「おまたせしました」

「はいはい、どうも〜。あっこれさげて〜」

ざわざわと騒がしい居酒屋。

部屋の改装&大掃除のお礼としてアンコはを行きつけの店へと連行した。

アンコは上機嫌で店員からグラスを受け取り、代わりにそれまで手にしていた空のグラスを店員にわたした。

アンコの頬はほんのり赤く染まり、口元はへらへらと緩んでいる。



「…もう、いい加減にしとけよ」

頬杖をつき、は呆れ顔で目の前の酔っ払いを見る。

その手に持たれたノンアルコールのソフトドリンクの氷がカラカラと音を立てている。

氷は大分小さくなっていて味が薄まってしまったそれはすでに飲めたものではないだろう。



「酒、そんなに好きじゃないくせにこんなに飲んで」

はそう言って聞こえるようにわざと大きくため息をつくが、すっかり出来上がってしまっているアンコには馬の耳に念仏…というやつで。



「んん〜好きよ〜お酒〜。おいしいし〜。楽しいし〜」

アンコは店員が持ってきた新たなグラスに口をつけた。



「嘘つけ。居酒屋に行きたがるのって酒好きっていうより飲み会の雰囲気が好きなだけだろ、アンコの場合。酒好きっていうなら紅お姉様みたく一人でお酒飲めるようになってから言えよな。ったく未成年の俺を連れまわしやがって。…どうしたんだよ?今日のアンコなんか変だぞ」

「あは〜。飲み会好きだけどお酒も好きよ〜」

ケラケラと笑うアンコ。

微妙に会話がかみ合っていないような気がするのは俺の気のせいじゃないよな、とは先ほどよりさらに疲れた表情になる。



「あぁ、そうですか」

もう何を言っても無駄だろう、とはそうアンコの言葉を流して本日何度目になるか分からない…すでに二桁にたっしているであろう…ため息を大きくついた。



「ん〜も〜、ため息ばっかりついて辛気臭いわね〜。ちゃんと飲んでる〜?」

バシバシとの背を叩くアンコ。



「…はいはい、飲んでますよぉ〜」

は絡み酒が入りかけているアンコに持っているグラスの氷をカラカラとならして見せた。



「ん〜よろしい」

アンコは満足げにグイッと持っていたグラスをあおった。



「お酒はいいわよね〜」

アンコはアルコールメニューを制覇する勢いで飲み進めていく。



「ほどほどにしとけよ〜」

は上機嫌なアンコを横目に小さく肩をすくめると目の前にあった大皿に盛られているつまみを口に運んだ。















「…ほどほどにしとけって言ったのに。俺じゃアンコかついで帰るなんてまだできねぇぞ」

酔いつぶれてテーブルに突っ伏して寝てしまったアンコの寝顔を見ながらは口元に笑みを浮かべた。



「これじゃ、どっちが年上かわかんねぇな」

「んん〜…」

寝ているアンコの頬をつんとつつくと、眠りが浅くなったのか、アンコは不愉快そうに眉を寄せた。

それを見たの顔がさらに緩んだ。



「おもしれ〜」

くすくすと声を殺して笑い、はアンコを起こさないように注意を払いながらつんつんと頬をつつきだす。



「  」



アンコがの指先を幼子のように握り、そして、小さく呟いた。

は指先を握られたまま大きく目を見開き固まった。

寝ているアンコの口から噤まれた言葉。



“…先生”



顔をこわばらせ、切なげに、そしてどこか愛しげにアンコは呼んだ。

横を通りすぎた店員がこわばった表情でアンコを見ているにかけた声も、そのときのには届いていなかった。










2004.10.10.










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