心地よい呼吸音をどれほど聞いていただろうか。
閉じていた目を開ける。
上体を起こし横を見る。
椅子に深く座り身体を預けて眠る彼女。
「さぁアンコ先生の講義を続けるわよ」
里のことなどを話しているうちに彼女は仕事の疲れからか眠ってしまったアンコを起こさないように気を払いつつ、ベッド際の棚に手を伸ばし、何とか上着を取り出しそっとアンコの肩にかけた。
アンコの無防備な寝姿を見た後、大きく息を吐き出し、再び横になると天井を睨みつけた。
本当に自分はここにいていいのだろうか?
アンコや紅、医師や看護師も自分はこの里の“特別上忍”だという。
長期任務を終えようやく里に帰ってきたのだとも聞いた。
本当にそうなのか?
本当に信じていいのか?
与えられる情報は本当にかつての自分に関するものなのだろうか?
ふと眉間によったしわに気づき額を撫でつつ小さく息を吐き出した。
苦笑を口元に浮かべつつ再び考える。
任務に出ていたというならその任務中に自分は記憶を失ったのだろう。
それは果たして事故だったのか?
それとも故意だったのか?
その任務は一体どういったものだったのだろうか?
喉辺りに何かつかえているような感覚。
思い出さなければならない“なにか”。
ちくっと胸に痛みを感じた。
服の襟元をつまみ、中を見る。
刻まれた黒い模様。
時に激しい痛みを生み、その模様は肩、首筋、身体全体へと広がる。
湧き上がる不快感に耐え切れず服から手を離し視線をそこから外した。
彼女たちの言葉を信じると言った。
彼女たちと話していて懐かしい、と感じたのも本当だ。
だが、本当に全てを信じてしまっていいのか?
伝えられるあらゆる情報はあまりにも普通とかけ離れてしまっているようにも思える。
これがこれまでの自分だ、といわれて素直に信じられない部分も多々ある。
でも
横の椅子で眠る彼女を見る。
「居心地いいんだよなぁ…」
小さく呟き顔を上に向け目を閉じた。
与えられる情報。
与えられる記憶。
それらを疑う猜疑心。
だが
居心地がいい。
この感情は間違いなく自分の内側からあふれてくる本物だ。
この感情があるから、どんなに猜疑心が沸いてきても彼女たちを信じたいと思う。
“ったく、記憶なくしても馬鹿なとこは変わんないんだから。本当、世話が焼けるわね”
椅子で寝ていたはずの彼女がうっすら目を開けて可愛い妹分の方を見てそんなことを思っていたとは露知らず、浅い眠りに再び身を投じた。
(Fin.)
2004.06.12.
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