視界に光が徐々に戻ってくる。
身体が重い。
ひどくだるくてそのまま寝ていたい。
春の温かい日差しの中、縁側で夢の狭間でまどろんでいるような心地よい感覚。
もう一度そのまま横になってしまおうかとして、何かを聞いた気がした。
意識をそちらに向ける。
少し低く心地よい懐かしい声。
何を言っているのかまではわからないが、それは笑っているようだった。
いや、笑っているというより、茶化しているような、ひどく楽しげな響き。
声の方を振り返る。
白い大きな影。
逆行のようでその顔は見えない。
それはまた何か言って大きな手での頭を撫でた。
白く長い髪が顔を掠めた。
影がゆっくりと離れていく。
“行かないで”
追いかけようと思うのだが、足は動かない。
言ってしまうそれを止めようと叫んだ。
“ ッ!!”
行ってしまおうとするそれの名を読んだ気がした。
ぼんやりとした視界。
心地よさはない。
肩が痛い。
大泣きした後のような不快な身体のだるさ。
耳鳴りがする。
「…目が覚めたか」
その声に視線のみを向ける。
赤い傘をかぶった老人が机に向かいなにやら書類を広げていた。
「アンタ、誰?」
上手く声が出せずかすれる。
「…ワシがこの里の長、火影じゃ」
老人――火影のその答えには目を見開き、慌てて身体を起こそうとした。
「無理はするな、そのまま寝ておれ」
火影に止められは今の身体の状態では起き上がれないことを悟り、5秒ほど火影の方を見た後再びソファーに身体を沈めた。
「すいません。こんな格好で。“火影様”」
「かまわん」
「…」
「…」
ぷつり、と会話が途切れる。
「…長期任務、ご苦労だったな」
先に口を開いたのは火影。
「どうも。と言っても記憶がないので分かりませんが」
「そうだったな。記憶をなくしていると報告は受けておる」
「任務は失敗ですか?」
は視線を天井に向けた。
「いや、お前がこうして戻ってきたからのぉ」
「…情報、持ち帰れずすみません」
ぴたっと火影の動きが止まる。
しばし考えた後、言葉をつないだ。
「…かまわん」
「…」
再び部屋に沈黙が流れた。
「これから、俺はどうなるんですか?」
今度は口を開いたのは。
視線は天井を向いたまま。
「どうなるとは?」
聞き返す火影。
「自分は里の“特別上忍”だとアン…みたらし特別上忍より聞きました。が、今の自分にはその任を努めることは難しいと思います。…それに肩に呪印が刻まれていてそれが簡単に消えるものではないと言うことも」
大きく息をつく火影。
「確かに。今の状態では任は重いだろう。肩の呪印も身体への負担を減らしてやることはできるが完全に消すことはできん」
顔をしかめる火影。
「辞めねばなりませんか?忍びを」
他人事のように淡々と語る。
火影は少し顔をしかめた。
「辞めたいか」
「…分かりません」
「…そうか」
思案顔になる火影。
「…ただ、任務を続けていれば以前のことを思い出せるかもしれない、とは思っております」
のその言葉に火影は少し目を細めた。
「そうか。…ならば慣れるまでランクの軽い任務を下忍達と共にうけてもらう。そしてある程度復帰の目安がついたら本来の任務に戻ってもらうことにする」
「よろしいんですか?」
視線を火影に向ける。
「うむ」
「…ありがとうございます」
はゆっくりと視線を天井へと戻した。
の口元にうっすらと笑みが浮かんだ。
「ただし、今は身体を休めるがいい。軽い任務とはいえ、無理は禁物だ。よいな」
「はい」
は火影の方に顔を向け里に戻って初めて火影に笑顔を向けた。
(Fin.)
20040515
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