バターン。
勢いよくドアが開けられた。
「っ」
アンコが勢いよく部屋に入ってくる。
「はい、失礼しますね」
アンコを押しのける形で笑顔の医者が部屋に入ってきた。
「すいません。募るお話もおありでしょうが診察しますので、少しの間部屋から出ていていただけますか?」
「え〜っ!!」
「…いくわよ」
医者の言葉に紅はアンコを引きずるようにして部屋から出て行く。
「こんにちは」
挨拶をしながら医者はベッド横に椅子に腰を下ろした。
は黙ったまま目礼をする。
「少し診させてくださいね」
医者はそう言って脈を取ったり目元を見たり診察を進めていく。
「任務を終えてあと少しで里に着く、というところで倒れられてたらしいですよ。ここに来て1週間も眠り続けられていたのでもう目覚められないかと心配しました。皆さん随分心配されてたんですよ」
「はぁ…」
なんと言っていいかわからず曖昧な返事を返す。
「…」
の身体を見た医者の顔が変わる。
「…何か?」
やや低い声でが訊ねる。
「いえ」
医者はにっこり笑って椅子に座りなおした。
「少しお話しましょうか」
医者に言われるままには頷いた。
「…まだ完全に回復したというわけではありませんからね、もうしばらくの間は大人しく寝ててくださいね。それではお大事に」
医者はドアを開けた。
医者は部屋を出ると入れ替わりに中に入ろうとしたアンコを止めた。
「火影様に報告を」
医者は厳しい顔でそういった。
「…」
紅は顔を医者から背けた。
「どうか、したの?」
アンコは引きつった顔で訊ねる。
「身体に呪印が刻まれている。私ではどうしようもないほど強いものです。寝ているときは出ていなかったのですがさきほどくっきりと浮き上がってきてました」
と医者は静かにそう言った。
「呪印…?」
アンコの身体がこわばる。
「ちょ、どういうことよ〜!?」
アンコは医者の胸元をつかみ食って掛かる。
「落ち着いてください。幸い命にかかわるものではないようですから」
アンコを自分から引き離しながら医者は言った。
アンコは泣きそうな顔で医者を見上げている。
「ただ…」
「記憶がない?」
医者の言葉をさえぎって紅が言葉を続けた。
「…」
「紅?」
「さっきが自分は誰か、って…自分の名はと言うのかって聞いたの」
紅の言葉にアンコの顔色が変わる。
アンコは医者のほうを振り向く。
「ご本人にはご自分がどこの誰か、どのような立場だったか、と言うことは簡単にですがご説明しました」
アンコはその勢いよくドアを開け、病室に飛び込んだ。
「っ」
名前を呼んでに駆け寄る。
は返事をすることなく静かにアンコを見返す。
「見せて」
の肩を掴み襟元を引っ張った。
黒い模様が現れる。
「…違う」
その表情に一瞬安堵が生まれたが、それはすぐこわばった。
「私のこと覚えてるよね?記憶がないなんてうそだよね。任務から帰ったら一緒に新作お団子食べに行くって言ってたじゃない」
必死に詰め寄るアンコの肩に手を当ててはそっとアンコを自分から離した。
「?」
はアンコから視線を外した。
「ごめん…」
は抑揚のない声で静かに言った。
「ちょ、何言ってるのよ。冗談にしては性質悪過ぎだよ〜」
今日エイプリルフールじゃないし、と引きつった顔でおどけたように言うアンコ。
「?」
はアンコから顔をそらしたままだ。
「?」
不安そうにアンコがに手を伸ばす。
はぎゅっと目を閉じた。
「アンコ」
その行動をさえぎるように紅がアンコの名を呼んだ。
「紅…」
泣きそうな顔で紅のほうを振り返るアンコ。
「火影様に報告」
厳しい口調で紅はアンコに言った。
「ホカゲサマ?」
は眉を寄せ小さくその名を呟く。
「で、でも紅…」
「早くっ」
戸惑うアンコに紅が口調を強めると、アンコは部屋から消えた。
はアンコが消えたのを見て大きく目を見開いた。
「突然アンコの姿が消えて驚いた?」
「…少し」
その顔から表情は消え、静かに紅を見つめる。
「ホカゲサマというのは?」
「…この里を統べる里長、かしら」
は静かに紅にそう訊ね、紅もの問いに言葉を選びつつ静かに答えた。
「ホカゲサマ…ホカゲサマ…」
繰り返しその名を呟く。
胸が締め付けられるような、喉に何かが痞えているような感覚。
「…ホカゲサマ」
その名を呼ぶたびに、知らず知らずの間に呼吸が荒くなる。
苦しそうに眉間にしわを寄せる。
の胸にうっすらと呪印が浮かび上がる。
「!?」
紅の声には我に返り、なんでもない、と言った。
は大きく深呼吸を繰り返し、呼吸を整える。
呪印の模様がほんの少し薄くなった。
「会うことは可能?」
息を整えつつはくれないに訊ねた。
「…近いうちにお会いすることになると思うわ」
「…そう」
は視線を紅から外し正面の壁へと移す。
それからは何も言わない。
「落ち着いてるのね」
痺れを切らせたように紅が口を開いた。
「そうでもないよ。混乱してる。かなり」
は壁を見つめたまま静かに
怪我の治療をしてもらったようだし命の保障はされているようだ。
…だけど敵であるか否かということとは別問題だ。
「訊きたいことは山ほどある」
情報は少しでも多いほうがいいと思う。
判断材料は多いに越したことはない。
しかし今の自分には答えてもらったとしてもどれ正しいかどうか判断できる自信がない…。
多すぎる情報は不安を抱かせ、判断を狂わせる。
「でも…今は名前が分かっただけでいい。それだけで十分だよ」
もちろん“”という名前さえ本当にそうであったかどうか分からないのだけど。
本当、疑り深いな、とは口元に自嘲気味な笑みを浮かべた。
医者が先ほど自分も忍だったと教えてくれたが、それは信じてもよさそうだ。
無意識の内に相手から敵意・殺気を探ろうとしているのに気づいては小さく息を吐き出した。
自分の思考に囚われる1歩手前で、はふと先ほどのやり取りを思い出した。
「あ〜…え〜っと…ちょっとお願いしたいことがあるんだけど…いいかな?自分勝手な我儘なお願いだってのは自覚あるんだけどさぁ…」
口調はためらいがちに表情を崩さずは口を開く。
「さっきの…アンコ…さん?」
さっきそう呼ばれてたけど、確認するように紅に視線を向ける。
小さく頷いた紅を見ては言葉を続けた。
「彼女のそばにいってはもらえないかな…紅、さん?」
彼女、壊れてしまいそうだったから、と小さく呟き目を細めた。
紅が切なそうに微笑む。
紅の姿が音もなく消えた。
紅の気配が完全に消えたのを感じては大きく息を吐き出し再びベッドに横になった。
20040214
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