火影の部屋を出るとアスマは煙草をくわえながらちらっと視線を横に向けた。
俯いてしまっている紅の表情はアスマからは見えない。
見えるのは黒く艶のある髪。
少し目を細めた後、視線を煙草の先に向け火をつけた。
アスマは壁に寄りかかるようにして立った。
再び俯いたままの紅に視線を向ける。
「あれだったんだな」
ぽつり、とアスマが言った。
「…えぇ」
紅の声にはいつもの覇気がない。
アスマは一瞬いかぶしげに紅のほうを見たが、何事もなかったようにいつもの調子で話し出す。
「髪が伸びてっからわかんなかったぜ」
「…そう」
「ちゃんと女に見える」
「…そぅ」
「数年だってのに変わるもんだな」
「…」
ふぅっと上方に煙を吐き出す。
「大丈夫なのか?」
先ほどより少し低い声。
「分からないわ、だいぶ苦しがっていたから」
紅はそう言って大きく息を吐き出した。
「あ〜…のやつは火影様がなんとかしてくださるだろ。そうじゃなくてお前だ、お前。お前の方が大丈夫かって聞いてんだよ。そんなハヤテみてぇな顔しやがって。…最近あんま寝てねぇだろ」
アスマの言葉に紅は俯いていた顔を上げた。
アスマはふぅっと小さく息をついた。
「なんて顔してんだ」
アスマは紅の頭に手を伸ばす。
その手で軽く紅の頭を小突いた。
紅はただアスマの顔を見上げている。
アスマのしかめた顔が一瞬戸惑ったそれに変わり、視線が泳ぐ。
アスマは顔を横に向け、ドアをノックするような仕草で紅の頭を軽くコツンと叩いた後、ようやくその手を引いた。
「こんな場所でそんな顔すんな。お前がそんな顔してたら周りが不安になるだろうが。上忍だろ、お前」
紅が顔を伏せ目を閉じた。
「…そう、ね。ごめん。大丈夫よ」
紅が顔を上げる。
だが、その顔はまだこわばったままだ。
「…ならいいんだけどよ」
アスマは紅から視線を外し、吐き出した煙を見上げた。
「アンコといいお前といい、うちの里のくのいちはに対して過保護だからな」
煙と一緒に言葉を吐き出したアスマの物言いに紅はむっとしてアスマを睨みつける。
「過保護ってっあのこはまだ子どもなのよ」
アスマに食って掛かる紅。
「そう思いたいだけだろ」
アスマは紅に鋭い視線を向ける。
言葉に詰まる紅。
「アイツは特別上忍だ。それだけの力ちゃんとある。それに3年前ならともかく、アイツはもう16だ。あらゆる任務に就ける。お前だってあの頃には一通りの任務こなしてたじゃねぇか」
「…」
「が可愛い弟…じゃなく妹分ってのはわかるが、もう一人前の忍びとして認めてやっていい年齢だろ?だから」
そこまで言ってアスマは一旦口を止めた。
俯いている紅。
「…まだ子どもよ」
呟くように小さな紅の言葉にアスマはガシガシと頭をかいた。
「あ〜…だからそんな顔すんなって。俺は別にいじめたいわけでも怒ってるわけでもねぇんだからな」
ばつが悪そうに紅から視線を外した。
「ただ、なんだ…。あいつは強い。俺やお前よりずっとな。それに火影様がついてる。だからそんな心配なんていらねぇんだよ…いや、心配すんのはわかんだけどよ、限度ってもんがあるだろ。…お前までつぶれちまってどうすんだ」
歯切れ悪く言葉をつなぐアスマ。
紅がゆっくりと顔を上げた。
「だから、そんな顔すんな」
「アスマ…」
2人の視線が交差する。
かっとアスマの頬に赤みが差した。
「だ〜っ面倒くせぇっ。いつまでもこんなとこいても仕方ねぇだろ。行くぞ」
言い終わるか終わらないかのところでアスマの姿がそこから消えた。
「…心配なら心配って素直に言えばいいのに」
小さく呟き、紅もその場を後にした。
20040422
■戻る■