「アンコー、アンコぉー」
家、待機所、甘味所、一楽…。
彼女のいそうなところはあちこち言ってみたがその姿はない。
「はぁ〜…任務じゃないはずなんだけどなぁ。どこいっちまったんだろ」
道を走り、屋根の上をぴょんぴょん跳ねて里の中心をもう一通り回ったがやはり見つからない。
「あ〜ぁ、一緒にお団子食べようと思ったのに…仕方ない。待機所にでも行くか」
は諦めてヒョイッと屋根から飛び降り、待機所の方角へ足を向けた。
ギィ…。
「…ちぃーっす」
力なく扉を開け、部屋に入る。
そこにいた仲間達がに声をかけようとして慌てて口を噤んだのがわかった。
なにやら視線で会話しているのが肌に伝わる。
はだらんと背もたれを前にして馬に跨るように椅子に腰を下ろし大きくため息をついた。
机に顎をつけ、恨めしげにその前でカードゲームをする仲間達を見る。
「…」
「…」
その場にいた仲間たちは、とは視線を合わせずゲームを続ける。
こういう時のは非常に危険だ。
一言発すれば最後、に捕まり愚痴とも惚気とも思われる“おしゃべり”という名の拷問の餌食になる。
“おしゃべり”の大半はアンコトーク、もしくは、紅トーク。
延々4時間。
どれだけ彼女たちが素晴らしく、どれだけ自分が彼女たちが好きか、がネタ尽きることなく語られる。
その上、ちょっとでも彼らが彼女たちに対する好意的言葉を口にすると、嫉妬(?)に燃えたによって少なくともそれから2週間は精神的苦痛に悩まされなければならない。
かと言って、彼女の言葉に同意を示さなければそれはそれで同じく最低2週間の苦痛。
任務は大人顔負けにこなすというのに、こう独占欲で周りに当り散らすのは年相応に非常の子どもらしい。
…そのやり方は子どもらしいとはいいかねるが。
どっちにしてもこの“おしゃべり”の餌食となった人間にはその後2週間、災難が襲うこととなる。
その微妙な境界線が分かれば災難からは逃れられるのだが、それは非常に見極めが難しい。
木の葉の里全体を通してみてもそれを見分けられる人間は、おそらく10人にも満たないだろう。
は基本的に極一部の親しい人間に激しく愛情を注ぐ一方で、他に対しては容赦ないタイプであるので“処罰”は非常にたちが悪いものとなる。
あらゆる災難…その時々によって内容は違うが…そんなものは、できれば二度と体験したくない、というのが彼らの気持ちだろう。
そんなわけで彼らはの視線に耐えつつも沈黙を守っていた。
「…」
「…」
無言のままプレッシャーをかける。
ほんのり冷や汗をかきつつゲームを続ける仲間達。
カードの音のみが部屋を支配する。
カチャ。
部屋の扉が開き、1人の特別上忍が部屋に入ってくる。
と、ほぼ同時には動き、ヒシッとその上忍不服にしがみついた。
訴えるように男を見上げる。
その目は獲物を見つめた捕食者のそれとなっていた。
絶対話さない、という鬼気迫る目を男は不健康な顔でしばし見下ろしていたが、観念したように咳をした。
「…ゴホッ、いきなり何ですか?」
男の言葉を聞いての顔がぱっと輝き、部屋にいたほかの仲間たちは哀れみに満ちた視線を男に送る。
「聞いて、聞いて、聞いてよぉ〜、ハヤテ〜」
ヒシッと掴んだままの服のすそをくいくい引っ張る。
その目は猫じゃらしを目の前で振られる子猫のようだ。
「…服が伸びます、ゴホッ」
冷ややかにを見下ろすハヤテ。
そんなハヤテの言葉はの耳には届いていない。
「アンコがいないんだよぉ〜。一緒に新作団子食いに行こうと思ったのにぃ〜」
服にしがみついたまま泣きまねをする
「アンコさん、ですか?」
「アンコだよ〜。任務は行って入ってはずだしさぁ〜。ハッ!?まさか俺以外の奴とどっか行ったとか!?!?」
の妄想はとどまるところを知らない。
頭を抱え、なにやらブツブツと唱えだす。
「…俺、なんか悪いことしたかなぁ〜。最近はお菓子とってないし、飲み会にも飲まないけどちゃんとついていってるし、血ついた後は念入りにシャワー浴びてから遊びに行くし…」
「アンコさんなら石碑のところにいらっしゃいましたよ、ゴホ」
ぴたっとの動きが止まる。
しん、と静かになる待機所。
「…ゴホ」
ハヤテ咳を1つ。
「マジで?」
ギギッ、とぎこちない動きでハヤテの顔を見上げる。
「ゴホッ…はい。さっき見張りのゲンマさんの所に伝達に行った帰りに見かけましたから」
「…」
「おそらく、まだいると思いますよ、ゴホッ」
「…」
「…」
静かに見つめ合う2人。
「任務入ったら代わりに誰かやっといて〜っ!!」
の姿は風のごとく消えた。
周りにいた面々はほぉ〜っと安堵の息を吐き出す。
「いってらっしゃい…ゴホッ…相変わらずあわただしい方ですね」
ハヤテは何もなかったように所定の位置につくと書類を取り出し仕事を始めた。
「ゴホッ…」
ようやく、待機所に平和が訪れた。
(Fin.)
20040510
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