をしないままその場からの姿が消えた。
の気配が向かった方向を見つめたまま男は顔をしかめていた。
「…何やらやっかいなことになってるようだのォ」
男の小さな呟きは風に吹き消された。
(Fin.)
20040526
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